2017年1月31日 更新

『ジブリの絵職人』と呼ばれた美術監督『男鹿和雄』の心和むアニメーション背景美術の世界!

見ただけで、映画の場面が思い出され、しかもどこか懐かしい気持ちを呼び覚ます風景画。これを描いた男鹿和雄さんの背景美術の世界を見てみましょう。

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ジブリ映画『となりのトトロ』。
トトロが住んでいる樹齢を重ねた立派なクスノキ。
この絵を描いたのが男鹿和雄さんです。

ジブリ映画には欠かせない男鹿さんの背景画を、皆さんもたくさんご覧になっていると思います。
『トトロ』の住むあなぐら、『おもひでぽろぽろ』の紅花畑、『もののけ姫』のアシタカの故郷エミシの村や山々、『ハウルの動く城』のハウルの秘密の草原、『紅の豚』のポルコの隠れ家である洞窟の入り江など、ハッとする・ほっとする印象的な絵を手掛けられています。

見ているだけで心癒される男鹿和雄さんの背景美術の世界。
その『背景美術』の「背景」にあるものを追っていきたいと思います。

『男鹿和雄さん』ってどんな人?

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1952年、秋田県生まれ。高校を卒業後、上京し専門学校に入学するも1年で中退。アルバイトなどを続けていた1972年、アニメーション背景美術の会社・小林プロダクションに入社。「樫の木モック」で初めて背景を手がけ、以後、小林七郎の下で数々のアニメーション作品の背景を担当する。1975年に小林プロを退社後、一時、日本中を放浪し、その後、仙台の看板屋に約1年半勤務した後、小林プロに再び復帰。1982年に独立。その数ヶ月後、劇場映画「幻魔大戦」に取り組んでいた美術監督・椋尾篁の誘いで同作に参加。その後、「はだしのゲン」や「時空(とき)の旅人」「妖獣都市」といった、マッドハウスが制作する劇場映画の美術監督を手がける。1987年、「火垂るの墓」の美術監督・山本二三の紹介で、宮崎駿監督作品「となりのトトロ」に参加。以後、スタジオジブリ作品「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」で美術監督を務める。「耳をすませば」参加後はフリーとなり、現在まで数多くのアニメーション作品の背景美術に携わる。

アニメの背景美術って何?

背景美術の仕事は、アニメーションの中に登場する風景や室内など、背景画を描くものです。
監督の思い描く世界で、キャラクターが自由に動き回れるよう、動きもイメージしながらその場所を絵として具体化していく作業です。

美術監督になると、作品の具体的な世界観を決める「美術設定」、世界観のイメージを絵で表現した「美術ボード」を描く仕事を任されるようになります。
また、たくさんのスタッフから上がってくる背景に統一感をもたせるように、統括する責任者になります。

男鹿さんが描かれたジブリ映画の背景画をご覧ください。
『となりのトトロ』 トトロの住む穴へ続くトンネル

『となりのトトロ』 トトロの住む穴へ続くトンネル

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『もののけ姫』 シシ神の森

『もののけ姫』 シシ神の森

『ハウルの動く城』 ハウルの秘密の草原 

『ハウルの動く城』 ハウルの秘密の草原 

『千と千尋の神隠し』 シャクナゲの庭

『千と千尋の神隠し』 シャクナゲの庭

出典 locals.md
『紅の豚』 ポルコの隠れ家 洞窟の入り江

『紅の豚』 ポルコの隠れ家 洞窟の入り江

Ghibli Backgrounds by Kazuo Oga

0:00 ~ となりのトトロ
9:49 ~ 魔女の宅急便
10:20~ おもひでぽろぽろ
17:17~ 紅の豚
17:48~ 平成狸合戦ぽんぽこ
24:31~ 耳をすませば
25:32~ もののけ姫
31:14~ 千と千尋の神隠し
34:14~ ハウルの動く城
男鹿さんが描いた背景画が見られます。長い動画なので、好きなところをご覧ください。

ジブリとの出会いは偶然だった

『幻魔大戦』背景画

『幻魔大戦』背景画

小林プロダクションで、『侍ジャイアンツ 』や『はじめ人間ギャートルズ 』『ガンバの冒険 』『元祖天才バカボン 』『 宝島 』『あしたのジョー2 』などの背景美術を手掛けてきた男鹿さん。
これは1982年に、小林プロダクションから独立後に参加した『幻魔大戦』で描いた背景画です。
この後も、男鹿さんは『はだしのゲン』や『時空の旅人』『妖獣都市』などの美術監督として実績を重ねていきます。
そしてジブリとの出会いが1988年にありました。
当時ジブリでは、『火垂るの墓』と『となりのトトロ』を同時期に制作することが決まっていました。そのため、ジブリスタッフも半分に分かれて作業しなければなりません。
しかし、宮崎駿監督が信頼する美術監督の山本二三さんは、『火垂るの墓』の方を引き受けており、『となりのトトロ』のために、新しく美術監督を探す必要が出てきたのでした。
そこで宮崎さんは山本さんに相談し、「この人がいいんじゃないか」と推薦されたのが男鹿さんでした。
そこで全く面識のなかった男鹿さんに、電話をかけ、参加を呼び掛けたのです。
「宮さんの最大の特徴は、『自分の信頼する人の友達は信頼できる』と思っていることです。」
出典 DVD『ジブリの絵職人 男鹿和雄展 トトロの森を描いた人。』ウォルトディズニースタジオ ホームエンターテイメント  鈴木敏夫プロデューサー インタビューより引用 

