ウルトラマン80
それまでのウルトラマンよりも柔和な表情だったウルトラマン80
しかし、1979年、シリーズ初のアニメーション作品となる『ザ☆ウルトラマン』で再開され、その成功を受けて本作が製作されました。
実写作品としては5年ぶりで、80という名は「1980年代の新たなウルトラマン」を由来とします。
Ultraman 80 opening [ full version] - YouTube
「ウルトラマン80」物語の背景
教師とウルトラマンを掛け持ちした主人公
そんなある日、桜ヶ岡中学校に新人教師・矢的 猛(やまと たけし)が新しく赴任してきた。「一所懸命」をモットーとする彼は早速、1年E組を受け持つことになったが、5年ぶりとなる怪獣復活を確信して個人的に調査を続けていた。
猛こそ、M78星雲から秘密裏に地球に派遣されていたウルトラマン80の仮の姿だった。人間の負の感情・マイナスエネルギーが怪獣を生み出すということに気付き、それを根本から断つために教鞭を取っていたのである。
5年ぶりに出現した怪獣クレッセントを倒した後、猛は地球防衛軍の極東エリア・UGMのオオヤマ一樹キャップからのスカウトを受け、UGMに入隊。UGM隊員と教師という2つの職業とウルトラマンをかけもちしつつ、怪獣と戦っていくことになる。
【ウルトラマン大百科・ウルトラマン80】大好きだったウルトラマンシリーズを「超能力・必殺技」「戦った怪獣・宇宙人」「地球防衛軍」などで振り返ろう。 - Middle Edge(ミドルエッジ)
児童殺人や自殺といった暗い世相に配慮した「ウルトラマン=先生」というドラマ設定
80年代当時に社会問題化した校内暴力や自殺
こうして、当時の子供たちを取り巻く不穏な世相を象徴する形で、「地球人の憎しみ、悲しみなどの邪悪な心(マイナスエネルギー)が怪獣を生み出す」という設定を導入し、ウルトラマン80は怪獣と直接戦うだけではなく、「怪獣を生み出す人間の邪悪な心を正すため、教師として子供たちの教育に取り組む」というドラマ作りが行なわれた。
主人公が学校教師である点は、当時流行した同局のテレビドラマ『3年B組金八先生』や日本テレビ系のテレビドラマ『熱中時代』などと共通しているが、このコンセプトは『ウルトラマンレオ』終了時にはすでに存在していた。
湯浅監督は、賛否両論のあるこの「主人公を単に防衛チームの隊員ではなく、教師にした」という設定は、安易に当時の「先生物」のブームに便乗したわけではなく、プロデューサーの「なぜいま、ウルトラマンを作らなければならないか」という問いかけに応じたものであり、「万能」のウルトラマンに「先生」という肩書を加え、「昼間、授業中に怪獣が出たらどうするのか」といった葛藤から生まれるドラマに主眼を置いたものだったとしている。
テーマは「いま、ウルトラマンを復活させる意義は何か」
ウルトラマンの意義
そして、TBS側によって湯浅監督や平野靖司、土筆勉ら円谷プロ系でない外部の新しい監督や脚本家が集められ、「新しいウルトラマンをどうするか」との論議は放映開始後も熱く戦わされた。
本編監督には、大映で昭和期の「ガメラシリーズ」全作を担当し、大映倒産後は『刑事犬カール』(東京映画、1977年)などのTBS系のテレビドラマを多く手がけた湯浅憲明がメインに迎えられた。湯浅は本作に携わる前に、大場久美子主演版のテレビドラマ『コメットさん(第2期)』(制作した国際放映と、当時の円谷プロは共に東宝系列の会社であった)で、ウルトラマンタロウやウルトラマンレオがゲスト出演するエピソードを局と組んで監督している。そのほか、松竹出身の広瀬襄や、大映テレビの作品を数多く手がけている合月勇が演出陣に加わっている。
設定が二転三転してしまう事態に
「学園モノ」設定が続かなかった
こうした中で、「学園物」設定を主張した橋本プロデューサーが放映途中でラジオ部に異動。これを受け、TBS編成局は「やはり昔のスタイルでいこう」と円谷プロ側に伝えてきた。こうして、第13話以降は「学園物」の設定とともに、矢的猛の「学校教師」としての設定は切り捨てられ、UGMを舞台として隊員たちの活動を描く従来の「ウルトラマンシリーズ」のドラマに路線変更された。
設定上、第13話以降も矢的猛は教師を続けていたのかどうかは劇中では語られておらず、湯浅監督は本作を振り返り、「ウルトラマンの力に対する制限は、結局、円谷プロ側が許さなかった」、「中途半端になって、後悔の多い作品になった」と語っている。
設定変更後は、初期ウルトラシリーズを彷彿とさせるシリアスなSFドラマが志向されたが、視聴率は設定変更前よりも下がり、第31話でふたたび路線変更され、「毎回子どものゲストが登場して怪獣と絡む」というコミカルでファンタスティックな作劇に変わっている。同時に番組の構成が、番組タイトルからアバンタイトルを挟んでオープニングへと移る形式に変化している。
シリーズ初の「女性戦士」起用
監督の満田かずほが当初、書き込んでいた最終回の草案にはユリアンは登場せず、前後編で構成されていた。しかし、放送枠が特番で押されて足りなくなり、実際の最終回(第50話)での80の登場は過去の怪獣との戦闘場面を流用したダイジェスト的な場面が大半となった。
