名脇役のおっさんたちが支える「ダイ」
夢破れし魔法使い~まぞっほ
偽勇者一味のうちの一人
彼の名はまぞっほ。いわゆる火事場泥棒である。彼は大げさなパフォーマンスと中途半端な力で勇者を名乗り、金稼ぎを重ねる「偽勇者」の一味であった。彼らの一味に誘われるが、そんな彼らを軽蔑するポップ。自分は「アバンの使徒」なのだから、小悪党の彼らとは違う、そうポップは切り返す。
しかし、まぞっほに「お前だって仲間を見捨てているではないか」と逆に指摘され、言い返すこともできないポップ。
そこには倒れたダイ、身動きが取れなくなったマァムの姿が映し出されていた。
「なんとかしてぇ・・・なんとかしてやりたいけどおれ一人の力じゃ・・・!」
葛藤するポップにまぞっほは発破をかける。
男のひとことが少年の勇気に火を灯した
その言葉に背中を押されたポップは、ダイを助けるため宿屋を飛び出していく。
彼の一言がなければ、ポップはヘタレの弱虫キャラのままでした。魔法使いを目指し、それに耐えられず、夢を諦めた一人の老いた男。しかし、彼はポップを仲間に引き入れることもせず、ポップの背中を押し、自分が果たせなかった夢を叶えてもらいたいと願うのです。かつて挫折した、弱い自分だからこそ、自分の力に疑問を持ち、進めずにいる若者の背中を押すことが出来る。
勇者にも、魔法使いにも、ヒーローにもなれないけれど、こうして誰かの力になることができる。
人生の先輩としてのバックアップ。それは年を重ねたからこそできる援助のやりかたかもしれません。
のちに彼とは意外な形で再会することになるのですが、それはまたもう少し後の話です。
ちなみにまぞっほの声優さんの青野武さんのもうひとつの役は、なんと「ハドラー」!驚きですね。
善き力がなによりの武器~老兵バダック~
好々爺のように見えますが、レオナ姫のお付きの兵士を務めていることから、剣の腕は相当なものなのでしょう。自称「パプニカ一の剣豪」または「パプニカの発明王」を名乗っているおちゃめなおじいさんです。
バダックさんはただの「自称発明家」ではありません。クロコダインの武器を自国「パプニカ」の金属で作り替えてあげ、さらに改良までしてしまいます。
戦場で芽生えた友情
「勝利の立役者に怪物も人間もあるかい!!」本来ならば、レオナ姫を襲撃した魔王軍に属していたクロコダインにわだかまりをもってもおかしくないのに、バダックさんはそんな壁など簡単に乗り越え、クロコダインとの間に友情を築いてしまいます。
彼はクロコダインを一流の武人だとまっすぐな視線で眺め、そこに全くフィルターを入れません。この柔軟さは発明家という属性ゆえでしょうか、好奇心も旺盛で気持ちが若く、物事に囚われないキャラクターです。
彼の楽天的で明るいキャラは、深刻になりがちなメンバーに笑顔をもたらします。
最後まで人を利用し、嘲り、挙句の果ては命を奪うことすら躊躇わないザボエラ。かつて同じ軍団長として戦ったクロコダインにすら、彼はあくまでその手段で生き延びようとする。そこには誇りなどなにもない。そんな彼の最後まで卑怯であった生涯にクロコダインは思いを巡らす。
自分はダイたちと戦い、人間の素晴らしさを知ったから今こうしてここにいる。
しかし、その出会いがなかったならば、自分はどうなっていたのだろうか。ザボエラの姿は、ダイと出会えなかったもうひとりの自分の姿だったのではないのか、と。
そんなクロコダインにバダックは声を掛ける。
「ワシの誇るべき友人 獣王クロコダインはたとえ敵のままでであったとしても、己を高めることに生命をかける 尊敬すべき敵であったろうと・・・ワシは思うよ」
友として、クロコダインの高潔さと己を高める意識の髙さを信じている。バダックの「善き力」は、クロコダインの心に刻まれます。
魔法が使えなくても、みんなの盾になれなくても、物事を曇りのない目で見てだれかの心を励ますことができる。バダックさんの武器は、クロコダインが思う「人間の善き力」そのものなのだと思います。
そういえばダイ大130話までをクロコダインに注目して読んでたけど、ダイ戦の時に雑兵の野次程度に狼狽えてたのがよほど卑怯な作戦を恥じていたんだなぁというのが分かった。これが「いいぞ…人間は…」の裏返しでずっと引きずってる様子なんだけど後にバダックさんの言葉に報われるのが良いんだ。
— はにわはお(夏コミ3日目F27b) (@dwarf828) June 5, 2016
無私の熱血魔法使い~大魔導士マトリフ~
人間関係に嫌気がさして隠居中
おまえの役割は何だ、とマトリフ激怒
「生意気ぬかすなっ!!魔法使いの魔法は仲間を守るためのものなんだ!」
マトリフは小さな魔法一つも疎かにせず、どうすれば自分の魔法で仲間を守れるか考えろ、とポップに自覚を促します。
「よお・・・三流大魔王・・」・マトリフ因縁の対決
「てめぇの専売特許とでも思ってたのか?おめでてぇヤツだ」
ただのすっとぼけたおじさんに見えたマトリフが、かつて大魔王を倒したほどの魔法使いである、という凄みが伝わってきます。マトリフさんのこの憎まれ口が本当にかっこ良い!
