月あかりの予感

藤子不二雄、ミュージカル、平原綾香・・・好きなこと、好きなものを気の向くままに綴ります

「チンプイ」未完結の理由を考察

2006年10月17日 21時15分30秒 | 藤子不二雄
チンプイ」は、原作が完結する前に、アニメの方が最終回を迎えました。そのため、アニメの最終回はオリジナルのお話が作られたわけですが、原作にも登場していないルルロフ殿下の正体を出すわけにも行かず、また原作が未完結ということもあり、出来る限り作品世界が「現状維持」を保てるようにと、努力された跡が垣間見える仕上がりとなっています。

この最終回については、当時の「アニメージュ」の記事で、最終回の脚本を担当された桶谷さんが、F先生から「誰も不幸にならない終わり方をして欲しい」という趣旨のことを言われたと、そのような内容のコメントを書かれていた記憶があります。(雑誌の原本が手元にないので、おぼろげで申し訳ありません)

さて、アニメ「チンプイ」の最終回が放送されたのが 1991年 4月 18日ですが、それに先立ち、「チンプイ」が掲載されていた「藤子不二雄ランド」は、同年 2月 3日に発売された「UTOPIA 最後の世界大戦」で全301巻が完結しています。これに掲載されたのが、第58話、単行本収録時につけられたサブタイトルは「遠い思い出」です(完全版第4巻収録)。後にあと2話が書き下ろされ、全60話として「チンプイ」はめでたく完結を迎える・・・はずでした。しかしその後5年間、残りたったの2話/合計30ページが描かれることなく、1996年のF先生のご逝去により、作品は永遠に未完となってしまうのです。

この僅か30ページが描かれなかった理由は、もはや私の推測に過ぎませんが、前述した「誰も不幸にならない終わり方」を望んだF先生のお言葉と、決して無縁ではない気がします。エリをめぐる、ルルロフ殿下と内木の争奪戦(?)という作品の性質上、どちらか一方がエリと結ばれるというラストであれば、「誰も不幸にならない終わり方」というのは絶対に不可能です。

そこで私が考えてみたのは、原作第17話「どうにもこうにも・・・・・・」が、ラストへ向けた伏線だったのではないか?という仮説(珍説?)です。この回ではルルロフ王子が、自分のペットである小さな花「プチフロー」を欲しがった妹のセル王女のために、クローニングで複製する、という話が出てくるのですが、チンプイとエリはその話をヒントに、実際に犬のクローンを作って問題を解決しているのです。

この第17話を「伏線」として、仮にF先生が考えておられたとすれば、SF短篇「恋人製造法」のようなラスト・・・つまり「エリのクローンがマール星へ行く」(!!!) という最終回だった可能性も、決して否定は出来ません。第1話から、既に最終回への伏線を張っていると、F先生が言われていたというようなお話も、確か「アニメージュ」等で読んだような記憶がありますが、それが「クローニング技術をも有するマール星人の科学力」だったとすれば、決して荒唐無稽な話とは言えないと思います。

ただ、F先生が仮にこのようなラスト(またはクローンではなく「コピーロボット」みたいな、同様のテイストをもつ別のラスト)を、実際に描くつもりで構想を考えておられたとするなら、それを1991年のうちに描かれていても、全く不思議はなかったと思います。大長編「ドラえもん」に比べれば、たった30ページですから、体調面を考慮しても、おそらく何とかなったでしょう。

F先生はおそらく「チンプイ」も、何らかのラストを、わりと早い段階で考えておられたと思います。私の考えでは、少なくとも「最終回のアイディアが思いつかなかったため描かなかった」というのは、描かなかった理由ではない気がします。そして、そのラストというのは、私が先程書いた「クローン説」に、もしかすると近い内容だったのではないかと思うのです。それでは、構想がありながら、何故描かなかったのか・・・

「チンプイ」は、F先生のご病気により連載が何度か中断しています。最初にどこで中断したかというと、実は「完全版チンプイ」の第1~2巻と第3~4巻、つまり第28話「ステキな星に新築計画!?」までの作品と、第29話「エリ&チンプイ・カンパニー」以降の作品とで、はっきりとタッチや作品のカラーが異なっているのです。第28話から第29話の間には、約半年のブランクがあります。そしてさらに、第32話「見てしまった結婚式」から第33話「ピヨピヨ募金会名誉総裁に」の間には、なんと実に1年以上ものブランクがあるのです。

私は、第28話を描いた頃のF先生が描くのであれば、もしかすると「エリのクローンがマール星へ」という、いわばSF短篇風なラストは、十分あり得たと感じるのです。ところが第29話以降、エリがマール星へ行くことが既定路線となっているかのような描写・・・それは未来の姿を見てしまう話(第32話「見てしまった結婚式」)や、エリとルルロフの間に生まれた子供が登場する話(第35話「あの子はだあれ?」、第42話「エリちゃんのベビーシッター」)、ついには未来の自分までもが実際に登場してしまう話(第52話「エリさま記憶そう失!?」)などが、作品後半には急激に増えているのです。

特に、未来の自分の姿を「見る」だけであれば、それがクローンやロボットの可能性も捨て切れませんが、本人が「登場」してしまう以上、もはやクローンの可能性はかなり薄くなったと考えられます。クローンなら何も里帰りなど考える必要がないためです。(もちろん「その時点」の実家へ里帰りではなく、「少女時代に」と指定したことが、逆にクローンだから=その時点には本物のエリが存在してるから帰れないから、という可能性も残されます)

F先生は病気で倒れられてから、それまでの作風とは明らかに変化した部分があります。エコロジーを前面に押し出した大長編「ドラえもん」が登場し始めたのも、ちょうどその時期です。こうしたF先生の心境の変化が、「エリのクローンがマール星へ」という当初の構想に、ストップをかけたのではないか?という推察をしてみました。一見、エリ側としてはハッピーエンドには見えますが、マール星へ嫁ぐエリのクローンの気持ちや、ルルロフの気持ちは、完全に無視されてしまうのです。(「恋人製造法」では、宇宙へ行く内男と麻理は、どっちもクローンだから問題なし)

アニメ版の第46話Bパート「エリさまがいっぱい」は、クローンとしては描かれていませんが、チンプイの科法により分裂された8人のエリが登場します。そして、その8人のエリのうち1人の「気持ち」が、マール星へ行くように仕向けたワンダユウの陰謀に歯止めをかける役割を果たしています。この話そのものはアニメオリジナルですが、なんとなく寓意的なものも感じてしまいます。

こうしたことを考えますと、F先生が最終回を描かなかった(描けなかった)理由は、つまりF先生の心境の変化が最大の原因だったのではないかと思うのです。実はF先生は、遺作となってしまった「ねじ巻き都市冒険記」を描き上げた後、「チンプイ」の最終回にも手を付けるつもりだった、というお話を聞いたことがあります。その時点で実際に描けたかどうかは、体調等を考えても何とも言えませんが、自らの「死」を意識されたF先生が、何らかの決着をつけるつもりはあったのかもしれません。そして、そのラストに、どういう内容を想定されていたのか・・・それは少なくとも「クローン」ではなかったように思います。もちろん真実はF先生のみぞ知る・・・ですが・・・

※最近、藤子ネタが少なかったので、大胆な仮説を立ててみました(^^);

補足もお読みください。何故か補足の方が長文です(笑)。


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