このようにストーリー全体が4つのパートに分けて考えられることから、第1話 - 第12話を「学園編」、第13話 - 第30話を「UGM編」、第31話 - 第42話を「少年ドラマ編」、第43話 - 第50話を「ユリアン編」などと呼称する文献もある。
ただし、この呼称は公式のものではなく、第43話以降も「少年ドラマ編」と作劇イメージは同一であるため、「ユリアン編」は「少年ドラマ編」の後半部とも言える。第31話以降でも、比較的SF色の強い話やシリアスな話も存在した(第32話、第35話、第49話など)。
残念ながら視聴率で苦戦する結果に
こうした数々のテコ入れも効を奏することはなく、平均視聴率は10.0%(ビデオリサーチ関東地区調べ)と低迷。『レオ』の平均視聴率10.9%を更に下回る結果となった。
TBS側の意向を取り入れて失敗に終わったことに不満を抱いた当時の円谷プロダクション社長の円谷皐がTBSへ抗議したことで当時の編成局長と対立し、円谷プロの幹部はTBS役員室への出入りが禁じられるまでに至った(もっともTBS側の意向を取り入れた序盤より、当初は円谷プロ側の希望でもあった「教師設定」削除後のほうが視聴率は低かった)。
これによりTBSとの共同制作によるゴールデンタイム枠のウルトラシリーズは本作で終了した。国内TV番組としての「ウルトラシリーズ」は1996年に『ウルトラマンティガ』(毎日放送)が製作されるまで15年半に渡って休止した。
そして、『ウルトラQ』から本作まで連続してきた物語は、25年後(2006年)の『ウルトラマンメビウス』(中部日本放送)で再開するまで待たされることとなる。
特撮技法について
コストを抑えつつ高いクオリティを実現
続く本作も同様で、第6話のUFO出現シーンも、特技監督の高野宏一によれば、わざと『未知との遭遇』そっくりに撮影しているという。高野はこういったカットについて、『スターウルフ』での特撮と併せて「アメリカほど金をかけなくともTVでこれくらいの画は撮れる」との円谷プロ特撮スタッフの「自信の現れで一種の挑戦」だと語っている。特撮班の撮影日数は週に4、5日というペースであり、高野は「もう2、3日あればもっと内容の濃い特撮を撮れた」とコメントしている。
本編監督として参加した湯浅は、特撮スタッフと衝突することが多かった。円谷プロは本来、特撮技術者の集団であり、本編フィルムと特撮フィルムの編集権をめぐって、激しいやり取りもあったという。
湯浅はウルトラシリーズでの防衛チームの存在意義が薄い印象を持っていたため、「怪獣をUGMが倒したところでウルトラマンが現れる」というストーリー案を出したところ、円谷プロ側から「ウルトラマンを馬鹿にしてるのか」と神を冒涜したかのような怒りを受けたという。
湯浅によると、一度撮影中に怪獣のぬいぐるみが火薬の引火で全焼してしまったことがあったという。あっという間のことで、スタッフともども何もできなかったそうで、撮影を見学していた小林千登勢から「あれでいいのか?」と聞かれ、湯浅は「あれでいい」と必死でごまかしたという。
UGM基地は野外滑走路が設けられていて、スカイハイヤーやシルバーガルなどの離陸シーンでは、実在の戦闘機を改造した主力戦闘機が多数周囲に駐機していたり、現実にある管制塔での作業シーンが合成されるなど、現実感重視のミニチュアワークが見られる。基地自体が厚木付近に所在している設定であり、リアルな描写となっている。
高野は放映当時、「『ウルトラマン』の怪獣の魅力みたいなものと『ウルトラセブン』のメカニックな面白さをうまく組み合わせてみたい」と意気込みを語っていた。
合成場面における新技術として、従来のリアプロジェクションよりも画質が鮮明なフロントプロジェクションを多用しており、コストを低減させながらも人物と特撮情景の融和に効果をあげている。
見せ場である都市破壊も、極めて精巧なミニチュアが製作され、特にナイトシーンなどでは優れたライティングで迫真の効果を挙げた。円谷プロとしては「ウルトラシリーズ」自体は数年のブランクがあるものの、『恐竜3部作シリーズ』、『メガロマン』など他社作品を含め、現場制作を絶やさなかったスタッフ陣の実績がこれを支えた。
作品全体のデザインは、円谷作品ほかで池谷仙克の美術助手を務めた山口修。山口は本編・特撮両方の美術を担当し、80や宇宙人・怪獣、UGMのヘルメット、隊員服、基地セットなどを手掛けている。
ネガティブな反響も
暴力を想起させる描写への風当たりが強かった
その内容は、第7話における暴力的な表現の回数や内容が、細かい統計データとして集計されており、更には「主人公が軍人であり共感できない」「サイレント作戦は戦時中の灯火管制を想起させ悪印象である」といった細部の演出への批判が記されていた。
この冊子については、1993年に関連書籍でその存在が紹介されファンの知るところとなった。ただし、同冊子は同時期に放送された他の子供向け人気番組についても作成され、特に本作を狙って批判する運動があったわけではない。この冊子のような指摘が実際の番組制作に影響を与えたという公式発表や証言は特に公表されていない。
ウルトラシリーズ通算第9作目であり、第3期ウルトラシリーズの2作目にあたる。