暴力団とIT その2 ゆびとま社長逮捕 | IT徒然草 (gaia)

暴力団とIT その2 ゆびとま社長逮捕

先日、「暴力団とIT 」という記事を書いたところ、タイミング良く?「ゆびとま社長が逮捕。しかも元暴力団組長」というニュースが出てきた。

ゆびとまのCEO逮捕、破産したアドテックスでの民事再生法違反容疑(Impress Internet Watch)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/02/19/14818.html

ネットが流行り始めた頃に私もゆびとまに登録していて、確か小久保さんという女性が創業者社長だったはず、と思って少し調べてみると既に退任されていて、社長は全然違う人になっていた。

以前の記事で「IT企業の中には暴力団のフロント企業となっているようなところもあるのかもしれない」と書いたこともあり、どのように「元暴力団組長」はゆびとまに侵入していったのか気になって今回の事件を調べてみたのだが、非常に複雑怪奇な状況であった。

なんとか分かる範囲でチャート図にしてみた。赤文字が今回逮捕された容疑者が絡んでいそうな部分。
ゆびとま (クリックで拡大)

■今回の逮捕容疑 ~「アドテックス」という会社~

今回の逮捕劇はゆびとまに直接関係したものではない。逮捕された下村好男容疑者(解任されたゆびとま社長)の容疑は「民事再生法違反(詐欺再生)」というもので、副社長を務めていた「アドテックス」という会社に関するものである。

民事再生手続きとは倒れ掛かった会社を再生させることを目的としたものであるが、この下村容疑者は、06年5~6月に自身が社長を務めていたNSSという会社からERPを高値で購入し、アドテックスの残された僅かな資金を不当に流出させたということらしい。いわば、悪質な火事場泥棒といったところか。

また同時に、アドテックス社長であった前田大作容疑者も同じ容疑で逮捕されているが、この下村・前田ペア(プラスもう一人)がいくつもの会社で暗躍していたようだ。

前田容疑者は06年3月にアドテックス社長に就任するのだが、報道によれば、それ以前の04~05年に赤字に陥り始めたアドテックス社が「日本スポーツ出版社」(これまた前田容疑者が社長)との間で架空取引を行い、決算を粉飾させたとのこと。前田容疑者はその弱みにつけこんでアドテックスを乗っ取ったとある。

粉飾つけ込み乗っ取り、アドテックス元社長を逮捕(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070220i401.htm

つまり、弱った爺さんに「これを飲めば楽になれる」と言って毒薬を飲ませたあげくに家を乗っ取り、火をつけた上に金庫に残った金をヨソに持ち逃げするようなイメージだろうか。

そもそもアドテックスという会社は、日本IBMでHDDの開発・製造に携わっていた関係者を中心に1993年に設立された企業だそうだ。ナスダックジャパンにも上場していたものの、赤字になり始めた2005年あたりに迷走を始める。業績が傾いた企業の哀れな没落ぶりだ。

と、ここまではゆびとまに関係の無い話。

■ゆびとまは乗っ取られたのか? ~05年11月からの5ヶ月間に起きたこと~

肝心のゆびとまに話を戻そう。創業者の小久保氏は90年に長崎で「有限会社ヌーベルバーグ」を設立、96年「ウェブ同窓会 この指とまれ!」というネット上の同窓コミュニケーションサイトで350万人の会員を集め、SNSの先駆け的なポジションを確立したが、経営環境が激変したのは05年11月~06年4月。

まず05年11月7日にGRIPという学生向けコンテンツ系ベンチャー企業へ第三者割当増資を行い、ゆびとま株の21.9%を取得してもらうと同時に、小久保氏は取締役名誉顧問に退くが、この時点では創業者グループは51%の株式を保有しており乗っ取りの影は薄い。

ゆびとま、GETTIグループと資本業務提携。上場目指し新体制へ(Venture Now)
http://www.venturenow.jp/news/2005/11/07/2305_010589.html

