壮絶! 大西秀明 生まれながらのお笑いモンスター
2022年2月27日 更新

壮絶! 大西秀明 生まれながらのお笑いモンスター

優しすぎて純粋すぎて、そして面白すぎるジミー大西。そのケタハズレのエピソードと天然ボケにはどんな芸人もかなわない。人々に爆笑と癒しを与える最強のお笑い芸人である。

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数分後、やけにスッキリした顔で出てきた大西は、リビングに向かう途中、階段で四つん這いになっているミニスカートの女性に遭遇。
白い太ももを舐め回すようにみた。
「なにしてはるんですか」
「ラップがここに・・・あったあった」
収納スペースから新品のラップを取り出した女性とすれ違うとき、大西はいい匂いを嗅いだ。
女性は皿に並べた肉にラップをかけながら
「大西君、モテるやろ。
野球うまいし、ええ体してるし、うち大西君みたいなスポーツマン好きやで」
といった。
「好きですか?
ホンマに?」
女性は作業を続けながら
「ウン、好き」
大西は、荒い息を吐きながら、ズボンをズリ下ろした。
「キャー」
下半身ムキ出しで近づいてくる大西に気づき、女性は、悲鳴を上げた。
「どないした!」
スティングの面々が駆けつけ、大西を引き離した。
「なにしてんねん、お前!
若の彼女やぞ」
「マネージャーやないんですか!?」
「アホか!
ものすごいわかりやすく付き合っとったわ」
さんまは大西の頭をスパンとはたいて大笑い。
大西はケツ丸出しで女性に向かって土下座。
「もうエエ。
今日は終いや」
さんまの一言でスティングの食事会はお開きになり、大西はズボンをはいた。
そして
「明日からしばらく東京やけど、迎えはいらんから」
というさんまに
「ええ、なんやいてへんのか」
とつぶやいてしまい、大西はみんなににらまれた。
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ある日、新喜劇に欠員が出て、吉本は
「出るいうてもセリフは一言だけやし、アイツならギャラもいらんし」
と大西が出すことにした。
そしてよく懐いているという理由で、それをさんまに伝えてもらうことにした。
さんまは楽屋に大西を呼び、新喜劇出演の話をした。
大西はあからさまに動揺し口をパクパクさせた。
「やっぱり無理せんほうがええな。
俺が断っとくわ」
「や、やります」
「やるんかい」
「やらせてください」
「そうか。
ほな、まあがんばれよ」
「が、がんばります」
「そこは『お前もがんばれよ』や」
「お前なんていえません」
「弱い立場のヤツが強い立場のヤツにいうからおもろいねん。
権力への挑戦や。
権力に挑戦したら笑いが大きなるねん。
緊張と緩和や。
アカン、笑いを理屈で説明するとドンドンおもろなくなる。
感性でいけ、感性で」
「はい」
「『はい』はアカン。
『ようし、わかった』や」
「ようし、わかった」
「おお、今日はこの辺でエエわ。
がんばれよ」
「お前もがんばれよ」
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緊急代役の大西にとって収録当日のリハーサルが唯一の練習となった。
座長の岡八郎はまず説明した。
「エエか?
セットは和室。
ここは見合いの席や。
君はジッとこの席で座ってる、見合いする女性の兄。
寡黙な兄やからメッタにしゃべらん。
仲人のワシが『お嬢さんの好きなもんは何ですか?』と聞く。
で、君が一言いう。
いくで!」
そういって岡八郎は仲人の席に着いた。
「お嬢さんの好きなもんは何ですか?」
「大西です」
「名前いうてどうすんねん」
岡八郎は顔をしかめ、大西にもう1度台本を読むよう促した。
台本には、妹の好きなものを聞かれてアドリブで答えるよう書いてある。
そして練習再開。
「お嬢さんの好きなもんは何ですか?」
「豚饅頭」
「OK。
これでいこ!」
大西はそれからずっと
「豚饅頭、豚饅頭、豚饅頭、豚饅頭、・・・」
と自分の大好物を唱え続けた。
やがてさんまが陣中見舞いにやってきて
「おう、やっとるな。
がんばりや」
と肩を叩かれた。
岡八郎や他の芸人とカラんで笑わすさんまをみて、大西の顔つきは険しくなった。
(本当に豚饅頭でエエんか?)
