手塚の演劇愛〜 漫画「七色いんこ」
2016年12月4日 更新

手塚の演劇愛〜 漫画「七色いんこ」

手塚治虫の「七色いんこ」、ご存知ですか? 手塚氏自ら、僕の作品のどの系統に入れたらいいのかという変わった作品。手塚氏の演劇愛にあふれた名作です。

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81年の少年チャンピオン・コミックス版
第1巻、表紙

名優にして大泥棒

「七色いんこ」は81年から翌82年まで週刊少年チャンピオンに連載された手塚治虫の作品で、同誌では「ドン・ドラキュラ」から2年ぶり(その間、散発的にブラック・ジャックが掲載されていますが、連載ではありません)の連載となりました。全46話。
81年から82年に全7巻が単行本化されましたが、46話中7話が収録されませんでした。
94年に刊行された手塚治虫全集版には全46話と、連載終了後に掲載された「タマサブローの大冒険」(主人公七色いんこは登場せず、その飼い犬タマサブローが活躍する、本編とは別のハナシ、、これがまた本編七色いんことは違うけど、よいのです、、^^)が収録されています。

あらすじに代えて、、第1話「ハムレット」

あらすじのご紹介に代えて、第1話「ハムレット」をご紹介します。

、、大スター大手上がだしぬけにアメリカ旅行に出かけ、代役を立てての舞台稽古。明日はぎりぎり帰国で明後日なんとか「ハムレット」の本番をという日に、彼は麻薬の運び屋としてFBIに逮捕され帰国できないことに、代役も不慮の事故でけが。絶体絶命の大演出家に、あちこちの劇団からの噂として、まったくの素人ながらすごい芸の力の持ち主で熱狂的にうけるという代役専門の「七色いんこ」という男の話が。ハガキで助けを求めれば彼が現れるというのです。
果たして劇場に小柄なしょぼくれた田舎風な老人が現れます。彼は七色いんこ本人だと言い、人払いをさせます。すると、小柄な身体も顔も頭髪も水っぱなも、すべて彼の演技だったことが分かります。彼が老人の変装を取り去ると下からは大手上のハムレットの顔が。これもまた彼の素顔ではなくメーキャップのひとつだというのです。
初日まで18時間で、新演出を叩き込んでもらうと稽古の舞台に上がるいんこ。
既に完璧に彼のなかに入っているハムレットの台詞、名演技。「使えるもなにもあいつの芝居はホンモノだ!!」「あんなのがかくれた役者として今まで世に知られてなかったなんて/いったいいままで日本の演劇はなにをしとったんだろう」
しかも、出演料はいらない、ただ劇場でなにが起ころうと見ないフリをしろというのが、彼の出演の条件—初日招待客の名士の宝石金品が盗まれるというのです。世紀の名優にして大泥棒、それが七色いんこなのです。
劇団は条件を飲みます。

一方、VIPのSPを目指し特訓を続ける武闘派の女性刑事、千里万里子は七色いんこ警戒の応援を指示されます。千里刑事の父でもある上司が危険な任務につかせたくないという親心からの命令なのでした。「芝居とか映画とか本とかマンガなんて/およそ縁なかったの…だから知識ゼロ…」という千里刑事は七色いんこ担当の刑事からハムレットのあらすじを聞きます。「芝居なんてみるのは/ヒヨワなヤツだと思ってバカにしてたの!」「そうだろうと思った…/なんかいうと恋があって/ネチャネチャベタベタするんだ大っきらいだ」。恋愛なんかしたことないし不潔だし時間の無駄、犯人を追っかけてる方がずっといいという仕事の虫なのでした。
稽古中のいんこに搦む千里刑事。小道具のフェンシングの剣で彼と決闘まがいなことに、、そしてなぜかいんこと至近距離で顔を見合わせると、経験したことのない胸のざわつきを感じるのでした、、

