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大阪タカシマヤにいったとき、母親が、
「ここで待っとき」
といってトイレへ。
黒田有はトイレの前で待っていたが、なかなか出てこない。
ただ
「ジャーッ」
「ジャーッ」
と何度も水を流す音が聞こえてくる。
気になって女子トイレの中を覗くと、出したモノが大きすぎて流れず、バケツに水を汲んで便器に流す母親がいた。
何度やっても流れず、ついに母親はトイレから逃走。
その際、前だけをみて歩く母親は、黒田有を無視。
取り残された黒田有は、その個室に入ったおばあさんが、
「ギャー」
と叫び、飛び出してきて警備員に
「サンショウウオがいます」
といった。
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中学3年生になると黒田有は、学校内の友人関係が変化するのを感じた。
「中1や中2のときは頭がいいヤツも頭が悪いヤツも一緒に仲良く遊んでいたのに、中3になると高校受験のために一気にグループが分かれ出す」
それはまず1学期に
・頭がいいグループ
・頭が悪いグループ
の2グループに分かれ、まったく勉強をしてこなかった黒田有は「頭が悪いグループ」だと自認。
2学期になると急に塾に通い出す者が現われ、
・頭がいいグループ
・頭が悪いが家が裕福グループ
・頭が悪い上に家が貧乏グループ
の3グループに分かれ、黒田有は自分は「頭が悪い上に家が貧乏グループ」だと思った。
そして急に塾に通い出した連中をバカにしながら、スーパーをウロついたり、家電販売店でラジカセのフタを開閉させたり、本屋で立ち読みをして時間を潰した。
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ある日、「頭が悪い上に家が貧乏グループ」の仲間と本屋にいると、2学期から塾に通い出した元仲間を発見。
「参考書でも買ったんか」
と話しかけると、元仲間は本を体の後ろに隠した。
仲間が無理やり奪い取り、袋の中身をみるとアイドルの写真集だった。
「勉強もせんとこんなん買ってエエんか」
仲間がからかうと元仲間は、写真集を奪い返して帰ろうとした。
黒田有は、そのアイドルの大ファンだったので、咄嗟に、
「ちょっとみせてくれへん?」
といった。
高価な写真集は高い場所に陳列してあり、立ち読みすることができなかった。
背中を向けていた元仲間は、ゆっくり振り返り、優越感タップリに
「買ったらエエやん」
といった。
黒田有は、殺意を覚えた。
かつてこの元仲間は、遠足に行ったとき、卵焼き、唐揚げ、ウインナー、鮭おにぎりが詰まった弁当を食べながら、黒田有の半分ご飯、半分ヒジキの弁当を
「オセロ弁当」
といって笑ったことがあった。
(それやのに俺の小さなお願いを軽くいなしやがって・・・)
黒田有は、隣にいる仲間に
(お前は俺の気持ちわかってくれるやろ?)
と熱い視線を送った。
すると仲間は、少し微笑みながら静かにつぶやいた。
「俺、その・・ちゃんの直筆サイン持ってんねん」
写真集は金を出せば買えるが、直筆サインはそうはいかない。
元仲間は固まり、「頭が悪い上に家が貧乏グループ」は一気に優勢に。
「参考書でも買ったんか」
と話しかけると、元仲間は本を体の後ろに隠した。
仲間が無理やり奪い取り、袋の中身をみるとアイドルの写真集だった。
「勉強もせんとこんなん買ってエエんか」
仲間がからかうと元仲間は、写真集を奪い返して帰ろうとした。
黒田有は、そのアイドルの大ファンだったので、咄嗟に、
「ちょっとみせてくれへん?」
といった。
高価な写真集は高い場所に陳列してあり、立ち読みすることができなかった。
背中を向けていた元仲間は、ゆっくり振り返り、優越感タップリに
「買ったらエエやん」
といった。
黒田有は、殺意を覚えた。
かつてこの元仲間は、遠足に行ったとき、卵焼き、唐揚げ、ウインナー、鮭おにぎりが詰まった弁当を食べながら、黒田有の半分ご飯、半分ヒジキの弁当を
「オセロ弁当」
といって笑ったことがあった。
(それやのに俺の小さなお願いを軽くいなしやがって・・・)
黒田有は、隣にいる仲間に
(お前は俺の気持ちわかってくれるやろ?)
と熱い視線を送った。
すると仲間は、少し微笑みながら静かにつぶやいた。
「俺、その・・ちゃんの直筆サイン持ってんねん」
写真集は金を出せば買えるが、直筆サインはそうはいかない。
元仲間は固まり、「頭が悪い上に家が貧乏グループ」は一気に優勢に。
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しかし元仲間は
「サインみせてくれるなら写真集を貸す」
と悪魔のささやき。
仲間がニヤッと笑うのをみて、黒田有は
(ヤバイッ)
と思った。
(このままやったら孤立してまう!)
