ニヒルな悪役・ミッキーこと成田三樹夫とは?
2023年4月29日 更新

ニヒルな悪役・ミッキーこと成田三樹夫とは?

「仁義なき戦い」などのヤクザ映画には欠かせない悪役俳優であった成田三樹夫。彼の意外な一面も含めて紹介したいと思います。

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生い立ち

出身は山形県。1935年四男一女の三男として誕生。父親は秋田、旭川、仙台の刑務所長を歴任した役人で、母親は雑貨店を営んでいました。本人と長男は東大、次兄は早稲田大学に進学し、地元ではエリート兄弟と評判だったそうです。彼は文武両道。剣道三段、水泳、野球など何でもこなす万能選手でした。

高校時代に演劇に興味を持ち地元の演劇コンクールにて「蜘蛛の糸(芥川龍之介)」を脚色し優秀賞を受賞しています。大学は先述のように東京大学(理科一類)に入学したのですが、生理的にあわず1年で中退。その後、山形大学(人文学部英文学科)に入学するも芝居に熱中しすぎて2年半で中退しています。それから俳優人生を歩むことになる俳優座養成所へ入所したのでした。

俳優デビュー

1963年に俳優座養成所を卒業しましたが、劇団からのスカウトはなく、自ら大映と大部屋俳優として契約しました。当時大映は市川雷蔵・勝新太郎・若尾文子らのスターが全盛を誇っており、成田自身、自分の力を試してみるために大映を選んだのだといいます。

1964年に映画「殺られる前に殺れ」のギャング役で正式にデビューします。その後端正な容姿とニヒルな敵役として徐々に売れ、1965年の映画「座頭市地獄旅」に出演し敵役の地位を不動とすることになります。彼の唯一の主演映画は1968年の「怪談おとし穴」で、野心家の商社マンを演じています。
映画「怪談おとし穴」

映画「怪談おとし穴」

一流企業で出世コースをばく進する倉本治夫役に成田三樹夫をキャスティングした、ジャパニーズホラー映画です。

成田の鋭い眼光の先にあるものは…


大映を退社後は、映画以外にテレビ時代劇にも活躍の場を広げ、1972年の千葉真一主演映画「狼やくざ 葬いは俺が出す」出演して以降、「仁義なき戦い」シリーズ、「やくざ戦争 日本の首領」シリーズなどのヤクザ映画に欠かせない俳優となります。引き締まった体に端正な顔立ち、そこに鋭い眼差しとドスの利いた声で、知的なヤクザをやらせたら成田以外の者はいないだろうと評されるほどになりました。

また「柳生一族の陰謀」などの時代劇大作の常連俳優にもなります。1972年の大河ドラマ「新・平家物語」では藤原頼長役で出演しましたが、ヤクザ役とは違い甲高い声色で、それまでのイメージを一新しました。この経験が1978年の映画「柳生一族の陰謀」の烏丸少将文麿役に活かされ、白塗りの公家メイクに甲高い声で語尾は「おじゃる」といった具合で、公家役に徹しました。これを転機にコミカルな役柄など増えて行ったそうです。

「隠れていても獣は臭いでわかりまするぞ」 強すぎる公家・烏丸少将文麿



転機後の作品では、テレビドラマ「探偵物語」のダメキャラの悪徳刑事役や、テレビドラマ「サンキュー先生」の校長役の藤岡琢也と掛け合い漫才をする教頭役などが代表的だと思います。
ドラマ「サンキュー先生」

ドラマ「サンキュー先生」

教頭役の成田三樹夫は、クールなヤクザ役とは違い、校長役の藤岡琢也との掛け合いなど面白みのある役柄です。

趣味

読書が好きで、高校時代からはアルチュール・ランボーに心酔して詩を書いていました。
50歳頃からは俳句も詠むようになり、自由旋律の句が多く残されました。病床についてからもあらゆるジャンルで多くの本を読んだ証が読書ノート。その余白には繊細な詩が書かれていたそうです。

彼の仕事である俳優業に対する句や仲間たち、そして家族を慈しむ句など眼光鋭い彼の外見からは想像がつかない素敵な作品が遺されました。夫人にも20世紀ドイツの作家であるハンス・カロッサを進め、夫人の愛読書となっています。彼の没後、夫人の手によって「鯨の目」と題されて句集が出版されました。その句集には読書ノートの一部も掲載されています。

読書のほかに将棋もアマチュア三段の腕前で、NHKの将棋番組にも出演しており、トーナメントでは聞き手として出演もしていました。将棋連盟普及部が発行するしぶき監視「将棋」にはエッセイも寄稿しています。彼の父親もまた将棋好きでアマチュア七段であったそうです。子どもの頃は兄弟で将棋の駒で遊んだり、将棋をうったりと小さなころから将棋に親しんでいたようです。

腹の内と殺意の交換【座頭市地獄旅】勝新太郎 成田三樹夫

将棋のシーンです。

おしまいに

調べいくうちに成田三樹夫は強面でニヒルですが、とても繊細で文学的な方だったのだと思いました。句集「鯨の目」に載せられている一句一句に俳優としての彼や家族を愛する彼の心が詠まれていて、もっと永く生きていたならば、どんなに素敵な句を詠んでいただろうと惜しまれます。

個人的にはビーバップハイスクール世代なので、映画「高校与太郎哀歌」での成田三樹夫は本物のヤクザにしかみえなかったことを記憶しています。映画の役柄は藤本テルの父親でしたが、若いタレントさんたちの中に本気の悪役がキャスティングされてるのは今になって驚きです。どうやらこの映画の監督である那須博之夫妻が「仁義なき戦い」のファンであったことと、監督の妻である那須真知子は映画「探偵物語」の脚本を書いていたことということで成田にオファーしたようです。当時、撮影現場で初めて台本に目を通すほど多忙だったようで監督に「なにやってたかわからなかった」と撮影の感想を述べています。

いろいろな顔を見せる成田三樹夫。彼の出演作品や彼の書き残した言葉「鯨の目」を読んでみたくなりました。
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