アップル×バンダイのタッグでも“世界一売れなかったゲーム機”ピピンアットマークとは?
2018年4月15日 更新

アップル×バンダイのタッグでも“世界一売れなかったゲーム機”ピピンアットマークとは?

世界を変えるヒット商品を数多く生み出してきたアップル社。同社の発明品の一つで、ライセンス供給先のバンダイから発売されたゲーム機が、『ピピンアットマーク』です。栄光の歴史を歩むアップル×バンダイがタッグを組んだにも関わらず、まったく売れず、“世界一売れなかったゲーム機”なる称号まで獲得してしまった、この悲劇のゲーム機について今回紹介していきます。

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輝かしいアップルの歴史に刻まれる伝説的失敗作…

「このまま一生砂糖水を売り続けるのか、それとも私と一緒に世界を変えたくないか?」

これは、1980年代前半、アップルの創業者・スティーブ・ジョブズが、当時ペプシコーラの事業担当社長だったジョン・スカリーをヘッドハンティングするために言い放ったという有名な口説き文句。事実、その後のアップルは、Macintosh、iMac、iPodにiPhoneと、世界的ヒット商品を次々と生み出したわけですから、まさしく有言実行。ジョブズのカリスマ性を示すエピソードと言えます。しかし、こうした栄光につつまれたアップルの製品開発史は、光に照らされた、いわば陽の部分。その裏側でひっそりと闇に葬られた影、つまり“失敗作”も数多く存在するということも記憶に留めておく必要があるでしょう。

今回紹介する『Pippin』も、そんな“アップル正史”にも、そしてゲーム正史にも載らない負の遺産。特に、ライセンスを買い取って『ピピンアットマーク』として販売した挙句に、多額の赤字を背負い込んだバンダイにとっては、大がつくほどの失敗作であり、思い出したくもないはずです。
ピピンアットマーク

ピピンアットマーク

「インターネットはテレビで見よう!」とCMで宣伝していた

Pippinは、『PowerPC』搭載『Mac』をベースにして開発された、簡易版『Mac OS』が走るマルチメディア・プラットフォーム。アップルはこのPippinを、3DO社が開発したゲーム機の規格『3DO』と同様に、ライセンスビジネスとして展開。結果、唯一その製造・販売権を買い取った会社が、日本が誇るおもちゃメーカーバンダイだったというわけです。

バンダイはPippinを『ピピンアットマーク』として、1996年3月から、日本およびアメリカ合衆国にて発売しました。同機種の特徴は、ピピンアットマーク用ゲームとMacintosh用ゲームが遊べるゲーム機でありながら、ダイヤルアップ接続でインターネットに接続できるという点。同じく、インターネット接続が出来るとして喧伝されたドリームキャストの発売が、1998年11月だったことを考えると、ものすごい時代を先取りしています。
ピピンアットマーク ちらし

ピピンアットマーク ちらし

実際、バンダイサイドもゲーム機としてより、インターネット接続が可能なマルチメディア機としての特性こそセールスポイントだと考えていたようで、発売当時のテレビCMでは、「インターネットはテレビで見よう!」と宣伝していました。初見では、この新商品でゲームが出来るとは誰も思わなかったことでしょう。この当時としては斬新ながらも、イマイチ分かりにくい「インターネット接続可能なプラットフォームとゲーム機のあいのこ」という立ち位置が、『ピピンアットマーク』普及の妨げになったことは言うまでもありません。

CM ETC バンダイ ピピンアットマーク誕生

お値段は、64800円!

『ピピンアットマーク』のインターネット接続サービスは、バンダイ・デジタル・エンタテインメント運営の「アットマークチャネル」に入会すると利用できました。基本料金は2000円。

「最近のWi-fiより安いじゃん!」と驚かれるかも知れませんが、しかし、10時間を超えると1分10円かかるという落とし穴も。1997年10月に15時間、2000円で利用できるようになったものの、モデム同梱の特別ネットワークセットが64800円(単品版が49800円)という事実を踏まえると、子供のおもちゃにしては割高です。

【NHM?】黒船来航?ピピンアットマーク登場!【pipin atmark】

伝説のバグソフト『たまごっち CD-ROM』など、迷作揃い…

では、ゲームはどうだったかというと、これまた微妙格闘ゲームでもアドベンチャーゲームでもなく、ドラゴンボールのキャラをお絵かきするという異色のソフト『アニメデザイナードラゴンボールZ』や、ウルトラマンパワードとピグモンを司会にしたクイズゲーム『ウルトラマンクイズ王』など、あまりワクワクしないタイトルのオンパレードでした。
ピピンソフト アニメデザイナー ドラゴンボールZ

ピピンソフト アニメデザイナー ドラゴンボールZ

特にひどかったのが、当時一大旋風を巻き起こしていたバンダイの看板商品「たまごっち」のピピン版『たまごっち CD-ROM』です。Macintosh版も同時発売されたこちらのタイトルは、「育成4日目に入る瞬間に、キャラが高確率で死ぬ」というどうしようもないバグが存在しており、プレイヤーを困惑させました。

これに対応するため、希望者に「内服薬」というアップデート用フロッピーが配られたものの、ピピン版はフロッピーのアップデートが不可能だったため、意味をなさず。これでは、ユーザーにソッポを向かれてもしょうがありません。
たまごっち CD-ROM

たまごっち CD-ROM

結局、プレステやセガサターンが激しい競争を繰り広げる中、ピピンは蚊帳の外で、売上を伸ばすことが出来ず、1997年3月期には65億円の赤字を生み、1997年5月12日をもって製造中止となります。

最終的な出荷台数は4万2000台で、在庫は5万台。マルチメディア端末ではなく、ゲームハードとしてみると「世界一売れなかったゲーム機」となり、現代までその名を残すこととなったのでした。

ピピンアットマークを実際に操作する動画

(こじへい)
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