『ガンプラり歩き旅』その31 ~もしもガルマがザクに乗っていたら!?~
2021年6月22日 更新

『ガンプラり歩き旅』その31 ~もしもガルマがザクに乗っていたら!?~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第31回は、連載初のモビル・スーツ・バリエーションから、ガルマ・ザビ専用ザクをご紹介!

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このキット付属のマゼラトップ砲は、旧キットよりもしっかりサイズやディテールが作り込まれており、かといって後に発売されるEXモデル版ほどにはリファイン過多ではないという、ちょうどよい案配であり、解像度、情報量もHGUCザクに準拠している。

オマケに(ちょっと悲しい話だが)結局「ガルマ専用ザク」という、旧ガンプラブームですらスルーされたアイテムが、ちょっとでっかい斧やマゼラトップ砲を付属させた程度で人気商品になるわけでもなかったので、今でも比較的安価で手に入る。
Amazonあたりなら数百円なので、下手をすれば旧キット1/144 マゼラアタックとコストはあまり変わらないので、イマドキハイディテール版のマゼラトップ砲を求めるのでなければ、筆者は是非にと、これをお勧めする。

余談になるが、旧ガンプラブーム時、実際に大河原邦男氏は、全身に過剰装飾が施されたドズル・ザビ専用ザクなどもデザインしており、ザビ家メンバーのカスタムザクとしては、そちらの方が認知度が高いのだが、ドズル専用ザクとして商品を作ろうと思うと、全身にエングレーブ処理をしなければならず、売れ行きに見合うだけのコストでは収まらないという算段もあったのだろう。
そのなかで、今回紹介するガルマ専用ザクもデザインが起こされ、それは通常のザクとほとんど形状自体は同じであったため、今回のHGUC化でも、ほぼ忠実に商品化されている。
大河原邦男氏が描いたガルマ専用ザクのデザイン画

大河原邦男氏が描いたガルマ専用ザクのデザイン画

元々HGUC ザクのキットは、その後のMSV展開を考慮して前腕のパーツなどが分割されていたというのもあって、このガルマ専用ザクも、肘のグレーの丸だけはシールだが、後はほぼ、往年の指定カラーリングを成型色で再現。
通常のザクとの形状の一番の差別化は、頭部のバルカン砲の設置だが、実はこの「ザクの頭部のバルカン砲」は、ガルマ専用ザク固有の設定ではなく、80年代のガンダムブームのさなかにおいて、大河原邦男氏が描いた、劇場版ポスターなどのイラストのうち何点かで、シャア専用ザクや通常のザクにも描き込まれていた武装であり(そういう意味では、元祖解像度アップ部分なのかもしれない)、だからこのガルマ専用ザクをシャア専用ザクカラーで塗れば、当時の劇場版ポスター版シャア専用ザクなども作れるわけであって、バンダイの戦略としては「そういった需要」も当て込んでのチョイスだったと思われる。
こうして立たせて設定画と見比べると、カラーリングも正確...

こうして立たせて設定画と見比べると、カラーリングも正確に再現されていることがわかる

しかし、それら「マゼラトップ砲付属」「80年代当時のリアルタイプザク再現可能」は、それほど求心力があるバリューとは言えず、このガルマ専用ザクもザクのバリエーション展開のフックとしては売り上げが弱く、結果、HGUC 032 ザクベースのMSVはこれのみで終わってしまい、事実上高機動ザクの初商品化となったHGUC 152 黒い三連星ザクは、2013年に新規金型で改めてゼロから作り直される形で商品化され、遅まきながらMSVザクシリーズをその金型で展開したという経緯がある。

そんなこんなで、まずは「市川大河流統一レギュレーションにもっとも近いマゼラトップ砲が安価で手に入るから」というのが、今回この商品を購入した動機の一つではあるのだが、実はひっそりと、このMSVだけには、他のMSVにはない設定特徴があるから、というのも購入動機に結びついている。

それは「存在そのものが、正式にアニメ版の中で言及されているMSV」は、後にも先にもこれ一つなのだということだ。
本編でその存在が唯一言及されたMSV!

本編でその存在が唯一言及されたMSV!

