松本大洋短編集 「日本の兄弟」 他の作品とも意外な共通点のある初期の名作選!
2016年4月19日 更新

松本大洋短編集 「日本の兄弟」 他の作品とも意外な共通点のある初期の名作選!

松本大洋「日本の兄弟」。1994年から1995年に「COMIC アレ!」で連載された短編をまとめた作品。散文的な表現が魅力の話が多く、死について悩む少年や暴力行為を繰り返す野蛮者を淡々と描く。

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松本大洋の短編集 「日本の兄弟」

「ピンポン」や「鉄コン筋クリート」等多数の名作漫画を世に送り出した漫画家・松本大洋。
本作は1994年~1995年にコミック雑誌「COMIC アレ!」にて連載された彼の短編を中心にまとめた作品集。
 (1632431)

「日本の兄弟」
発行者: マガジンハウス
発売日:1995年10月17日
一度読んだら忘れられない、圧倒的な画力と言葉で綴られた、松本大洋ワールドの原点が垣間見える短編集。地球の裏側に出ることを夢想して穴を掘り続ける兄弟の姿を描いた表題作ほか、11編を収録。
※11編収録の書籍は、追加2編を含む新装版。
それ以前の発売書籍は9編にて構成。
 (1632491)

新装版
出版社: マガジンハウス
発売日:2010年10月28日

「m」(単行本初収録。カラー)と「べんち」(単行本初収録)の2編が追加された。

初版の収録タイトル

何も始まらなかった一日の終わりに[チャリの巻]
何も始まらなかった一日の終わりに[ハルオの巻]
何も始まらなかった一日の終わりに[祭りの巻]
LOVE2 MONKEY SHOW

ダイナマイツ GON GON
日本の友人
日本の兄弟
日本の家族

散文的な乾いた描写が特徴の短編集

何も始まらなかった一日の終わりに[チャリの巻]

 (1632548)

じぶんの居るべき場所は「ここは違う!!」といつも思っている主人公チャリ。
自転車を愛し、常に自転車と行動を共にする。

画像のシーンはクライマックス。
「飛ぶよっ」と坂道を自転車で下っていく。

その直後、見事に空を飛ぶ自転車と主人公。
【チャリ】編の主人公チャリは周囲から「変人」扱いされていつも自転車に乗っている。
周囲に溶け込めない異物。

クソッたれな世の中に背を向け自分の中のモラトリアムに生きる。
外の「世界」を見ず自分の「セカイ」に生きる。

何も始まらなかった一日の終わりに[祭りの巻]

 (1632443)

街のお爺さん。
年老いた彼と若かりし彼が登場。
かつての思い出の世界に迷い込んだような世界が描かれる。
今と昔が交錯する様子が、物語にリズム感を与えている。
お爺さんは「死」を予見しているようだ。

画像の一コマ目にあくびをしている猫。
猫は日常の世界にいる。夢と現実の差を明確にする一つの指標として機能する。

過去に出会った人々と「対話」し、思い出に没入していくお爺さんとは無関係に淡々と時が流れていく。

変わらない日常。
そう、「何も始まらなかった一日の終わりに」。

LOVE2 MONKEY SHOW

 (1632463)

画像は「LOVE2 MONKEY SHOW」part.1

フリチンのオサムと赤ん坊を抱くサチコ、子供の天使が登場。

「LOVE2 MONKEY SHOW」は各2ページで4部構成。
全て異なる登場人物で描かれる非現実的な物語。
※画像の台詞を引用

サチコ「貴方は今日もフリチンでベッドを磨いているのね オサム」

オサム「そうとも僕は毎日フリチンでベッドを磨いているのさ サチコ」、「1999年7月に下される裁定を前に我々には箱船が必要なんだよ サチコ」

サチコ「信心深いのね オサム」

オサム「答えが欲しいのさ サチコ 時間が無いんだよ」

サチコ「答えなんて無いわ オサム それが答えよ」

子供の天使「けっ」

オサム「ところでハラが減ったよ サチコ オナカとセナカがくっつきそうだ」

サチコ「真理ね」

赤ん坊「YES」

日本の友人

 (1632458)

上半身裸で街を浮遊する主人公。(駅は「たから町」)
破壊的な性格。あらゆる物事に怒っている。
日常の世界にツバを吐きながらも、彼がやっている事はただの暴力行為だけである。

一方、女の子人形に愛情を注ぐ。
その人形に対して、
「彼女は絶対的な存在だ 自我を持たない
肯定も否定もしない 無口で無表情
瞬きもしない ため息すらつかない
真のブラフマンだ」と称える。
己の「セカイ」に生き、半裸で街を歩き、わめき、人を殴って金を得る主人公。

それを見る傍観者。

傍観者は片目を閉じて主人公を見る。

これは「両目で世界を見ない」事で、片目を閉じて「セカイ」に生きる主人公を見ている、と言う事を示している描写なんだが(書き方が難しいな。。)通じないと仕方無いが、読むとわかると思う。

最後、傍観者は主人の人形を線路に投げ捨てる。

これによって主人公は傍観者の事を意識して向き合う事になる。

友人、てのはそう言う存在じゃなかろうか。
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