増補改訂版「ふたりのトトロ」から伝わる、若い情熱が集ったスタジオジブリ第2スタジオ。
2023年10月17日 更新

増補改訂版「ふたりのトトロ」から伝わる、若い情熱が集ったスタジオジブリ第2スタジオ。

本著は、2018年に発売され好評を博した「ふたりのトトロ(木原浩勝著)」の増補改訂版。著者が宮崎駿監督から「二人で『トトロ』を始めます」と背中をたたかれて1年。いまなお世界中の老若男女から愛され続ける「となりのトトロ」は、スタジオジブリ第2スタジオに集ったクリエイターたちの楽しい情熱と共に生まれました。

148 view
いまでこそ世界中の人々から愛される、スタジオジブリの代表作「となりのトトロ」。
しかしながら作品がいかにして作られたか、宮崎駿監督がどんな思いで作品と向き合ったのかを正確に伝える資料は、その知名度に比して少ない。

それはアニメーション制作会社なのだから当然といえば当然で、後に振り返ったところで制作現場の当事者でなければ思い起こすことすら出来ない。

本著は、後に怪談作家としてデビューし、自ら集めた取材内容を客観的に現象として記録した後、分析、抽出して書き残すことでファンを魅了する木原浩勝氏が、作家デビュー前に在籍したスタジオジブリで担当した「となりのトトロ」制作デスク時代の記録と記憶を基に、往時のスタジオジブリの熱気を克明に綴った一冊である。

なお、スタジオジブリ第2スタジオの意味は本書にて。

「この作品は楽しい作品です。楽しく作ってください。」

「ふたりのトトロ」 (2552473)

via 「ふたりのトトロ」
「日本が舞台の楽しい素敵な映画を作りたい」

宮崎駿監督の企画意図を受けて「となりのトトロ」を楽しく作ることを厳命された著者は、とくに莫大な工数がかかる動画制作スタッフの編成において

1.外部であってもなるべくトトロ専属で
2.トトロの世界観を表現するには女性中心で
3.女性スタッフが働きやすい現場環境作り

結果、社内の動画制作スタッフは大半が女性という、非常に特色あるスタッフ編成を行うこととなる。これが1980年代に実現していたと考えると、驚くばかりである。

また、ハードを極める現場スケジュールの中でも、経験豊かな原画マンと若い動画マンが交わることでクオリティーの向上を実現した「原画チェックシステム」は、厳しい現場に会っても”楽しく作る”ことを宮崎駿監督以下、集ったクリエイター全員が望んだからこそ実現したシステムだった。

となりのタヌキ♪

トトロ制作時にはスタジオ内での煙草の喫煙本数が減ったことのみならず、エンディングテーマ「となりのトトロ」の歌詞を”となりのタヌキ タヌキ♪”と口遊みながら絵コンテを描いていたという宮崎駿監督。

監督自身もまた、全力で楽しく作ることに取り組んでいた様子が伺える。過酷を極める制作現場ながら、その制作中にスタジオから笑いが絶えた日は1日としてなかった。

増補改訂版に添えられた膨大な制作資料

なお、増補改訂版「ふたりのトトロ」には、膨大な制作資料が添えられている。
※制作資料80ページ超大幅増補

「となりのトトロ」はもちろんのこと、併映となった「火垂るの墓」の制作現場、そして前作にしてスタジオジブリデビュー作品「天空の城ラピュタ」の壮絶な進行状況をリアルに伺い知ることが出来る、それこそ制作現場の当事者にしか知りえない資料である。

「この作品が失敗したら、次回作はありません」

増補改訂版に添えられた「天空の城ラピュタ」の週間実績レポートからは、壮絶な進行状況が確認出来る。
なおこのレポートは社内スタッフのみならず、「アニメージュ」誌上のジブリ特集のために編集部の担当と来社したことがある鈴木敏夫氏(現スタジオジブリ代表取締役議長)にも報告されていたことが分かる。正確な進行状況は社内外で共有されていた。

