黄昏の文学 直木賞作家でありながら将棋指しの顔をもつ、山口瞳
2018年3月1日 更新

黄昏の文学 直木賞作家でありながら将棋指しの顔をもつ、山口瞳

昭和半ばから平成にかけて、文化と文学の黄昏とも呼べる時代があった。同じ時代を指して黄金期であったという声もある。あの時代には誰がいたのか。何が書かれていたのか。今回は直木賞作家にして随筆家、将棋指しの一面を持つ彼、山口瞳を取りあげる。

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山口瞳

 と聞いて何を思い浮かべるだろうか。

 そもそも山口瞳を知っている人はどれほどいるのか?
 というのはちょっとさみしすぎる疑問かもしれない。

洋酒天国

 山口瞳。多才であり多彩な人であった。直木賞作家なので文筆についてはプロであったと言える。
 一流の文章書きであったのか? と言われると、ちょっとわからない。一流の作家、一流の随筆家、一流の小説家、一流の文筆家、どれも似ているようでちょっとずつ違う。
 彼ならばどれかに当てはまっていてもおかしくないとは思う。
 一方でどれが最もあてはまっていたかと言われると……?
洋酒天国〈1〉酒と女と青春の巻

洋酒天国〈1〉酒と女と青春の巻

1958年、開高健の推薦で壽屋(現・サントリー)に入社。PR雑誌「洋酒天国」の編集や、コピーライターとして活躍する。ハワイ旅行が当たる懸賞のコピー「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」が代表作。
 ここで開高健の名前が登場するのもらしいと言えばらしい。

 開高健は「裸の王様」で1957年下半期芥川賞を獲得する。
 後年は釣りや旅行、ルポに力を入れて「オーパ!」など言っていたが、開高健は文学史に残して良いれっきとした作家である。らしい。
オーパ!

オーパ!

江分利満氏の優雅な生活

 1961年から「婦人画報」にて連載。完結し、単行本として発売されたのは1963年のこと。
江分利満氏の優雅な生活

江分利満氏の優雅な生活

江分利満は、東西電機の宣伝部員で、典型的な日本のサラリーマン。大正15年生まれなので、数え年は昭和の元号と一致している戦中派である。そんな江分利が生きた昭和30年代の日常を、コミカルに描いている。連作短編の形をとっており、章立ては「しぶい結婚」「おもしろい?」「マンハント」「困ってしまう」「おふくろのうた」「ステレオがやってきた」「いろいろ有難う」「東と西」「カーテンの売れる街」「これからどうなる」「昭和の日本人」。
 江分利満の読み方は《えぶりまん》。
 江分利氏も山口瞳も《大正15年生まれなので、数え年は昭和の元号と一致している戦中派》ということで一致している。

 サラリーマンの哀愁のような喜劇のようなぼやきを題材としている当作品は第48回直木賞受賞作でもある。

 1963年には映画にもなっているのでご存知の方も多いだろう――と言いたいところだが、色々事情があり、
作品はそのまま封切られたが客が入らず、公開は2週間の予定を1週間で打ち切られた。
 とのことである。
江分利満氏の優雅な生活

江分利満氏の優雅な生活

血涙十番勝負

 彼を語るうえで外したくないのがこの作品。
 個人的には山口瞳氏は、直木賞作家というより《愛棋小説家》としての印象が強い。
血涙十番勝負

血涙十番勝負

 当時の若手とトップの棋士達と《飛車落ち》で対局していくという企画。

 飛車落ちというとどのくらいのハンデだろうか。
 かつてアマチュアトップであった小池重明が、名人経験者升田幸三に挑んで敗れたのが《角落ち》という手合だったはずである。

 小池重明も、升田幸三も、べらぼうに強い人たちであった。
 だが山口瞳も負けないような成績をとっている。当時トッププロであった米長邦雄に《飛車落ち》で勝っているのである。

 血涙十番勝負、通算成績は3勝6敗1引分ということになっている。
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