さて、いよいよ初日。財界のキング鍬潟隆介も高価な装飾品を身に纏った愛人を連れやってきます。パンフレットに仕掛けられた薬で倒れる愛人。駆け寄るSPを暴漢と勘違いして伸してしまう千里刑事。
舞台のいんこの代役は第一幕終了から客席にすさまじい拍手を呼びます。いんこは第二幕の台詞を勝手に鍬潟に当て擦るような内容に変え、彼に向かって投げかけます。立腹して席を立つ鍬潟。熱狂のまま幕は降ります。
後日、いんこ行きつけの喫茶店に彼を訪ねる千里刑事。愛人の装飾品は演出家に化けてパンフレットの薬で昏倒させた、いんこが掏り替えていたのでした。しかし、証拠はありません。
そして、鍬潟には陽介という演劇好きの息子がいたが、中学3年生のときに父を憎んで家出したといいます。いんこがその息子だと、千里刑事は睨んだのです。「おれはただの芝居ずきのドロボーさ 好きな芝居をさせてもらって それなりの見返りをもらう男だよ」と否定するいんこ。
代役の舞台と泥棒を続けるいんこと、尻尾をつかもうと追う千里刑事の関係の始まりです。
七色いんこ

七色いんこ

肩のいんこは、彼の名刺に描かれているもの。
小さな喋るインコを飼いならしていて、助手がわりにしている。
千里万里子

千里万里子

極度の鳥アレルギーで、鳥を見ただけで四等身ぐらいに縮んでしまう。
第1話から、いんこが呼び寄せた助手のインコの姿を見て縮んでしまい、追及を逃れられる^^;

手塚の演劇愛が生んだ作品

手塚氏の映画好きも有名ですが、とともに、自分の演劇好き、あまつさえ大阪の劇団に3年いたことも、先述の全集7巻の「あとがきにかえて」(81年の第4回手塚治虫ファン大会の講演採録)などで手塚氏自身が語っています。自分の作品のなかでも系統のわからない変わった作品としながらも、「七色いんこ」が演劇への愛ゆえの作品であるとも。

いんこはさまざまの舞台の代役に立ちます。その周りにある人間模様。
代役は舞台上の役とはかぎりません。死んだ元首相になりきり幽霊として代役を務める「修善寺物語」(チャンピオン・コミックス版第1巻第3話)、大やけどを負った裏社会の一族の長男になりすます「検察官」(同第2巻第2話)、美術館まで盗みのためのトンネル掘り、その“入り口”の家の父になりすまし娘と二人暮らしする「俺たちは天使じゃない」(同第5巻第2話)。

お気づきのように、ほとんどの回が有名な芝居がタイトルとなっています。その演目をいんこが演じている話のときも演じてない話のときもありますが、たんにいんこの舞台がその演目というだけでなく、元の芝居とおハナシ自体がリンクしています。父と息子の関係を描いた第1話のハムレットもそうです。

ときには舞台の代役も、誰かへのなりすましもないハナシもあります。
玉サブロー

玉サブロー

「幕間」(同第2巻第1話)は、タイトルには現れませんが演劇「ファウスト」が下敷き。
いんこの相棒となる玉サブローが登場します。
オスながら歌舞伎の女形のような流し目に犬離れした名演技、玉サブローはいんこが「演劇の神様」と呼ぶ人物から、子ども代わりとしてパントマイムを教え込まれた“名優”だったのです。
「神様」が亡くなってしまい、その遺言もあって、以後、いんこは玉サブローに居座られてしまいます。
第2巻第3話「じゃじゃ馬ならし」では、劇場の仕事ではなく旅行中のいんこに千里刑事が同行します。見合いを押し付けられ、逃れるための口実にいんこを追って東京を離れようというのです。
「旅行してくれたらチャンと尾行してあげるから?」「なんのこっちゃ いったい」
男谷マモル

