『ガンプラり歩き旅』その36 ~モビル・スーツの形をした、水陸両用メガ粒子砲台、その名もゾック!~
2021年6月22日 更新

『ガンプラり歩き旅』その36 ~モビル・スーツの形をした、水陸両用メガ粒子砲台、その名もゾック!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第36回は、ジオン水泳部ラスト。巨大なボディで鈍重なゾックのHGUC版です!

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アマゾン川流域で、ジャブロー連邦軍入口を捜すゾック

アマゾン川流域で、ジャブロー連邦軍入口を捜すゾック

私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。

今回紹介するのは、ジオン水陸両用モビル・スーツであり、ジオン初のメガ粒子砲搭載モビル・スーツでもある、ゾックのHGUC版の登場です!


ゾック 1/144 HGUC 081 2007年7月 2500円

HGUCゾックのパッケージアート。ジャブローで暴れるゴ...

HGUCゾックのパッケージアート。ジャブローで暴れるゴック部隊を率いるゾックの図

ゾック! ゾック、ゾック、ゾックゾック、ゾック! ……って! “それ”は『樫の木モック』(1972年)だぁあっ! のゾック!
ゾック!
ジオン水泳部の中でも一番の巨体で、ようするにゴレンジャーでいうところのキレンジャーみたいな立ち位置かと思いきや、意外にジオンモビル・スーツで最初にメガ粒子砲を搭載したという歴史に名を刻んだゾック!
ゾック!
前が後ろで、後ろが前のゾック!
というわけで、ジオン水陸両用モビル・スーツでも、最大級のインパクトがあるゾックのHGUCは、シリーズが2度目の『機動戦士ガンダム』(1979年)登場モビルスーツキット化の波のさなかの、2007年に発売された。
これは、少なくとも「初作『機動戦士ガンダム』アニメ本編に登場した、ジオンのモビル・スーツの商品化」としては、オーラスを飾ってしまったゾック!
完成したHGUCゾック。威風堂々とした貫禄まで伺える余...

完成したHGUCゾック。威風堂々とした貫禄まで伺える余裕の巨体!

さて、このゾックという機体。
上でも書いたが、ジオン発のメガ粒子砲搭載モビル・スーツであるため、ジオンの開発力ではまだこの頃はメガ粒子砲システムの小型化が完成していないために、ゾックは巨体になったという裏設定が、今では一定以上のエビデンスを伴って認知されている。
それも道理で、このゾックの大きな特徴が「メガ粒子砲が撃てる」と「機体の前面と後面が、全く同じつくりである」という、いきなり2番目の特徴からして、ビックリどっきりメカレベルの代物になってしまっている辺りからして、「どうなのよ」感が満載。
劇中再現より。海中でやはりゴックを従えて、偵察任務にあ...

劇中再現より。海中でやはりゴックを従えて、偵察任務にあたるゾック

挙句に、アニメ本編の描写では、移動は主に水中を泳ぐ形が殆どで、地上では棒立ちのメガ粒子砲の砲台みたいな描かれ方をされていたため、今では「一応ゾックには足はついているが、実際の歩行能力はないに等しい」などという、「足なんて飾り」を、ジオングに先駆けること1クールでやってました的な、それでもモビル・スーツに脚は必須だと言い張る上層部の要請で、仕方なく足に見える2本の支えはつけときましたからね的な、ジオン驚異のメカニズムの裏側に流れる、開発側の哀愁みたいなものまで垣間見えてしまうという悲喜こもごものゾックなのである。

しかもゾック。
資料によると、ゾックは3機が試作的に作られたのみとされていて、アニメ版に登場したのは1機のみだが、1号機は輸送中に戦艦ごと撃破され、『ガンダム』劇中に出てきたのが2号機。そして3号機はジャブロー攻略後に回収されたその後は行方不明という……なんというか、ツッコミどころと言うよりは、むしろツッコむのもかわいそうなレベルで“実験くん”だった模様。
川の上に姿をあらわすゾック!

川の上に姿をあらわすゾック!

