タイプライターは巨大ゴキブリに変わり、バーの隣席には謎の怪物が!?『裸のランチ』の危ない世界!
2019年8月15日 更新

タイプライターは巨大ゴキブリに変わり、バーの隣席には謎の怪物が!?『裸のランチ』の危ない世界!

1985年『ザ・フライ』でアカデミー賞をとったデヴィッド・クローネンバーグ監督は、1991年に『裸のランチ』という麻薬中毒患者の体験を元にした映画を撮りました。その幻覚と混乱を描いた作品を紹介したいと思います。

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映画『裸のランチ』

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メディコムトイ製『裸のランチ』バグライター(1/1サイズ)
1991年に『裸のランチ』という映画が公開されました。
主人公のビルは薬物中毒患者なので、現実と妄想の区別があまりついていません。愛用のタイプライターは巨大ゴキブリとなって喋り出すし、酒場に行けば隣には怪物マグワンプが座っているし、もう何が何だかわからない世界。
それが映画『裸のランチ』なのです。

簡単なあらすじ

1953年のニューヨークが舞台。害虫駆除員として働いていた元作家志望のビルは、駆除薬の減りが早いことに気がついた。妻のジョーンが、それを麻薬として使っていたのだ。そんなある日、麻薬所持の疑いで、ビルは警察に連行される。駆除薬が麻薬であるということを証明するため、警察はそれを虫にかけてみようと言い出した。そして取り出した大きな紙箱。その中には、巨大なゴキブリが一匹入っていた。そのゴキブリは自分がビルの上司だと名乗り、インターゾーン商会のスパイである妻のジョーンを殺せと命令する……。

原作者ウィリアム・S・バロウズ

冒頭から良くわからない展開ですが、入った酒場の隣席にグロテスクな怪物が座っていたりと、以降もますますわからなくなっていきます。でもそれは仕方がないことかも知れません。原作がそもそも、そういう小説なのですから。

原作者のバロウズは、1914年にアメリカに生まれました。1953年に『ジャンキー』という小説でデビュー。これは彼の麻薬中毒者としての15年を描いた自伝的な作品です。1959年に友人たちに助けられて『裸のランチ』を発表しました。その内容が猥褻であること等の理由により、アメリカで発禁処分を受けます。しかし、それがかえって話題を呼んだようです。

小説『裸のランチ』

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1960年前後にアメリカで流行したビートニク運動とは、非人間的な社会とそれを受け入れた人々に反逆する運動なのですが、そこから生まれたビートニク文学の最高傑作と、本作は呼ばれたりしています。

しかしその内容は、作者が麻薬で見た幻覚や混乱などを書き綴った、はっきりとしたストーリーもない小説です。とても実験的で、文章をばらばらにして、それを脈絡なく並べたりする「カットアップ」という技法を使ったりしています。
そのため「意味がわからない」とか「難しすぎる」とか言われているのですが、超現実的なイメージをそのまま楽しむ小説である、というのが今の一般的な受け取り方のようです。

監督デヴィッド・クローネンバーグ

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そんな変わった小説を映画にしたのは、カナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督。
1943年にカナダで生まれ、1975年に『デビッド・クローネンバーグのシーバース』で劇場監督デビューしました。ちなみにこれは、内臓に同化して人間を操る寄生虫を描いたホラー作品です。

以降の1980年代の作品に関しては、こちらの記事をご覧になってくだされば嬉しいです。

見所は「わけがわからない」

そんな『裸のランチ』の見所は、デビュー作から続いている「ぬるぬるとした内臓描写」のグロテスクさ、虫や怪物のデザインと動きの気持ち悪さが、やはり第一ではないかと思います。なにせ1985年に監督した『ザ・フライ』ではアカデミー賞特殊効果賞を受賞しているのですから、その技術力には高いものがあります。

しかし一方、「わけがわからない」ストーリーもまた、本作の魅力であると思います。
頭の上に乗せたものを拳銃で撃つウィリアム・テルごっこ。妻にそっくりの謎の女は表れ、巨大ムカデは工場で黒い麻薬となり、虫に変わったタイプライターは書いた文章を褒めてくれる……。

でもヒントはある!?

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左から監督デヴィッド・クローネンバーグ、原作者ウィリアム・S・バロウズ、主演ピーター・ウェラー
そんなストーリーなのですが、ある程度、理解するためのヒントがあります。それは本作が原作を超えて、原作者の半生を描いているからです。

主人公ビルが麻薬中毒患者であるのは、もちろんバロウズがそうだったからです。
なぜウィリアム・テルごっこで妻ジョーンズを射殺してしまったのか。それは作者がやはり、そうやって妻を殺してしまったからなのです。
ビルが同性愛について悩んでいるのも作者と同じですし、彼を助けに来てくれる友人たちにもきちんとモデルがいるのです。

「わからない」から面白い

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