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なんば花月に軽快なテーマソングが流れ、新喜劇が始まった。
やがて大西の出番が訪れ、
「ところでお嬢さんのこと、まだ聞いてなかったけど・・・」
「そんなあ」
仲人役の岡八郎に聞かれ、妹役の女優は恥ずかしがった。
「ほなお兄さんに聞くわ。
お嬢さんの好きなもんは何ですか?」
「豚饅頭」
というはずの大西は、口をパクパクさせながら立ち上がった。
しかしセリフは出ない
沈黙が続き、放送事故になるかと思われた瞬間
「おっ」
という声が漏れたので、岡八郎が
「お嬢さんの好きなもんは」
と再度聞いて促すと
「お、お、おめこ」
と搾り出すように放送禁止用語。
岡八郎、共演者、スタッフ、客、楽屋でスポーツ新聞を読みながらテレビをみていたさんままで全員が凍りついた。
すぐに舞台は暗転。
テレビの画面には
「しばらくお待ちください」
という文字が表示され、怒りで赤鬼のようになった岡八郎が大西に馬乗りになって殴打した。
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衝撃のTVデビューを果たし、顔を腫らせた大西は、出演を仲介してくれた明石家さんまに謝罪しにいった。
「すんませんでした」
さんまは笑った。
「お前、笑いをとりにいかなアカン思うたんやろ?」
「は、はい。
けどボク、ホンマにアホやから・・・
ボク、子供の頃からアホそのものやったんです」
「そらそやろ」
「最高やな、お前!
めっちゃ笑えんで」
「笑える?」
「ああ!
新喜劇も死にそうになったで」
大西はこれまでの自分の人生を語り、自分はなにをやっても失敗するダメなやつであると説明した。
するとさんまは爆笑。
「身の上話も極上やないか」
「あの、別に笑い話じゃなくて・・・」
「お前、自分のこと、ミジメや思うてるやろ」
「は、はい」
「アホ、お前にミジメって言葉、死ぬほど似合わんで」
自分ほどミジメな人間はいないと思っている大西は唇をかみ締めた。
「笑ってみ。
笑い飛ばしてみ。
そしたらな、今までの自分とか、お前のことイジめたりからかったヤツとか、全部見返せんで」
「・・・・・・・」
「あんな、この世に笑んことなんていくらでもあんねん。
けどな、それを面白いって笑ったら、笑ったもんの勝ちになるんや。
そういう風にできてんねん。
笑ってみ」
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後日、大西は、さんまの指令を受けた村上ショージに腕をつかまれて連行された。
「無理です」
「お前、チンチンくくれるんやったら腹もくくれ」
「ボ、僕、新喜劇は無理です。
八郎師匠の顔、2度とみたくないです」
さんまは大西にもう1度新喜劇に入るように厳命していた。
そして座長との顔合わせが行われるこの日に逃げることを見越し、村上ショージを迎えに行かせていた。
劇場に着くと舞台上に大勢の役者やスタッフが並び、その前に岡八郎、間寛平、花紀京、3人の座長が立っていた。
全員を代表して岡八郎が説明した。
「新人が新喜劇入るときは、どの座長の舞台にいっちゃん多く出たいか選ぶんや」
続いてショージがいった。
「ほんでな、選んだ座長に掘られるんや」
「ほ、ほ、ほ、」
「世話になるんやから全部差し出さなアカン。
さあ誰にするんや。
はよ選べ」
実はこれはドッキリ。
みんな大西が、どう拒み、逃れようとするか、笑いをこらえて反応を見守っていた。
すると大西はあっさり
「寛平さん」
と指名。
「えっ、オレ?」
寛平がいうと、大西はベルトを外し、ズボンとパンツを脱ぎ捨て、舞台に向かって走り出した。
「寛平さん、掘ってください」
四つん這いになってケツを寛平に向けた。
「イヤや、ケツ汚い」
「覚悟決めたんです」
岡八郎はドッキリだとバラそうとしたが、逃げる寛平を下半身裸で追いかける大西にはその声は届かなかった。
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こうして芸人の道を歩み始めた大西は、初日に、
「呼んできて」
といわれ楽屋にいった。
するとコワモテの先輩は寝ていて、起こさなくてはいけないが怖くてどうしていいかわからない。
それを横からみていた先輩芸人が
「いつまで寝とんねんいうたったらええねん」
とアドバイス。
「いつまで寝とんねん」
大西が大声でいうと先輩は飛び起きて
「誰にいうとるねん」
と殴られた。
また数日後、小道具として
「骨が折れたレントゲン写真が欲しい」
と頼まれた。
頼んだ側は、
「適当な写真を借りてきて」
といったつもりだったが、大西は
「自分の骨を折るしかない」
と道で拾った石で何度も自分の体を打って肋骨を折ろうとした。
そして病院へいき、医者に
「骨は折れとらんわ。
よかったな」
といわれると
「よくないわ」
と返した。
そんなことが何度もあって大西はゲッソリとなってしまい、Mr.オクレに
「死んだ?
