佐渡トキ保護センターの2羽になった「トキ」
2023年10月31日 更新

佐渡トキ保護センターの2羽になった「トキ」

トキの寿命は約15歳。1986年(昭和61年)、佐渡トキ保護センターでたった2羽となったトキはどうしているのでしょうか。

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はじめに

ペリカン目トキ科トキ属に分類される鳥。学名はNipponia・nippon(ニッポニア・ニッポン)。
かつては北海道から沖縄まで生息していたとされるトキですが、1920年以降(大正時代)には急速に個体数が減ってしまいました。今から約50年前には佐渡以外では日本国内の野生のトキは絶滅してしまいました。

佐渡に生息していた野生のトキが1981年(昭和56年)に全て(5羽)捕獲されたことで、日本の野生のトキは絶滅しました。この時、世界中でトキは発見されていなかったため、世界最後のトキだということで地球上からの絶滅寸前の鳥類としてメディアに大きく取り上げられたのを覚えていますか。
「啓蒙禽譜」より

「啓蒙禽譜」より

トキの生体

主にドジョウ、サワガニ、カエル、昆虫を捕食し、寿命は雌雄とも約15歳とされています。
鳴き声は「ターア」「グァー」「カッ カッ」などカラスに似た声です。
飛ぶときは、サギよりも小刻みに羽ばたき、コウノトリや鶴同様に首をのばしたまま直線的に飛びます。

日本のトキは留鳥でしたが、太平洋沿岸から九州や沖縄にはユーラシア大陸東部からの渡り鳥のトキが飛来していた可能性があると考えられています。

天敵はテン、カラス、猛禽類です。日本のトキの絶滅原因にテンなどがあげられますが、羽毛くずを餌とするトキウモウダニが日本のトキを宿主としていたのも原因の一つにあげられます。

静かな山間を巣にし、普段は数羽から十数羽程度の群れで行動します。繁殖期はつがいとなるか単独で行動します。縄張りは強くないため、集団繁殖性があり個体数が多かった時代には群れで繁殖行動を行っていた可能性があるといいます。春に3個から4個の淡青緑色の卵を産み、約一か月間雌雄交替で抱卵します。孵化した雛は40~50日間で巣立ちます。幼鳥は人馴れしやすく、捕獲された「キン」は素手で捕獲されたそうです。
トキ - Wikipedia (2551540)

トキ絶滅の危機

トキは、1735年頃(江戸時代)の文献には北海道南部、東北、北陸、中国地方に分布していたと記されており、日本各地で目にする鳥であったようです。ですが明治時代になると食肉や羽毛を取るために乱獲されました。1908年(明治41年)に狩猟法施行規則により保護鳥に指定されましたが、棲み処とする山間部の水田が消失したり農薬で餌なる生物の減少も相まって、1920年代(大正中期)以降になると急速に個体数が激減し、絶滅したともささやかれました。

1930年(昭和5年)から佐渡で目撃例が報告されるようになり、1934年(昭和9年)には天然記念物に指定されました。このころ佐渡全域、能登、隠岐に100羽前後の生息を推定していました。1946年(昭和21年)に佐渡の住民によってトキの給餌活動がはじまったのですが、禁猟区の指定がされず1950年(昭和25年)には隠岐での消息が途絶え、佐渡でも生息数が24羽となってしまいました。そこで、1952年(昭和27年)に特別天然記念物に指定され、佐渡や石川県が禁猟区に指定されました。しかしながら、トキの生息地の農薬汚染や餌となる生物の減少により生息数の減少は留まらず、1953年(昭和28年)には佐渡の生息数は半減してしまいました。

そこで、同年に佐渡朱鷺愛護会発足され保護活動が始まります。続いて1957年(昭和32年)に能登で 羽咋トキ保護会が発足、 1959年(昭和34年)に文化庁と新潟県教育委員会とでトキ保護増殖事業開始され、新穂とき愛護会が発足されました。これにより営巣地の入山禁止の監視活動や給餌・無農薬の餌場の確保、そして国有林の買い上げ運動がなされました。

各地で保護活動が行われ始めていましたが、1958年(昭和33年)には佐渡に6羽、能登に5羽となってしまったにも関わらず、翌年、新潟県が野鼠や野兎の駆除のためにトキの天敵であるテンを野に放ったのです。このことも起因してか1971年(昭和46年)には佐渡以外のトキは絶滅してしまいました。

佐渡トキ保護センター設立

1965年(昭和40年)には、保護した2羽の幼鳥の人工飼育が試みられましたが死亡してしまいます。この幼鳥の解剖結果で有機水銀が大量に検出されたため、安全な餌の供給ができる保護施設の建設が進められることになりました。そして、1967年(昭和42年)に佐渡にトキ保護センターが開設されたのです。

センター設立時には1965年(昭和40年)に保護され生き残った1羽(フク)とセンター設立年に保護されたヒロ、フミを合わせた3羽の飼育が行われ、翌1968年(昭和43年)にはキンが保護されますが、先にセンターに保護されていた3羽が死亡。さらに1970年(昭和45年)にノリ(能登最後の1羽)を保護しますが、翌年に死亡してしまいます。センター設立後6年目にして保護できているトキはキンの1羽となってしまいました。
最後の日本産トキ「キン」の剥製

最後の日本産トキ「キン」の剥製


それから、10年後の1981年(昭和56年)に全鳥一斉捕獲が行われ、佐渡に残る野生のトキを全て捕獲しセンターにて保護されました。保護されたのはアカ、シロ、キイロ、アオ、ミドリの5羽です。名前は足輪の色から命名されました。この時を持って日本の野生に生息するトキは絶滅したことになります。また、同時に日本以外でトキの生息が確認されておらず、世界最後のトキでもあると言われ、地球上からの絶滅危機にある鳥類として日本のメディアで大きく取り扱われました。連日報道されていたので記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。ちなみに、同年に中国でトキが発見されました。

センターで保護されたトキは、保護された年にアカ、キイロが死亡、1983年(昭和58年)にシロが死亡し、1986年(昭和61年)にアオが死亡し、日本産のトキは2羽となってしまいました。

2羽になった日本のトキ

キン(メス)とミドリ(オス)の2羽になってしまった日本のトキは、継続的にペアリングが行われていましたが、繁殖には至らない状況でした。

そこで、1985年(昭和60年)には中国よりトキを借り入れペアリングを試みるも繁殖に至らず、1990年(平成2年)にミドリを中国へ貸し出すこととなりました。2年後にはミドリが日本へ戻って来たときには、新佐渡トキ保護センターが開設され、そこへキンとミドリ、そしてクロトキ、ホオアカトキと共に移転しました。

1993年(平成5年)にトキの保護増殖事業が計画され、翌年中国よりペアのトキを借り入れましたが、1995年(平成7年)にミドリが死亡してしまいます。

そして、日本最後のトキであるキンも2003年(平成15年)に死亡しました。これによって日本産のトキは絶滅したことになります。

おしまいに

世界でわずか数羽になるまで減少し絶滅の危機に瀕したトキ。キンが死亡する以前に中国からペアのトキが贈答されていて、この2羽での繁殖が成功し現在は2000年代から個体数が増え2022年には500羽を超えました。

2023年2月の第23回トキ野生復帰検討会では2026年より本州での放鳥開始に向けての議論が行われ、2022年8月に放鳥候補地となった石川県と島根県出雲市の適地実証に乗り出す方向で、本州から絶滅したトキの復活プロジェクトが動き出しました。近い将来、自然に生息するトキを目にする日が来るのではないでしょうか。
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