黄昏の文学 人情と無垢の直木賞作家、浅田次郎の名作品
2018年5月16日 更新

黄昏の文学 人情と無垢の直木賞作家、浅田次郎の名作品

昭和半ばから平成にかけて、文化と文学の黄昏とも呼べる時代があった。同じ時代を指して黄金期であったという声もある。あの時代には誰がいたのか。何が書かれていたのか。今回は今なお人気を誇る直木賞作家、浅田次郎の作品を取りあげる。

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きんぴか

 最初に登場したのは1992年のこと。以下、改題などをしつつ三部作が1冊になったりメディアミックスされたりしている。
きんぴか

きんぴか

ピスケン、軍曹、ヒデさん。一見ワルだが、根は硬派の3人が世の不正を糺す、悪漢小説。かつてノベルズ版として刊行された3冊のシリーズを合本し、さらにチューン・アップを施したノーカット完全収録版。
バブル後の日本社会をドロップ・アウトした三人組を主人公とする連作。スラップスティックな笑い、任侠の世界や自衛隊をモチーフとしたストーリーの組み立てなど、著者の自家薬籠中の物語展開から、人情が爆発するクライマックスに導くエネルギーはお見事。
via 福田和也「作家の値うち」
 浅田次郎と言えば〝人情話で泣かせる人〟というのがよく聞く評価なのだが、一方で〝アウトローを描く人〟という一面もある。

 元自衛隊という浅田の経歴を考慮すると、この題材は妥当と言えるのか否か、なかなか考えさせられるモチーフである。

プリズンホテル

 《夏》《秋》《冬》《春》からなる四部作。
プリズンホテル 1 夏

プリズンホテル 1 夏

極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを「プリズンホテル」と呼ぶ―。熱血ホテルマン、天才シェフ、心中志願の一家…不思議な宿につどう奇妙な人々がくりひろげる、笑いと涙のスペシャル・ツアーへようこそ。
『きんぴか』も同様だが、浅田次郎は、この頃の文章の方が高い水準をもっていた。茶化し、笑わせながら、涙にもっていくという語りの技術はきわめてスリリングである。
via 福田和也「作家の値うち」
 「作家の値うち」に紹介されている浅田次郎作品のなかで最も高い点数をとっているのが「プリズンホテル」である。

 文章の良さとはなんだろうか?
 芸術性があり、既存の文章の美学を破壊していれば良いというものでもないだろう。

 言語、文章は伝わってなんぼである、とする界隈も存在している。
 ただ、あまりにも全てがわかりやすく伝わってしまう、解説書のような文章を小説に求めているかと言われると、そういうわけでもない気がする。

地下鉄に乗って

 1995年、第16回吉川英治文学新人賞受賞作品。
地下鉄に乗って

地下鉄に乗って

永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは30年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された“過去”に行ったため……。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド。吉川英治文学新人賞に輝く名作。
著者の出世作。タイム・スリップという意匠を使って、過去の蟠りを晴らすカタルシスは見事である。
via 福田和也「作家の値うち」
 タイムスリップというとSF漫画やアニメの十八番のように思えるが、実は小説の世界でもちらほらと見かける。

 その場合、《なぜ、どのようにタイムスリップしたのか》《誰のせいでタイムスリップしたのか》よりも《タイムスリップしたことによって何を見たか/体験したか》のほうが重視される印象がある。

 作品のなかに謎があったとしても、解決せずに作品を成立させられることができるのは、小説の醍醐味のひとつであろう。
 もっともその場合、謎とその解決以上の魅力が用意されてないといけないのだが、もちろん浅田次郎はそのあたりを得意とする作家のひとりであろう。
地下鉄に乗って

地下鉄に乗って

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