爛漫、神様の筆闊達に 〜漫画「ドン・ドラキュラ」
2016年12月4日 更新

爛漫、神様の筆闊達に 〜漫画「ドン・ドラキュラ」

漫画の神様、手塚治虫の「ドン・ドラキュラ」、ご存知ですか?前作のブラック・ジャックとは「正反対」の作品。全3巻と、氏の作品にしては決して長く続いた作品ではないですけれど、筆者はこちらも好きですねえ、、ご一緒に振り返ってみましょう^^

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伯爵は、宇宙人や円盤を荒唐無稽のでたらめ、SFをあんなものは寝言と嫌う、現実主義者(?)でノブヒコとは折りが合わず、、おまけにノブヒコが、ドラキュラやオオカミ男の方がずっと作り話で、迷信だと言うので、激怒!
、、でもチョコラに泣きつかれて、人間だけれども例外で招待も許すし、SF研に寄付までさせられてしまいます、、^^

日の光を浴びて伯爵が灰となって飛散してしまったときには、残った指からチョコラがクローンとして蘇らせ(!)、伯爵はバカにしているSFに(?)命を救われたこともあります。

その後、ノブヒコは転校で昼間の中学に。日曜の昼間なら東京に出て来れるというので、チョコラはクリームやら合羽やら試して陽の光を浴びては灰に、、イゴールに復活させてもらったものの、〈ノブヒコくんと海へ行って まっ黒に日焼けするからだにきっとなるわ きっと…きっと…〉 夢はあきらめていません、、f^^;

哀しみのカーミラ

ある日、学校帰りのチョコラを待ち受けて、少女雑誌のグラビアに出ないかと声をかけてくる女性がいました。
実は彼女は、伯爵の元妻、チョコラの母カーミラだったのです。
wada y (1610297)

カーミラ
大犬に変身する種族。〈人間をだれかれのみさかいなしに殺して血を吸うのだ/そのうえわたしが処女の生き血にありつこうとすると ものすごいシット心をおこしてじゃまをする!!〉ということで、取っ組み合いの夫婦喧嘩。
300年前にチョコラを産んだあと伯爵と別れて出て行く。チョコラを連れて出ようとしたが、柱時計に隠された我が子を探し出せないまま夜明けが近づき、仕方なく置いてひとり家を出た。

ちなみに、チョコラは半分彼女の血をひいているので、実は水は平気だったことが分かります。
via wada y
チョコラを探し出し奪い返しに来たカーミラ。根城の島で人間を殺し続けてきた彼女に、チョコラは「大きらい」と言い放ちますが、生きていくためにほんのわずかを殺した自分に比べ、人間の方がずっと残忍な人殺しだと説きます。
雨のなか手が出なかった伯爵ですが、油紙を見つけてこれでミイラ男ばりの格好でカーミラに襲いかかり、「百年くらいは足腰たたん」ほど血を吸い取ります。娘の顔を名残惜しく見送るカーミラ。
欠陥航空機で大勢が死んだニュースを聞きながら、チョコラは母の言葉を思い返しています、、

仲良く喧嘩しな? 〜十年来の宿敵

wada y (1610323)

伯爵を十年来追い回している、ヴァンパイアハンター、ヘルシング教授が来日します。
via wada y
伯爵の居所を追ってきた教授は、吸血鬼の気配を嗅ぎ付け、チョコラのいる夜間中学に教師として赴任します。
彼女からたどって伯爵のところへ潜入した教授ですが、持病のいぼ痔が出て、伯爵の棺を汚してしまいます、、^^; 「この棺はなドラキュラ家が五百年間使ってきたユイショある棺桶だぞっ きれいにして返せーっ」と泣き出す伯爵に、「わかったわかった洗うよ/消毒するってば」と伯爵家の庭で棺を一所懸命洗う教授なのでした、、^^

ドラキュラはさよならも言わずに、、

最終話

浮いていた歯が痛んで悩まされている伯爵。嫌がるのをチョコラが無理矢理、歯医者に連れて行きます。美人の女医に一目で入れ込んでしまった伯爵、勝手に再婚も考える浮かれよう。ところがこの女医さんが人違いがきっかけで密輸組織の連中に攫われてしまいます。
助けにあらわれ暴漢をのした伯爵でしたが、水をかぶって意識を失い、半年後ようやく目覚めます、、

すでに女医さんは結婚して処女ではなく人妻に。
新婚の食卓を窓から眺める親娘コウモリ、、「チョコラおかあさんがほしくないか…」「ううん今はおとうさんだけで十分よ」。かなしげに飛び去る、二匹のコウモリ。

これが最終話「ジョーズ・オブ・ドラキュラ」です。

哀しき“難民”の視線

第1巻の「はじめに」として手塚氏は、
「ドン・ドラキュラ」の主人公が、なぜ東京の練馬区に邸ごと住みついたかについては、いずれ連載中に描くつもりでした。しかし連載の突然の中断によって、あいまいなまま終わってしまいました。実は日本のある大商社が、なにかの取り引きのために、ルーマニアの大邸宅を土地ごと買いとって、建物だけを日本に持って来てしまったのです。ドラキュラが住みついているとも知らずに…いわばドラキュラは難民なのです。同情してやって下さい。
via 秋田書店 ドン・ドラキュラ第1巻「はじめに」手塚治虫
と述べていますが、突然の中断というのは、いわゆる打ち切りなのでしょうか?(それにしても、ちゃんと(?)第1話の歯の話が回収されてますね^^)、、今回、調べてみてもその理由は探し出せませんでした、、

伯爵らが「難民」であるということに関しては、手塚氏がいうように故国を去らざるを得なかった事情は具体的に描かれることがありませんでしたが、その故郷喪失者の哀しみ、吸血鬼という異人の立ち位置は、今作の随所に見え隠れしてきました。
また、それは「人間」という“邦人”、多数者への異議申し立てでもありました。

自らの古式ゆかしいスタイルを貫こうとするも、空回りで時代に嘲られるような伯爵の姿、
夜しか生きれない我が身の不条理に怒り、昼間の日のもとでボーイフレンドノブヒコとの闊歩を夢見るチョコラ、
赤ちゃん虎は殺処分しようとし、誤って赤ちゃんパンダも殺してしまうと嘆く人間たちへの、チョコラの憤り、
故国を人間たちに追われた半魚人たちへの伯爵の同類哀れむ姿(難民に冷淡な日本、、)、
「戦争はかっこいい」という人間の子どもたちに他国に蹂躙され続けてきた故国ルーマニアの苦渋の歴史を教えるチョコラ、、
ドタバタギャグの一方で、他の手塚作品同様、今作にもは人間の残忍、日本の冷淡、そのなかで生きる異邦人の哀しみを潜ませてあるのでした。

気軽に愉しんで、あるいはまた上記指摘しましたような隠し味も味わいながら、いかがでしょうか「ドン・ドラキュラ」。筆者はオススメです^^
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