仲間と元仲間が仲良く話すのをみて、追い詰められた黒田有は、
「実は、俺も・・・」
仲間と元仲間がこちらをみるのをみて、一瞬ひるんだが、
「今度、その子の家に行く」
とウソをついた。
仲間に
「どういうことや」
といわれると
「だから今度、・・ちゃんの家に行く」
元仲間が全く信用していない様子で
「なんで?」
と聞いてきても
「だって住所知ってるもん」
と即答。
仲間と元仲間が目を丸くするのをみて
(勝った!!)
と思ったが、元仲間が
「いつ行くの」
と詰めてきたので、
「今度の休みに行く」
と答えた。
すると
「じゃあ写真撮ってこい」
といわれてしまった。
「サインみせてくれるなら写真集を貸す」
と悪魔のささやき。
仲間がニヤッと笑うのをみて、黒田有は
(ヤバイッ)
と思った。
(このままやったら孤立してまう!)
仲間と元仲間が仲良く話すのをみて、追い詰められた黒田有は、
「実は、俺も・・・」
仲間と元仲間がこちらをみるのをみて、一瞬ひるんだが、
「今度、その子の家に行く」
とウソをついた。
仲間に
「どういうことや」
といわれると
「だから今度、・・ちゃんの家に行く」
元仲間が全く信用していない様子で
「なんで?」
と聞いてきても
「だって住所知ってるもん」
と即答。
仲間と元仲間が目を丸くするのをみて
(勝った!!)
と思ったが、元仲間が
「いつ行くの」
と詰めてきたので、
「今度の休みに行く」
と答えた。
すると
「じゃあ写真撮ってこい」
といわれてしまった。
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当時、芸能人やアイドルは、住所や電話番号を公開していてファンレターを送る事が可能だった。
「もう誰も頼れんし、後に引けない」
黒田有は、そのアイドルの情報を調べ、神奈川県へ。
交通費は、小学生の頃から時々、皿洗いのアルバイトをしているうどん屋の店主に、
「帰ったらバイト代で返す」
といって3万円を借りた。
大阪から神奈川まで新幹線で一気にいけば早いが高いので、まず近鉄特急で名古屋へ。
そこで新幹線に乗り換え、小田原で降り、バスに乗って、目的のバス停で降りた。
ここまでは順調だったが、バス停は、山道にあり、小田原駅で買った地図をみながら歩いたが、いつまでたっても目的地に着かない。
3時間後、黒田有は自分が道に迷っていることに気づいた。
それでもアイドルの家を探していると、やがて日が落ち、真っ暗になり、聞いたこともない獣の声が聞こえた。
怖くなって、遠くにみえる灯りに向かってダッシュ。
やっとの思いで住宅地に出て、時計をみると20時を回っていた。
気持ちが落ち着くと旅の目的が蘇り、
「写真を撮らないと仲間や元仲間にバカにされる」
と街灯の下、地面に地図を広げた。
しかしまったくどこかわからない。
その上、最終の新幹線の時間が迫っていた。
「もう誰も頼れんし、後に引けない」
黒田有は、そのアイドルの情報を調べ、神奈川県へ。
交通費は、小学生の頃から時々、皿洗いのアルバイトをしているうどん屋の店主に、
「帰ったらバイト代で返す」
といって3万円を借りた。
大阪から神奈川まで新幹線で一気にいけば早いが高いので、まず近鉄特急で名古屋へ。
そこで新幹線に乗り換え、小田原で降り、バスに乗って、目的のバス停で降りた。
ここまでは順調だったが、バス停は、山道にあり、小田原駅で買った地図をみながら歩いたが、いつまでたっても目的地に着かない。
3時間後、黒田有は自分が道に迷っていることに気づいた。
それでもアイドルの家を探していると、やがて日が落ち、真っ暗になり、聞いたこともない獣の声が聞こえた。
怖くなって、遠くにみえる灯りに向かってダッシュ。
やっとの思いで住宅地に出て、時計をみると20時を回っていた。
気持ちが落ち着くと旅の目的が蘇り、
「写真を撮らないと仲間や元仲間にバカにされる」
と街灯の下、地面に地図を広げた。
しかしまったくどこかわからない。
その上、最終の新幹線の時間が迫っていた。
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すると
「なにやってるの」
と上品そうなおじさんに話しかけられた。
「あの・・家を探してまして」
「こんな時間に?