男谷マモル

左が、男谷マモル

千里刑事の父が用意した見合いの相手。アメリカのバークレー大学に籍があり心理学を研究している(自称)。
、、というのも、登場回のこの「じゃじゃ馬ならし」のラストのコマでいんこのかつらの下の顔が読者にだけ見られ、それが男谷マモルであることが示唆される。
ところで、最初に出たチャンピオン・コミックス版の方は、各話の前にその回の下敷きとなっているお芝居の解説が付いていました。西村博子、辻真先、辻啓子の各氏。全集版は全話収録されているのはいいのですが、こちらは再録とはならなかったのは残念でした^^;

近づく二人

第3巻第2話「青い鳥」は数回に渡る中編で、いんこと千里刑事の距離が縮まります。
冒頭から、砂漠に立っているいんこに万里子が「好き」と抱きつくと、いんこが砂となって溶けていくという万里子の夢。
すると千里家(父と二人暮らしです)のマンションの下から交通事故の音。隣人の幼い女の子がひき逃げに遭ったのです。逃走車は真っ青の車。管轄外の仕事に、いんこまで付き合わせて、千里刑事は逃走車を捜査します。

いんこの昔なじみの自動車修理工場にいって、ついでにいんこの御坊ちゃま時代の話を聞いたり、青い車を追って入ったナイトクラブで千里刑事のスケバン時代の後輩に遭って昔話を聞いたり、、青い鳥ならぬ青い車を追った「青い鳥」な訳ですね。

ナイトクラブで得たヒントをもとにある研究所に向かった二人は、その門の前で夜明かしをするはめに。寒がる万里子に、いんこは抱きしめてキスし、殴られます>_< 殴ったものの夢のなかの万里子は「もっと」と幸せそう、、
研究所に入ってみると、主の所長は轢き殺されていました。青い車は鍬潟自動車の依頼で作製したコンピューターによって自律走行するロボット・カーだったのです。しかし試走で人間をはねてしまい、それを自らの仕事とインプットしてしまったのでした。

殺人カーは鍬潟も列席する披露パーティーへ。いんこと千里刑事が待ち受け、青い車と対峙します。ダミーの運転手の人形は男谷マモルの姿、それは鍬潟の家出した息子のものだったのです。“睨み合う”男谷といんこ—いんこが誘き寄せ、千里刑事の銃撃で青い車は破壊されました。
家出した息子に未練があってダミーを息子の姿にしたという鍬潟、、

千里刑事は尻尾をつかんだと、「あたしの気のむいた時にデートのお付き合いすること!」などと告げますが、いんこは籠の鳥にはなりません。追いかけっこはまだ続きそうです—。

終幕

※これから初めて「七色いんこ」を読もうという方は、この先は読まれないことをお勧めします!

最終話「終幕」も数回に渡るもっとも長いおハナシです。
いんこの隠れ家を突き止めた千里刑事は、いんこの回想録を見つけ読み続けます。
そこにはいんこの子ども時代からの回想が綴られていました。

これまでにも示唆されてきたように、いんこは鍬潟の息子陽介です。
二枚舌の“演技”で実のない父親を陽介は見てきました。幼い時に亡くした母の記憶も、もう次の妻も決まっているくせに大げさに泣いてみせる父の嘘の印象だけ。
父の教えで守銭奴のように振る舞う陽介はとうぜん孤独に。廃屋を隠れ家に別人に変装して成り切ることだけが、彼の救いだったのです。
wada y (1623930)

中学校に入学した陽介は、演劇好きの同級生朝霞モモ子と出会い、初めての信じ合う友、愛する女性を得ます。
出典 wada y
しかし、モモ子の父は鍬潟の悪事を明るみに出そうと追っている新聞記者でした。二人に付き合わないよう告げる双方の父親。しかし、モモ子の一家に父からの殺し屋が送られることを知った陽介は一旦は一家を逃がすことに成功したものの、結局一家は自動車事故に偽装され車ごと崖から転落。両親は死亡、モモ子も意識不明の重体となってしまいます。

その後、陽介は無理矢理アメリカの学校に送られるところを逃げ出し、ニューヨークでの放浪生活へ。文無しで凍死しかけていたところを、ピエロのトミーに救われます。
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