『となりのトトロ』で宮崎監督から求められたもの

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こうした経緯から『となりのトトロ』に参加することになった男鹿さん。
仕事が始まっても、宮崎監督からあまり難しい注文はありませんでした。
ところが、最初の背景を集めてチェックしてもらった時、こう言われたそうです。
「男鹿さんのレベルはこんなものですか」
決して強い言い方ではなかったけれど、「ズシンときた」そうです。
「これまでの美術のように、漠然とただそこに原っぱがあればいい、というような話ではなかった。監督は『田園風景とか木とか草花とか、そういうものによく目を向けて描いてほしい』と。トトロのすみかであり物語の象徴にもなったクスノキのイメージや森の話を聞いて、それがとてもうれしかった。具体的に考えたことはなかったが、本当はこういう仕事がやりたかった。あの時、巡り会えて良かったですよ」
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男鹿さんが今までの仕事で要求されてきたことは、「少ない日数で多くの背景枚数を仕上げる」ことや「短時間でものを描くために、強調する部分と省略する部分を描き分けるテクニック」などでした。決して手抜きをしているというわけではありませんが、少しでも多くの仕事量をこなすために、ひとつひとつ深くこだわる雰囲気ではなかったのです。
「これはもう一度、自分できちんと見直そう」
そこから時間をかけて、木々の種類、花の咲く頃、天気や時間によって変わる光や雲の様子など、移り変わる自然の表情を丁寧に描こうとするようになったのだそうです。

Kazuo Oga 男鹿 和雄 At the Master's Workshop ( eng subs)

男鹿さんが仕事をされている様子です。
繊細な筆遣いに、思わず見入ってしまいます。
背景画はもはやアートの域に達しており、「緑(色)の使い方に天賦の才がある」と宮崎に評され、宮崎・高畑両監督の高い評価を得る。

絵の背景にある優しい人柄

男鹿さんは背景画に、今まで以上に心配りをするようになりました。
例えば、メイがトトロの住処へ通じる穴を見つけ、トンネルを転げ落ちるシーンです。
ここではそのトンネルの出口に、たくさんの花や雑草が描かれています。
漠然と描かれているのではなく、幼いメイがシナリオの通り地面に転がり落ちても、怪我をしないようにと、意識して柔らかくふわふわした地面になるように描いたのだそうです。
まるで本当の人間の子役の子どもにするような配慮ですね。
そうした優しい配慮は、見ている私たちにも安心感を与えてくれるのだと思います。

サツキとメイの家

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この絵を見ればすぐ、サツキとメイの家だ!とわかる方も多いと思います。
和風建築と洋風建築が取り入れられている家。
このような家を造ることが、実際流行している時期もあったそうです。

この家の和風建築の部分、実はモデルになった家がありました。
群馬県にある男鹿さんの親戚の家を参考にしているそうです。
宮崎監督から絵コンテを見せられた時、その家の印象に似ていると思い、縁側や階段など、家の写真を親戚の方に送ってもらったのだそうです。
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これは、愛知県長久手市にある「愛・地球博記念公園」(モリコロパーク)内にある「サツキとメイの家」です。
映画で描かれた家が、リアルに再現されています。
見るだけでワクワクしますね。
描かれていた背景美術が、生活感のあるリアルな絵だったからこそ、こんなにもそっくりに再現できたのだと思います。

高畑勲監督からのラブコール『おもひでぽろぽろ』

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『となりのトトロ』を試写室で観た高畑勲監督は、男鹿さんの描く背景美術に惹かれていたそうです。
「メイが迷子になって、里山の風景がどんどん夕方になっていく、その積み重ねが素晴らしかった。トトロでの、男鹿さんの仕事の占める比重は大きいなと」
出典 DVD『ジブリの絵職人 男鹿和雄展 トトロの森を描いた人。』ウォルトディズニースタジオ ホームエンターテイメント 高畑勲監督 インタビューより引用
鈴木プロデューサーの言葉を借りれば、「北の人(東北出身の人)と南の人の描く絵は空気が違う。北の人の絵は空気が澄んでいる。高畑さんは空気の澄んだ絵が好き」なのだそうです。
高畑監督からの依頼を受け、次の仕事は『おもひでぽろぽろ』の美術監督になりました。

おもひでぽろぽろ.mpg

高畑監督は、宮崎監督とは全く違うやり方で映画を作っていきました。
宮崎監督の下では、監督自身が自分で絵コンテまで描いてイメージを伝えてくるので、背景美術の人はそれを元に背景を起こすやりかたでした。
しかし高畑監督の場合は、自分では全く絵を描きません。そのため何度も話し合いを重ね、ロケハンに出かけ、同じイメージを共有する事から仕事が始まっていきました。

リアリティーあふれる山形の背景美術

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スタッフは、タエ子が乗ったのと同じ夜行列車に乗り、深夜の上野駅から早朝の山形駅に行ったそうです。
ブルートレインの中の様子、早朝ならではの朝の静かなホーム、駅前がまだ寝静まっている風景など、実際に行ったからこそわかる、臨場感に裏打ちされた背景画が描かれました。
知らない風景は、思うようには描けません。実物を知っていれば、サラッと描いても植物の縮尺が多少ズレても「むしろこの勢いがいい」と自信を持てるんですよ。知らないものほど、「せっかく調べたのだから」と省略できないで窮屈な絵になってしまいがちですから。そして、写真では奥行きや立体感や軽重についてはなかなかわからないのではないでしょうか。だから、風景を描く時には、自分の体験した中で一番いい風景を思い出して描くわけです。
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山形の特産品である紅花。
とげのある紅花は、摘み取り作業で手を怪我しやすい。早朝はとげが昼間より柔らかいので、早朝に収穫する。そうした農作業の手順を知り、正確に描くことが背景美術に説得力と深みを与える。
話の核となる紅花農家の生活を描くため、もちろんスタッフも、早朝の紅花摘みの作業を体験しました。
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