同時に、GRIPは「ゆびとまエージェンシー」という社名に変更。営業力や企画提案力などの向上を目指した営業総代理店グループ会社と位置づけたものの、わずか1ヶ月後の株主総会において、1:1の株式交換によるゆびとま自身への吸収合併を決定。

ゆびとま、ゆびとまエージェンシーを吸収合併。資本提携から融合へ(Venture Now)
http://www.venturenow.jp/news/2005/12/12/1118_010779.html

私が推測するに、「ゆびとま」という企業にとっては実はこの1ヶ月が大きい転機だったのではないかという気がする。

というのも、11月8日時点でのGRIP社株の87%は親会社のGETTI社のものだったのが、11月25日に前出の「日本スポーツ出版社」へ第三者割当増資を行ってGRIP社株の46.2%を保有する筆頭株主になっていたのである。

つまり、わずか1ヶ月弱のうちに前田容疑者側に10%近くの「ゆびとま」株と半分近い「ゆびとまエージェンシー」株が渡っていたということ。なぜGRIP社側が株を譲渡していたのかは不明なのだが。

で、06年1月付のこの株式交換で結局「ゆびとまエージェンシー株」が「ゆびとま株」に変わり、過半数近くを入手したと推測される。

そして決定的なのは、06年2月に更に「日本スポーツ出版社」へ一部の株式を譲渡して子会社化されてしまったこと。

ゆびとま、株式一部譲渡で日本スポーツ出版社の子会社へ(Venture Now)
http://www.venturenow.jp/news/2006/02/07/1249_011016.html

この時点で前田容疑者側に過半数の株が渡り、創業者グループは25%の株式保有に成り下がる。創業者である小久保氏は取締役名誉顧問を退任し、入れ替わるように前田容疑者が社長に就任。ゆびとまの経営は大きく舵を切る結果となった。

それにしても、なぜこのような株式交換が行われ、そして日本スポーツ出版社へ株式を譲渡したのか。騙されてしまったのだろうか。そしてこの時点で前田容疑者という人物をどれほど理解していたのか。もしかすると、上場を夢見て第三者割当増資で資本強化しようとしたものの、先方の素性に気付き慌てて株を取り戻そうとして失敗したのか。それとも、06年1月付の株式交換の時点で既に過半数を握られていたのか。

例えて言うなら、仲間と思った会社に分け前をあげた後に仲間の親分が悪者にすり替わっていたのに気付かず、仲間を家に引き込んだら乗っ取られてしまった、というイメージなのだろうか。

はたまた、創業者の小久保氏が力の限界を感じて他社に経営を委ねようとしたのか。実はこの05年12月に小久保氏は長崎知事選へ出馬宣言。その年の9月はホリエモンの選挙戦が世間を賑わせたが、何か感じるものがあったのだろうか。06年2月の選挙結果は落選となったが、時はまさに経営転換の頃と一致。ゆびとま株売却益を選挙資金に充てたと推測するのは容易なのだが、選挙戦はカンパとボランティアというスタイルで、この株式譲渡がどの程度関係したのかは具体的には分からない。

小久保氏が出馬表明(長崎新聞)
http://www.nagasaki-np.co.jp/press/tiji/2006/kiji/35.html
小久保 徳子氏 市民型選挙の行方注目(長崎新聞)
http://www.nagasaki-np.co.jp/press/tiji/2006/kikaku1/01.html

この辺の経緯については今のところ詳しい情報が出ていないが、何かしら絡み合った事情があるに違いない。

その後の経過は速い。06年3月にはあの下村容疑者が副社長に招聘され、06年4月には前田容疑者から株式を譲渡され社長に就任。前田容疑者は取締役として経営陣に居残った。ゆびとまは、下村・前田ペアの支配下に収まってしまったのだ。

報道によれば下村容疑者は、ゆびとまでもNSS社からシステムを購入させ利益を得ようとしていたらしい。背任行為の疑いもある。

■インデックスに高値で売り飛ばそうとした下村・前田ペア

架空売上計上の疑いでアドテックスに警視庁の家宅捜索が入った06年10月。その頃下村・前田ペアは、インデックス社にゆびとま株の譲渡を持ちかける。50.5%の株を譲渡して子会社化させる基本合意まで取り付けたものの、約1週間後に合意は解消。

