1979年に第1シリーズが放送され、以降断続的に第8シリーズまで放送、そして2011年に感動のファイナルを迎えた学園ドラマの金字塔、である。
と、そんな堅苦しい説明はともかく、ミドルエッジ読者の中にも「自分と同世代の金八先生シリーズに熱中した」という人は多いだろう。そしてドラマを見ているうちに、気がつけば自分も3Bの生徒の1人のような気分になり、悪ガキ男子の振る舞いに苛ついたり学級委員の女子にちょっと胸をときめかせたり。そして最後は金八先生の贈る言葉に涙する、のである。
そんな忘れじの金八先生が幕を閉じてから早5年。果たしてあの頃のボクらのヒロインたちは今何をしているのだろう……。
1995〜1996年に放送された第4シリーズの学級委員長・伊丸岡ルミ役の松下恵さんと蓑田紀美役の藤田瞳子さん。あの頃の思い出、撮影のエピソード、そしてルミと紀美は今どうしているのか……などなど、全3回に渡って金八先生第4シリーズの“マドンナ”が語り尽くします!
3回目は心に残っているエピソードをお伺いしました。
2人とも同じエピソードを挙げてくださいました。
松下さん(ルミ)
藤田さん(紀美)
いじめの回!――:おふたりともやはりそうですか! 金八先生がいじめで亡くなった子供たちのことを話したり、いじめロールプレイングをしたり……。なかなか衝撃的な回でした。
松下さん(ルミ)
「死ぬなんて簡単に言うなよ!」ってね。ロールプレイングでは金八先生もいじめに加わるじゃない。 私はただ見ているだけだったんだけど、本当にショッキングで……。 自分の学校でも、「他の回は見なくてもいいからこの回だけは絶対見てね!」って言ってまわったくらい。 それが世界を変えるんじゃないかってほど、当時の私にとっては衝撃的でした。藤田さん(紀美)
私はその教室のシーンには出ていないんですよね。だけどよく覚えてる。 そのエピソードの回って、確か最初と最後の方に私が出てくるシーンがちょろっとあって、 CMを挟んで、あとの教室のシーンはCMなしで40分くらいぶっ通しだったと思います。松下さん(ルミ)
出てないのによく覚えてるね(笑)。40分長回し?藤田さん(紀美)
たぶんね。NGが出るまでは。享大注1がいじめられっ子役をやったんだっけ。松下さん(ルミ)
うん。金八先生が加わって、あれはもう痛ましくて痛ましくて。 私は傍観者っていう役回りだったけど、もうドラマを撮っているとかそういう感じじゃなくて、本当に……。 だからルミは小学校の先生になったんでしょうね。あの授業があったから。藤田さん(紀美)
誰が首謀者で誰が悪いとかではなくて、 見て見ぬふりをしている人も同罪なんだよ、と。そういうことですよね。 美香の場合は家庭の問題も抱えていたから。松下さん(ルミ)
ルミは学級委員注2だったじゃない? だから「見て見ぬふりをしている人も同罪」というのは特に心に響いたんじゃないかな。 歩と紀美の問題もそうだけど、いじめってなんだろうと。 今も学校ではいろいろな問題があると言われますが、今だからこそあの回を見てもらいたいなと思います。 そうすれば、絶対にわかってくれることがある。藤田さん(紀美)
うん……。それだけインパクトがあったし、 今も絶対に色あせない。あれを作れるというのは金八先生の凄さでね。藤田さん(紀美)
今も当時も先生、ですね。先生以外の何物でもないというか。 空き時間でも先生だし。役者の大先輩という意味でもありますし、とにかくいろんなことを常に教わっていた感じです。松下さん(ルミ)
とにかく武田さんが博学でいらっしゃるから。 リハーサルでも自分で台本に書かれていない授業をはじめたりするんですよね。 脚本の小山内さん注3も 「ここは武田さんにおまかせします」と書いていて、それが面白いと本番でも採用される。 そして、その武田さんの話が本当に面白くてね。藤田さん(紀美)
だからやっぱり先生なんです。金八先生は金八先生、唯一無二の存在です。松下さん(ルミ)
私は今も武田さんがいい話をすると涙が出てくるんです。条件反射ですね。藤田さん(紀美)
「贈る言葉」注4 が流れてきても泣いちゃうよね。それだけで本当にグッと来ちゃって。 なんだろう、悲しいわけでもないし、なんで泣いているかはわからないんだけど、一気に当時の感覚が戻ってくるというのかな。松下さん(ルミ)
泣かなきゃいけない、というのもあるのかも。 武田さんには「条件反射と言うんだよ」と言われたんですけど(笑)。注4:卒業式の定番ソング。武田鉄矢さんのバンド「海援隊」による楽曲。 第4シリーズの主題歌は「スタートライン」(海援隊)
藤田さん(紀美)
普通に素直に、話を聞いているだけで泣けてくるんですよ。 それが武田さんの力、脚本の力というのか。泣こうとしなくても、 そこできちんと話を聞いていたら、自然と涙が出てくる。だから逆に卒業式のシーンは大変でした。松下さん(ルミ)
みんなそれでホントにお別れだったから、 普通に泣いちゃってね。でもそれぞれのキャラクターがあるから。藤田さん(紀美)
キャラクターの中で演じないといけないのに、みんな素に戻って泣きすぎだと。 それでみんなで怒られたというのを覚えています。松下さん(ルミ)
それはいませんね。聞いたことがない。みんな金八先生が大好きなんですよ。 武田さんご自身も自分で「俺は金八先生みたいにいい先生じゃない」なんておっしゃられたりもしていますが、それも面白いんですよ。藤田さん(紀美)
修一注5 が「乙女注6が好きだ、好きだ」って言ってるときに、 「あいつ、受験落ちればいいのに」って(笑)。先生が言っていいことじゃないけど、 それがあるから愛せるんでしょう。松下さん(ルミ)
だからみんなが思っているほど金八先生は完璧な先生じゃないんですよ。――:それはあまり金八先生をちゃんと見ていない人が、 「理想の先生像」として神格化してしまった部分もあるのかもしれないですね。
藤田さん(紀美)
それはあるかもしれないですね。 完璧な理想の先生はそういるわけじゃないでしょうし、リアリティがないですから。松下さん(ルミ)
そうね。金八先生だから、ルミも追いかけるように小学校の先生になったのだろうし。注6:金八の長女である坂本乙女(演:星野真里)。 第4シリーズでは杉山修一・坂田拓也に一目惚れされている。
松下さん(ルミ)
私たちの第4シリーズは、その前からかなり間が開いていたんですよ。 第1シリーズとか第2シリーズも見ましたけど、校内暴力と言われてもちょっとピンとこない(笑)。 15年前の古い作品ですから。もちろんスゴいドラマに出るということはわかっていましたけど、 後のシリーズの子たちと比べると想像もできないところに入っていくというのはあったよね。藤田さん(紀美)
「金八先生」自体が久しぶりだったから、私たちの覚悟というのはちょっと薄かったかもしれないね。 それは後のシリーズの子たちの方が大変だったと思う。 逆に終わってみてスゴいドラマに出させてもらったんだなというのを感じたかな。 あの頃は「金八先生」という作品をそこまで深く受け止めていなかった。 久しぶりに当時の話をすると、そういう風に言う人は多いですね。松下さん(ルミ)
うん。「金八先生」というのは、自分の人生にとってすごく大きくて、意味のあることです。 それは、3Bの生徒みんなも同じだと思いますよ。
右)蓑田紀美を演じた藤田瞳子さん