死にたい?
どっち?」
といわれた。
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大西は、寛平にケツを向けた1週間後にはあまりのツラさに辞めようと思っていた。
そんなとき新喜劇に新人として片山理子が入ってきた。
「大西、お前と同い年やから仲良うしたり」
寛平が紹介すると片山理子は小さくガッツポーズをとって
「よろしく」
一気に大西の頭から悩み事が消え失せた。
そのときの新喜劇はボクシングの話。
理子は寛平の妹役で
「兄さん、ボクシングなんて野蛮よ。
もうやめて」
と訴え、寛平に
「そんなことあらへん。
お前もやったらわかる」
とうながされ、リングへ上がる。
そしてボクサー役の大西とスパーリングし、思いきりボコボコにしてダウンさせ
「やっぱりウチ、こんな野蛮なことできひん」
といって一同、ズッコケる。
このシーンの要は理子の豹変ぶり。
笑いを起こすためには思い切り殴らなければならない。
それが何度も繰り返され、稽古が終わった後、理子はハンカチを濡らして大西の顔に当てた。
「ゴメンな、思い切り叩いて」
「大丈夫やて
心配いらん」
大西は至近距離で理子を感じながら、自分で自分の顔を殴って笑ってみせた。
「大西君の笑顔ええなあ。
私好きや」
理子はそういって、自分のハンカチを握らせ、去っていった。
大西はその後ろ姿をみながら、ハンカチからするいい匂いを嗅いだ。
そして同い年の理子は
「マキちゃんの生まれ変わりや」
と思った。
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新喜劇の公演初日、大西はトランクスを履いて、舞台袖で理子と待機。
大西は放送禁止用語を発した舞台に続いて2度目、理子は初舞台。
むちゃくちゃ緊張している2人は励まし合った。
そして出番。
「兄さん、ボクシングなんて野蛮よ。
もうやめて」
「そんなことあらへん。
お前もやったらわかる」
寛平はそういって理子にグローブを渡し、大西に相手になるよう指示。
大西はうなずき、ファイティングポーズをとったが、ボコボコにされてしまった。
「やっぱりウチ、こんな野蛮なことできひん」
理子の言葉に全員がコケて、客はドッと笑った。
大西は、その押し寄せてくるような笑いを全身で受けた。
芝居が終わり、全員が舞台に立ち、寛平の合図で頭を下げると、客席から拍手をもらった。
緞帳が下り、客席がみえなくなっても、大西はあまりの余韻に舞台に立ち尽くしていた。
最高に気持ちがよかった。
するとそこに
「大西君!」
と理子が抱きついてきた。
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次の日、大西はリンドウの花を1輪買って、花月に向かった。
そしてさんまと理子を発見した。
「また東京で新番組始まるんですか?」
「せや」
「ほんなすごい。
私、今まで尊敬する人は母親やったんですけど、今はさんまさんです」
楽しげに話す理子に、大西は胸がギュッと締めつけられた。
そしてその場を離れ、ゴミ箱に花を捨てた。
それからは理子を避け続けた。
そして新喜劇でも集中力を欠き、ミスが増えた。
理子は心配し明るく励ましたが、大西は笑顔で応えることはなく舞台が終わると逃げるように帰った。
最終日の幕が下り、共演者が充実感で顔を輝かす中、大西はそそくさと舞台を離れた。
「大西君!」
理子が呼び止め、夕食に付き合って欲しいといった。
(誘うなら若を誘えばええやん)
大西はふてくされてうつむいた。
しかし押し切られる形で定食屋へ向かった。
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