当時、宮崎駿監督が発したこの言葉は、一見すれば興行成績を指すと思われるが、真実は「公開に間に合わないこと」であったと、著者は読み解いている。

スタジオジブリ初代代表の原徹氏

また、著者は本書内でスタジオジブリ初代代表を務めた原徹氏への謝意を述べている。

「風の谷のナウシカ」を制作したトップクラフトの代表取締役社長にしてスタジオジブリの初代代表を務めた同氏の存在があってこそ、莫大な発注行為を伴うアニメーション制作を新会社がやってのけることが出来たのだから、スタジオジブリという企業が立ち上がったのは、まさに原徹氏の功績であろう。

本書の結びは、そんな原徹代表が著者にかけた一言で締められている。

「~あんだが撮影で見せた根性があれば、宮さん相手でも務まるやろ。一緒に宮さんを担がんか_」

14 件

思い出を語ろう

     
  • 記事コメント
  • Facebookでコメント
  • コメントはまだありません

    コメントを書く
    ※投稿の受け付けから公開までお時間を頂く場合があります。

あなたにおすすめ

関連する記事こんな記事も人気です♪

「となりのトトロ」がついに中国で上映!中国版のポスターがセンスの塊だと話題に!!

「となりのトトロ」がついに中国で上映!中国版のポスターがセンスの塊だと話題に!!

1988年の公開以来、老若男女問わず高い人気を誇るスタジオジブリの代表作のひとつ「となりのトトロ」。12月14日から、ついに中国で初上映されることが明らかとなりました。そして「中国版のトトロのポスター」のデザインがセンスの塊だと、現在ネット上で話題となっています。
隣人速報 | 9,108 view
木原浩勝氏がワシントン・ポスト誌に語った日本アニメのこと、宮崎駿監督のこと。

木原浩勝氏がワシントン・ポスト誌に語った日本アニメのこと、宮崎駿監督のこと。

2018年8月、アメリカ合衆国ワシントンD.C.にて開催されたイベント「Otakon」。その際、アメリカで著名なワシントン・ポスト誌からの取材を受けた同氏は、日本アニメや宮崎駿監督のことについて語りました。
映画公開から30年!「ふたりのトトロ-宮崎駿と『となりのトトロ』の時代-」が語る真実とは!?

映画公開から30年!「ふたりのトトロ-宮崎駿と『となりのトトロ』の時代-」が語る真実とは!?

日本のみならず、いまや世界中の人々から愛される不朽の名作アニメ「となりのトトロ」。前作「天空の城ラピュタ」公開から2年、元スタジオジブリ制作デスクの木原浩勝氏が明かす「となりのトトロ」誕生までの制作秘話!
井上あずみ(59)が文化放送『くにまる食堂』に出演!脳出血からの歌手活動復帰への思いや、夫や娘への感謝を語る!!

井上あずみ(59)が文化放送『くにまる食堂』に出演!脳出血からの歌手活動復帰への思いや、夫や娘への感謝を語る!!

文化放送の『くにまる食堂』(毎週月~木曜日 午前9時00分~午後1時00分)の10月2日(水)放送分にて、歌手・井上あずみ(59)がゲスト出演しました。
隣人速報 | 84 view
『となりのトトロ』メイとサツキが住むおうちが、遊び心あふれるミニチュアハウスになって登場!!

『となりのトトロ』メイとサツキが住むおうちが、遊び心あふれるミニチュアハウスになって登場!!

ベネリック株式会社が運営する全国の「ジブリがいっぱい どんぐり共和国」にて、映画『となりのトトロ』に登場する草壁メイと草壁サツキが住む家をミニチュアハウスとして再現した「となりのトトロ みんなの草壁家」が発売されます。
隣人速報 | 215 view

この記事のキーワード

カテゴリ一覧・年代別に探す

あの頃ナウ あなたの「あの頃」を簡単検索!!「生まれた年」「検索したい年齢」を選択するだけ!
リクエスト