例えるのであれば、シャアや黒い三連星用の旧ザクなどは、『ガンダム』全編を見渡せば、なるほどそういうバリエーション機体がルウム戦役の時にはあったのかもしれないという説得力は持っている(というか、後付けで現代では正式に「あった」ことにされてはいるが)。しかし、シャアが、黒い三連星が、ルウム戦役で活躍したことについてはアニメ版『ガンダム』内で言及されているが、その時に彼らが旧ザクに乗っていたかどうかまでは、明確に台詞や画では言及されていないのだ。
それは、「アニメでは全く存在が前提とされていなかった」という点では、ジョニー・ライデン専用ザクや、シン・マツナガ専用ザクのように「そもそも、お前誰だよ。アニメに出てないだろ」というツッコミや、ザクキャノンやグフ飛行試験型のように「アニメにおけるジオン軍の兵器開発の流れの中では、存在しえたかもしれないけど、少なくともアニメ版には登場していないよね」という殆どのMSVモビル・スーツと同じである。

“そういう意味”では、今回のガルマ専用ザクも、画として存在するのはアニメ終了後に大河原邦男氏が描いた設定イラストだけであり、アニメ版には出ていないという点では他のMSV機と同等なのだが。
実はアニメ版をよく見ていくと、少なくとも「ガルマは自分用のザクを自軍内に配備していた」ことまでははっきり確認ができるのだ。
それは、第6話『ガルマ出撃す』の劇中のことで、そのエピソードの中でガルマは自身専用のカラーリングのドップファイターで出撃するのだが、そのガルマ出撃を知ったシャアと、部下ドレンとの間で、以下の会話が台本で記述されている。

シャア「ガルマはモビルスーツにのったか?」
ドレン「いえ!」
シャア「そうか、……ガルマは乗らなかったか、……彼がガンダムと戦って死ぬもよし、危ういところを私が出て救うもよしと、思っていたがな……」

そう、ここで明確に、ガルマ専用ザクの存在だけは、アニメ内で明言されているのだ。
確かにこの場合、いろいろ推察しようにも、曖昧なセリフ一つしかソースがないわけだから、そもそものニュアンスが微妙で、「ガルマのモビル・スーツ」が、ザクである保障も、専用機である保障もないわけだ。
しかし少なくとも、ザビ家の末弟であるガルマがモビル・スーツを持っているとすれば、この話のタイミングでは、旧ザクはあり得ないし、事実上失敗作だった(劇中内でも、メタ的にも)グフということもあり得ないので、やはりここではザクであるという解釈が妥当であろうし、その場合ザクは、一般将校のシャアですらパーソナルカラーに塗り替えていたわけだから、ガルマが乗るザクも専用機としてパーソナルカラーに塗り替えているだろうと考える方が自然だ。
事実『ガルマ出撃す』で登場したガルマ専用ドップファイターも、ガルマのパーソナルカラーに塗り替えられて登場しており、後のガルマ専用ザクのカラーリングはむしろ、このガルマ専用ドップファイターから逆引きされたという流れがあるのだから。

なので(「歴史に『if』はない」とは分かってはいるが)、もし仮に、この『ガルマ出撃す』で、ガルマがドップファイターではなく、自分専用のザクに乗って出撃していたら? という想像は、失礼だが「もしランバ・ラルに専用のドムが配備されていたら」よりも、フラグ分岐の可能性としては天と地ほどの差がある思考実験になってくるのである。
試しに、『ガルマ出撃す』のクライマックスを、せっかくなので、このHGUC 034 ガルマ専用ザクを使って、疑似再現してみよう。
 (1926884)

ガルマ「この化物がぁー! おちろ! おちろ!」

ガルマ「この化物がぁー! おちろ! おちろ!」

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アムロ「茶色のザク? 隊長機か?」

アムロ「茶色のザク? 隊長機か?」

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アムロ「いけるか!?」

アムロ「いけるか!?」

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ガルマ「しまった! ガウ、聞こえるか! 後退するので援...

ガルマ「しまった! ガウ、聞こえるか! 後退するので援護を頼む!」

概ねの流れはアニメ版そのままに、ガルマの乗機をドップファイターから専用ザクに入れ替えると、このような案配の流れになるだろうと言える。

……とまぁ、長々講釈をたれてきたが、このザクを手に入れた動機としては「適度なマゼラトップ砲が手に入るから」だけであったことは間違いはなく、アニメ版原理主義のこの連載で取り上げるバックボーンとしては、数あるMSVの中で、メジャー、マイナーに拘らず「アニメ版にもっとも登場しやすい立ち位置だった後付け設定メカ」としては、このガルマ専用ザクだったというのが、詭弁ではあるが正論である。
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