師から教え子へ~受け継がれる魂~
極大呪文、それをポップに授けるために
その無理がたたり、大きな呪文を唱えるとそれに耐えられず、体がボロボロになっていました。
「命が縮まって100年なら長いほうだ。いいかポップ おまえはまだ若い無理せずともいずれは強力な呪文が身につく・・・」
衰弱した体にも関わらず、弟子と見込んだポップのために、マトリフは禁じていた魔法を使うことを決意します。
体を犠牲にして、失敗すればポップも吹き飛び、消滅するという巨大な呪文を。
マトリフさんはアバン先生と違って褒めて伸ばしません。ただ厳しい状況に置いて、相手の生命力で覚えさせるという荒業を使います。ポップが戦友であるアバンの弟子だから、というだけでは自分さえもどうにかなりかねない技の練習など、引き受けるはずもありません。
ポップがそれに値する力を持っていると信じているからこそ、老体に鞭打ってこの特訓を引き受けたのです。
こいつを避けたら・・・二度とあの人を師匠と呼べねえっ・・・
「こいつを避けたら・・・二度とあの人を師匠と呼べねえっ・・・」
「ありがとよ」それを受けて立ち、不敵にほほ笑むマトリフ。
一対一の真剣勝負ができるのは、お互い全力を尽くすと信じているからこそ。
自分が身に着けた力を、若い世代に繋いでほしい、マトリフはそれを継いで行ける相手が現れたことに喜びを感じていたのではないかと思うのです。
おめぇも男なら 一生に一度くれぇ本物の英雄になってみせろ!
象徴的な一シーンです。かつてポップを奮起させた男、まぞっほ。
「相手の強さで出したり引っ込めたりするのは本当の正義じゃないっ!」という言葉はマトリフからまぞっほ、まぞっほからポップへ受け継がれた言葉だったのです。
彼を通じて出会う前から引き継がれた正義の魂。
黒の核晶を凍らせようとするマトリフ。MPが切れてしまったため、まぞっほにそれを託す。
「最後にチョコッと手を出すだけで英雄になれるんだ。こんなボロイ役はねぇ…!!」
英雄になれなかった男がヒーローになった瞬間。マトリフさんの言葉が沁みます。
ダイの大冒険に出てくる魔法使い、ポップとマトリフ、それにまぞっほの対比がほんと良くて…お話の凄い最初の方で詰んだ善行が巡り巡って終盤も終盤でちょっとしたご褒美に姿を変える、あの優しさよ…
— 丁字 (@pincta) June 2, 2016
ポップは冷静で、頭がいいから、絶対に自分がクロコダインに勝てないことが分かっている。ダイのように捨て身で飛び出していくことが、どうしても怖くてできないのです。しかし、今後このポップの自分の力量を客観的に分析する能力と頭の回転、それがダイたちを何度も救っていくことになります。
しかし、可愛いなあと思ってる子に「あんたなんか最低よ!」と言われてぶん殴られてぶっ飛ばされても、ポップの足は動きません。そんなポップの背中を押したのは一人のおじさんでした。