ゆびとま、日本スポーツ出版社からインデックスHDの子会社へ(Venture Now)
http://www.venturenow.jp/news/2006/10/31/1911_013392.html

インデックスHD、ゆびとまの買収から一転、合意を解消。困惑するゆびとま(Venture Now)
http://www.venturenow.jp/news/2006/11/10/2042_013447.html

下村・前田ペアはゆびとまの取得に3億6000万近くを注ぎ込み、インデックスに6億7000万で売却しようと考えていたらしい。いわゆる高値転売であるが、インデックス側は相手の素性を把握していたとの話も。

「ゆびとま」も乗っ取り売却益狙う アドテックス事件
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0702/19/news020.html

流れをおさらいすると、日本スポーツ出版社・GRIPという会社を踏み台にして「ゆびとま」というIT企業を獲得した両容疑者は、高値で売り飛ばすことを画策するも失敗。破産したアドテックス社での悪事をきっかけに逮捕されてしまった、ということに他ならない。

■「元暴力団組長」という肩書き

これまでの経緯をなぞってみると、二人とも経済ヤクザの臭いがプンプンする。そもそも捜査しているのが「警視庁組織犯罪部組織犯罪対策第三課」。つまり暴力団対策の部署である。

下村容疑者については、01年まで山口組系弘道会系列の組長だったとの報道がある。弘道会というのは山口組六代目司忍組長の出身母体であり、名古屋に本拠地があるらしい。2ちゃんねるのアウトロー板では、司忍組長の娘婿説や司組長の保釈金10億を用意した人物説まで流れているが、これは真偽の程が定かでは無く、どちらかというとガセネタではなかろうか。

元暴力団組長という肩書きをどう捕らえるかは人によって異なるだろうが、単純に暴力団の世界から足を洗ってカタギになったと思うのは早計ではなかろうか。以前の記事にも書いたように、暴力団員の人数は「構成員」<「準構成員」となってる時代だ。いろいろな形で出身母体や関連団体と関わりがある可能性は強いと考えるのが筋だろう。

■まとめ ~アメーバーのように迫り来る黒い闇~

調べて分かったことは、架空取引や第三者割当増資先をきっかけにして自社に得たいの知れない勢力が迫ってくるということ。そして一度会社が踏み台にされてしまうと、そこを拠点にいろいろな会社が餌食にされていくということだ。コンピュータウィルスの拡散やクラッキング手法、もしくはアメーバーの広がりにも似たものを感じる。

私は会社を経営していないので直接そのような被害に遭うことは無いが、自分達の個人情報がこういった事件を通じて何かしら流出するような危険が無いとは言いきれない。

そういえば、昨日ゆびとまからメールが届いた。
==========================================
一部の報道や風評により、「この指とまれ!」に関する個人情報の漏洩や悪用の恐れ、暴力団との関わりなどが取り沙汰され、ご不安に思われていることと存じますが、そのような事実は一切ございませんことお知らせいたします。個人情報をお預かりしておりますサーバセンターへの入室は毎時必ず記録をとっており、サーバにアクセスした個人を特定できるほか、サーバへのアクセスは社内のみに限定するなど徹底した情報管理を行っております。また、過去に情報漏洩も無く、今後も管理上全く問題はございません。今回の報道を受け、あらためてサーバへのアクセスログを確認しましたが、個人情報の不正な流出の事実はございませんでしたので、どうぞご安心ください。
==========================================
とのことだ。

高値で会社を売り飛ばそうとした人間を社長に据えてしまったことを考えれば、この内容は眉唾ものなのだが、関与した人間の顔ぶれとその目的感覚を推測すると流出の可能性は低いのでは、というのが私の直感だ。

いずれにせよ、ゆびとまが今後再生を果たして信頼回復を果たすことができるのか、注目である。

関連記事へのリンクはこちらがまとまっており、参考とさせてもらった。

アドテックス事件(フレッシュアイニュース)
http://news.fresheye.com/clip/6016450/news/