誰の家?」
素直に
『アイドルの・・ちゃんの家です』
といえばいいに、
「親戚のおじさんです」
とウソをついた。
「なんて名前?」
「田中です」
ウソにウソを重ねるとおじさんは、
「田中さんは、この辺りに数十軒ほどあるよ」
やがて奥さんもやってきて、おじさんから事情を聞くと心配そうに
「中学生がかわいそうに。
あなた、警察に連絡してあげたら」
黒田有は、首筋にジットリと汗がにじむのを感じた。
「そうだな。
それがいいな。
君、私の家はすぐそこだからついてきなさい」
おじさんが歩き出し、いよいよヤバくなった黒田有は大きな声で、
「ちょっと待ってください」
そして怪訝そうにこちらをみる夫婦に
「実は僕のおじさん、ヤクザなんです。
だから警察はダメなんです」
「かわいそう」
と涙ぐむ奥さん。
「じゃあ、どうすれば・・」
というおじさんに
「駅まで送ってください」
「わかった。
待っていなさい」
そういって夫婦が去り、残された黒田有の頭の中には、仲間と元仲間の高笑いがこだましていた。
「なにやってるの」
と上品そうなおじさんに話しかけられた。
「あの・・家を探してまして」
「こんな時間に?
誰の家?」
素直に
『アイドルの・・ちゃんの家です』
といえばいいに、
「親戚のおじさんです」
とウソをついた。
「なんて名前?」
「田中です」
ウソにウソを重ねるとおじさんは、
「田中さんは、この辺りに数十軒ほどあるよ」
やがて奥さんもやってきて、おじさんから事情を聞くと心配そうに
「中学生がかわいそうに。
あなた、警察に連絡してあげたら」
黒田有は、首筋にジットリと汗がにじむのを感じた。
「そうだな。
それがいいな。
君、私の家はすぐそこだからついてきなさい」
おじさんが歩き出し、いよいよヤバくなった黒田有は大きな声で、
「ちょっと待ってください」
そして怪訝そうにこちらをみる夫婦に
「実は僕のおじさん、ヤクザなんです。
だから警察はダメなんです」
「かわいそう」
と涙ぐむ奥さん。
「じゃあ、どうすれば・・」
というおじさんに
「駅まで送ってください」
「わかった。
待っていなさい」
そういって夫婦が去り、残された黒田有の頭の中には、仲間と元仲間の高笑いがこだましていた。
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しばらくするとバイクがやってきて、おじさんは黒田有に、ヘルメットを渡しながら、後ろを指さし、
「乗りなさい」
見ず知らずの自分のウソを信じてくれる優しさ、バイク、標準語、黒田有にとって、すべてがカッコよかった。
バイクは数分で住宅地を抜け、山道を疾走し、やがて街の明かりが見えてきた。
黒田有が
「こんなに歩いたんや」
と思っていると、バイクが少しスピードを落とし、
「あそこに大きな茶色い家があるだろ」
おじさんのいう通り、数十m先に大きな家がみえ、
(なんや、急に)
と思っていると
「あれっ、アイドルの・・ちゃんのお家だよ」
ついに探し続けた目的地が見つかった。
あの家の写真を撮るためにやってきた。
しかし善良なおじさんに本当のことはいえない。
(こうなったら!)
黒田有は、スピードを上げたバイクの上で、つかまっている右手を離し、ポケットからインスタントカメラを取り出し、通り過ぎるアイドルの家に向けて2回シャッターを切った。
数秒間の出来事だった。
駅に着くとおじさんにお礼をいった後、最終の新幹線に飛び乗り、席に座ると落ちるように寝た。
「乗りなさい」
見ず知らずの自分のウソを信じてくれる優しさ、バイク、標準語、黒田有にとって、すべてがカッコよかった。
バイクは数分で住宅地を抜け、山道を疾走し、やがて街の明かりが見えてきた。
黒田有が
「こんなに歩いたんや」
と思っていると、バイクが少しスピードを落とし、
「あそこに大きな茶色い家があるだろ」
おじさんのいう通り、数十m先に大きな家がみえ、
(なんや、急に)
と思っていると
「あれっ、アイドルの・・ちゃんのお家だよ」
ついに探し続けた目的地が見つかった。
あの家の写真を撮るためにやってきた。
しかし善良なおじさんに本当のことはいえない。
(こうなったら!)
