悪魔の掌のうえ、愚かな人類
アメリカとソ連が睨み合い世界中が戦争をしていたころ、破滅兵器を載せたある国の軍事衛星が落下します。二つに割れた軍事衛星は九十九里浜とダラスに落ち、核分裂のショックで二つのまちはタイムスリップしたのでした。それはこの悪魔がやったことだというのです。
「二つの国を戦わせたかったからよ/どこでもよかったの 二つの人間たちを選んでどっか別の場所へもってきて…/おたがいにケンカするかどうかみたかったの」〈ちょうどカブト虫を二匹木からはがしてもってきて机の上で戦わせたりするでしょう?〉「地球の人間って二つかけあわすと すぐケンカするから おもしろいの/適当に二つ 一万年先へもってきてみたの そしたらやっぱり戦いだしたわ」
プログラムに予定外のことはできないのでブンレツが邪魔だという悪魔は、タイムマシンで立ち去るよう忠告しますが、彼が頑としてガイのもとに戻ると言うので仕方なくそうさせます。
復讐の王女
解放の喜びに沸くククリットですが、グロマン本国からゴールダの大軍が向かっていました。エミヤは、全滅覚悟で伝染病を散蒔いて大量のグロマン人を道連れにしようとします。
復讐に駆られるエミヤと多くの人々を救うため、ガイはピラールの協力を求めます。タイムマシンでこの発端の軍事衛星をとめようというのです。ブンレツとエミヤの馬と、彼らはタイムマシンで旅立ちます。軍事衛星の国籍を確認すると、その生産工場に乗り込み衛生を破壊します。タイムマシンに残され、さらに50年前へと飛ばされたブンレツ以外は爆破を成し遂げ死んでしまいます。
軍事衛星の落下も二つのまちのタイムスリップもククリットもグロマンもなかった世界—〈新しい九十九里浜 新しいダラス 新しいエミヤ…〉
ブンレツは飛ばされた“現代”で九十九里浜を訪ね、偶然路上でエミヤに会います。ダラスから交換留学生でやってきた和装の「新しいエミヤ」です。もちろんブンレツのことなど知りません。
「…もしかしたらいつかね…ガイという青年に会うかもしれないよ/そしたら たぶん愛しあうかもしれないよ そのガイってのが…/いいやなんでもない/バイバーイ/しあわせになーッ」
手塚、もし現代に生きなば、、
タロ、ガイ、ピラール、ほかにも教科書出版社のロイ、、エミヤと関わる男は誰もがエミヤに恋を抱きエミヤもまた惹かれてしまいます。そして全員が命を落とすという、ファム・ファタールものみたいな、、いや女主人公だから違いますかね、一種のビルドゥングスロマン?違うかなあ、石化から還ったエミヤは王女の風格だけれども「昔の性格がなおって」ないし、結局は復讐の虜となってしまうし、、火の鳥に描かれたような人間の業の深さを見ますね。
そしてなにより、当時の冷戦でなお「戦争」をやめない人類への猛烈な批判です。翻ってこのテロとアベの現代、これを描いている漫画家たちは、、どうでしょう—。
手塚、もし現代に生きなば、、