ゼータガンダム背部の2枚の大きなバインダーは、普段はゼータガンダムの背中で逆三角形シルエットを形成しているが、ウェイブ・ライダーに変形するには、取り付け支柱が180度回転して、バインダーをボディ前面に移動させ、なおかつバインダー同士がボディをピッタリと隠し、シールドを中心に隙間なく合わさり、今度は二等辺三角形を作らなければいけない。
この変形は、いわゆる「二次元の嘘」であり、歴代ガンプラでも、細かいパーツ分割でいくらでも小細工を仕込める1/100 MG以上のサイズか、1/144でもジグソーパズル的構造に特化したRGゼータガンダムでしか変形は成しえていない。
少なくともこの時期の「三次元では不可能な変形」を前にした、HGシリーズの開発技術陣の出した答えは「変形後の形状を、立体化可能なものにデザイン変更すること」という、まるでコロンブスの卵のような結論であった。
「バンダイが妥協した、変形しやすいゼータガンダムの飛行形態」と言ってしまえば身も蓋もないが、ある意味MSV的な趣もあり、なおかつゼータガンダムのバインダーをボディ前面にまで回転させるのではなく、サイドまでの90度回転に抑えておきながら、スパルタンな戦闘機に見せることが出来るという秀逸なデザイン。
模型的に充分に変形が可能で、なおかつ他の要素もクリアできるという部分で、旧HG版ゼータガンダムはこの変形を採用した。
そこでは、1987年に模型雑誌主導企画で商品展開が行われた『ガンダムセンチネル』における1/144 ゼータプラスC1の変形機能の設計と開発技術が基盤となっているとも言えたのではないだろうか。
少なくとも、無理をし過ぎたり拘り過ぎで中途半端な出来の代物に「ハイグレード」の冠をつけるよりは、逆転の発想でデザインを変えることで、他の要素をこぼさずに拾い尽くすという選択肢は、この時点では満点とはいえないものの、ベストであったことが伺える。
上半身は優秀。もともと放映当時の旧キットでも優秀だった肘の角度は90度。肩の開きも、今のHGUCと比較すると勝負にもならないが、元々の肩アーマーのデザイン的に、三次元で立体化するのであれば、ここまで開くのが普通に考えて限界だろう。
最新のHGUC ゼータガンダムで取り入れられた「肩脇白いプレートで開く」解釈は、アニメでの可動と比較すると違和感が半端ないのも事実。
サーベルがクリアパーツではないのは、まだこの時代の標準であり、大事なのはライフルのバレルが長短2種用意されていて、差し替えで銃身の長さを変えることが出来るギミックが、このキットで既に完成されていたこと。
シールドの裾が広いのは、上でも書いたがウェイブ・シューター形態時に、ボディ底面を全部隠す役目をシールドだけで請け負う必要があったからである。
このように、少なくともモビル・スーツ形態では、プロポーション、可動、オプション全てが旧キットを大幅に上回っている上に、システムインジェクションで塗装せずとも、ここまでの配色再現が可能になっている(一部シール補完あり)。
ここまでを見るだけでも、HG版ガンダムと同じインパクトとクオリティを実感できるのだが、何度も書いたがこのキット、ここからさらに、ウェイブ・シューターというオリジナル飛行形態へと変形をする。
そのプロセスを解説していこう。