しかも、決して意図的ではないものの、その「前から見た姿と後ろから見た姿が同一」という、何を狙ったのか、狙い過ぎたのかというデザインコンセプトもびっくりだが、デザインそのものは、今で言う「ゆるキャラ」的な可愛さを蓄えているものの、「『ガンダム』のモビル・スーツ」で「ネタ的に可愛い」で「ジオンの水陸両用モビル・スーツ」という枠においては、現代ではアッガイがその位置で、不動の人気を誇っており、ここでも物悲しい扱いになっている辺り、もうなんとか誰かフォローしてやってくれよ的な状況になってしまうのである。
設定どおりに、全てのパーツが前後対称なゾックの側面からの一枚

設定どおりに、全てのパーツが前後対称なゾックの側面からの一枚

そういう意味では、ゾックのHGUC化は、後にも先にもこのタイミングしかなかったとも言えるわけで、テレビシリーズのDVD-BOXと、劇場版映画版3部作の通常版DVDが発売された、この「今が旬」を逃せば、二度とキット化のチャンスはなかったかもしれない。
もっとも、バンダイの1stガンダムに対するリスペクト的な拘りからすれば、1stガンダム登場のモビル・スーツは、全種HGUC化する気概はあったのだろうから、遅かれ早かれという意見も的を射ているのであろう。
それを証明するかのように、2012年以降は、『機動戦士ガンダムUC』(2010年)にフックをひっかける形で、ジュアッグやゾゴッグなどの、ジオン水泳部没モビル・スーツ群がキット化される辺りまでワンセットで「歴史は繰り返す」のであるが。
上面から見ても、前後一致するゾック独特の形状が分かる

上面から見ても、前後一致するゾック独特の形状が分かる

では、HGUC版ゾックはどの程度に80年代初頭のガンプラブーム時の初商品化キットに対するアドバンテージがあるかというと、実は意外と大差なかったりするのだ。
最初の1/144 ゾックは、ガンプラブームがピークに向かっていたころの、1981年9月に発売された。
その1/144キット発売順としては17番目で、後に残っていた未商品化モビル・スーツは、ボールと旧型ザクくらいというラス前時期。そこは当然マイナー機体ゆえに商品化の順番は遅かったのだが、むしろ商品化が遅いということは、バンダイの開発や設計も、ガンプラのノウハウを充分蓄積できたタイミングで商品化されるということでもあり、もともとのデザインが、そもそも立体として可動させることがほぼ不可能な二次元の嘘で構築されていたのだが、それでも脂が乗り切っていたバンダイは、1/144 ゾックを、アニメデザインのまま、可能な範囲でフルアクション仕様で発売したのだ。
造形的にも、アニメのメカ設定のデザインに忠実に立体化され、ここで既にゾックは「1/144としては決定版」がいきなり完成するという幸福に見舞われたのである(同じことは、ゾックの後に商品化されたボールにも言えた)。
ゾックの下半身。可動ギミックは全てに仕込まれているが事...

ゾックの下半身。可動ギミックは全てに仕込まれているが事実上動かない

そこから四半世紀を経てのHGUC化の、今回のゾックなのであるが。
ズゴックやザク、ガンダムやゴッグなどでは劇的であった「HGUC化による進化」が、ゾックの場合どの程度起きたかを見てみると、実は可動範囲はほぼ進化なしなのである。
HGUC版ゾックは、せめて腕だけでも自在に動かせるようにと、肩の多段アーマー個々に可動範囲を設けるなど、さすがイマドキのHGUCの名に相応しくフルアクションにチャレンジしているのであるが、実は手法とアプローチの角度は違うが、HGUC版ゾックの可動領域とほぼ同じ範囲を、旧1/144キットは既に確保しており、それはむしろ脚部の「可動ギミックはちゃんと仕込んだのだけれども、実際にはほぼ動かない」も同一で、また、HGUC版ゾックではモノアイがレールに沿って自在に動かせるが、実は旧キットもモノアイは別パーツで、両面テープというローテク前提ではあるが、いつでもモノアイを好きなところに配置を変えることが自在な仕様。
つまり、こと可動という面だけで比較すると、ゾックのHGUC化の恩恵は「両手の黄色いクローのフレキシブル可動」ぐらいのものであったりする。
節ごとにフレキシブルに可動する、HGUC版ゾックのクロー

節ごとにフレキシブルに可動する、HGUC版ゾックのクロー

では、色分けはどうか? という話になれば。
もちろん旧キットは単色塗装必須の仕様であり、一方でHGUC版は色分けはほぼ完璧で、色分け補完用のシールさえ不要な完璧さを誇るのであるが。
では旧キットは、そんなに塗装が困難かというと、成型色のライトグリーンをそのまま活かす前提であれば、部分塗装で必要なのは、クローの黄色、モノアイレールの黒、モノアイのイエロー、全身各所のメガ粒子砲のピンクぐらいのものであり、また旧キットはパーツ分割も素晴らしく、それらのクロー、メガ粒子砲、そしてモノアイまでもが別パーツ化されていたので、パーツ単位で塗装するのがとても楽な仕様であったため、ここでもHGUCの優位性は劇的とは言い難い。
モノアイは、レールを通ることでモノアイレールのどこに配...

モノアイは、レールを通ることでモノアイレールのどこに配置することも可能

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