黒田有は、スピードを上げたバイクの上で、つかまっている右手を離し、ポケットからインスタントカメラを取り出し、通り過ぎるアイドルの家に向けて2回シャッターを切った。
数秒間の出来事だった。
駅に着くとおじさんにお礼をいった後、最終の新幹線に飛び乗り、席に座ると落ちるように寝た。
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後日、放課後の教室に、元仲間、仲間、黒田有が集合。
机の上にそれぞれ、写真集、サイン色紙、ピンボケの写真を置いた。
「じゃあ交換しよか」
黒田有は、意気揚々、写真集に手を伸ばした。
元仲間は、その手を払って
「この写真が・・ちゃんの家っていう証拠は?」
仲間にも
「たしかに証拠はないな」
といわれ、黒田有は怒りで体を震わせた。
「この写真のために血のにじむ苦労をして、うどん屋で皿洗わなアカンのに・・・」
机の上にそれぞれ、写真集、サイン色紙、ピンボケの写真を置いた。
「じゃあ交換しよか」
黒田有は、意気揚々、写真集に手を伸ばした。
元仲間は、その手を払って
「この写真が・・ちゃんの家っていう証拠は?」
仲間にも
「たしかに証拠はないな」
といわれ、黒田有は怒りで体を震わせた。
「この写真のために血のにじむ苦労をして、うどん屋で皿洗わなアカンのに・・・」
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中3の夏休み、これまで勉強をまったくしてこなかった黒田有は、
「このままでは高校に行けない」
と焦りながら必死に勉強。
ある日、家の近くの電信柱の前で
「すいません」
と声をかけられ、振り向くと見たころのないセーラー服を着た女の子が2人いた。
声をかけてきたのはショートカットの活発そうな女の子。
もう1人は、ロングヘアーのおとなしそうな女の子。
「なに?」
黒田有が聞くとショートカットの女の子が
「この手紙をあなたの友達の・・くんに渡してほしいんです。
わたしたち、あなたたちと同じ年なんです」
・・くんとは、学校で1、2を争うイケメン。
ロングヘアーの女の子がラブレターを書いたものの本人に渡せず、黒田有に頼んだということだった。
「わかった」
黒田有が手紙を受け取り、その場を去ろうとすると、ロングヘアーの女の子がか細い声で
「あの~」
振り向くとロングヘアーの女の子はうつむいてしまい、見かねたショートカットの女の子が
「返事、もらえますよね?」
黒田有は、
(俺に聞かれても)
と思いながら
「多分」
と答えた。
「このままでは高校に行けない」
と焦りながら必死に勉強。
ある日、家の近くの電信柱の前で
「すいません」
と声をかけられ、振り向くと見たころのないセーラー服を着た女の子が2人いた。
声をかけてきたのはショートカットの活発そうな女の子。
もう1人は、ロングヘアーのおとなしそうな女の子。
「なに?」
黒田有が聞くとショートカットの女の子が
「この手紙をあなたの友達の・・くんに渡してほしいんです。
わたしたち、あなたたちと同じ年なんです」
・・くんとは、学校で1、2を争うイケメン。
ロングヘアーの女の子がラブレターを書いたものの本人に渡せず、黒田有に頼んだということだった。
「わかった」
黒田有が手紙を受け取り、その場を去ろうとすると、ロングヘアーの女の子がか細い声で
「あの~」
振り向くとロングヘアーの女の子はうつむいてしまい、見かねたショートカットの女の子が
「返事、もらえますよね?」
黒田有は、
(俺に聞かれても)
と思いながら
「多分」
と答えた。
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次の日、わざわざ自転車に乗って友人である・・くんの家まで手紙を届けた。
・・くんは、
「ああ・・」
と受け取り、封を開けずにに手紙をテーブルの上に置き、黒田有と日常会話を始めた。
(コイツにしてみたらラブレターなんて日常茶飯事なんやな)
黒田有は友人の話を適当に切り上げ、受験勉強のために家路を急いだ。
家に着いて自転車を止めていると
「こんにちは!」
と明るい声。
シュートカットの女の子が1人でいて
「手紙、渡してくれました?」
「いま渡してきた」
「ありがとう!」
そういってシュートカットの女の子は笑顔で帰っていった。
黒田有は、スカートをなびかせて去っていく女の子の後ろ姿に、これまで経験したことのない感情を覚えた。
・・くんは、
「ああ・・」
と受け取り、封を開けずにに手紙をテーブルの上に置き、黒田有と日常会話を始めた。
(コイツにしてみたらラブレターなんて日常茶飯事なんやな)
黒田有は友人の話を適当に切り上げ、受験勉強のために家路を急いだ。
家に着いて自転車を止めていると
「こんにちは!」
と明るい声。
シュートカットの女の子が1人でいて
「手紙、渡してくれました?」
「いま渡してきた」
「ありがとう!」
そういってシュートカットの女の子は笑顔で帰っていった。
黒田有は、スカートをなびかせて去っていく女の子の後ろ姿に、これまで経験したことのない感情を覚えた。