【桃尻娘】橋本治はこんなふうに世に知られてきた
2019年5月13日 更新

【桃尻娘】橋本治はこんなふうに世に知られてきた

平成31年1月に亡くなられた作家の橋本治さん。長編小説や評論だけでなく、中世・近世の日本文学にも及ぶ多作な作家でしたが、彼が世に出てきたときはこんなふうなデビューでした。彼の業績のほんのさわりをご紹介。

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橋本治の文章は軽妙、でも小難しい

橋本 治(はしもと おさむ、男性、1948年(昭和23年)3月25日 - 2019年(平成31年)1月29日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。
作家です。非常に多作な作家さんです。
wikiに著作が出ていますが、
小説だけでなく戯曲、評論、エッセイなど
ここまで多岐にわたってこれだけの著作を持っている方は
そうはいないと思います。

橋本治を名前だけ知っている人はたくさんいると思いますが
橋本治を少しでも読んだことのある人は
「橋本治の言っていることは小難しい」
ということも知っているはず。
「難しい」のではなく「小難しい」のです。

「難しい」と「小難しい」の違いはなんだ?

学術的な専門用語とか、文体が直訳調とか、句読点が少なくて文章が長いとか
そんな「難しさ」は、橋本治の文章にはありません。
むしろ使っている言葉は平易でくだけていて
話し言葉で読者に語りかけるように書いているのですが
その内容がちょっとややこしい。

彼の考えている、とにかくいろいろな事象を
彼は言葉をつくして説明しようとしている、
我々にわかるやさしい言葉で、あらゆる角度から説明してくれるのですが
それがあまりに多くの角度から多くの言葉で語られるので
「いやもうおなかいっぱい」
な感じになってしまう、というのが
橋本治が「小難しい」と感じられる要因だと思うのです。

橋本治 世に出るきっかけはイラストレーター

そんな橋本治ですが、
世に知られるきっかけになったのは、ポスターのイラストからです。
東大紛争がピークを迎えた昭和43(1968)年、
東大駒場祭のポスターを
当時東大在学中の橋本治が描いたのがはじまりでした。
機動隊や大学当局と激しく衝突する我が子を落ち着かせようと、白かっぽう着に赤いカーネーションをつけて、キャラメルを配るママたちがいたのですが、「おっかさん」はそのママたちのことですね。
そういう背景を知ると、なかなかキャッチ―な文言に思えます。

橋本治は、もともとイラストが好きで描いていた方だったようです。
この駒場祭のポスターが描かれる前、浪人中にも雑誌「映画の友」に映画スターの似顔絵を投稿して3回連続特選を取ったと、自筆経歴に記載があります。
それによるとこのポスターは本人的には黒歴史らしいのですが(笑
東大文学部国文科に進み、歌舞伎を専攻しながらイラストの仕事もしていたそう。
「週刊新潮」で梶山季之の『ぽるの日本史』の挿絵を描いたり。
あと、イラストは関係ないけど
「クイズ・グランプリ」で優勝してヨーロッパに行ったりしてたようです。
やっぱり頭いいんだな。
昭和枯れすゝき レコードジャケット 1974年

昭和枯れすゝき レコードジャケット 1974年

この前年に東大を卒業しています。
卒論は「四世鶴屋南北の劇世界」。
その後、北斎を専攻して研究生になりますが
このジャケットを作った頃にはイラストレーターが仕事になっていました。
さくらと一郎の「昭和枯れすゝき」をドラマ『時間ですよ・昭和元年』に挿入する際に、レコードジャケットを気に入ったプロデューサーの久世光彦が、オープニングタイトルのバックの制作を橋本治に依頼したそうです。
切り絵の雰囲気がとても昭和っぽいですよね。

芝居がやりたかった・・・でも書いたのは「桃尻娘」

1976年、橋本治はいきなり「ミュージカルがやりたい」と言い出し
『ぼくの四谷怪談』『義経伝説』という戯曲を書きだします(未発表)。
が、日本で戯曲は受けないと言われて
頭にきて(笑)書き始めた小説が
あの『桃尻娘』。
『桃尻娘』(ももじりむすめ)は、橋本治の青春小説シリーズ、及びそれを原作とした日本映画・テレビドラマ・ビデオドラマ。

シリーズ第1作の「桃尻娘」は、1977年に第29回小説現代新人賞佳作を受賞し、『小説現代Gen』第3号(講談社)に掲載された。橋本治の小説家としてのデビュー作である。
桃尻娘 / 橋本治 著 講談社 1978年

桃尻娘 / 橋本治 著 講談社 1978年

当時出版された版の書影ですね。
帯に、「野坂昭如氏絶賛」とありますが
橋本治はこの選評を聞かされて「ザマァミロ」と言って泣いたそうです(自筆経歴より)。
装丁もごく普通で
タイトルから多くの方が想像するであろうエロ系の本じゃないです(^^;)
ちゃんと「シティ感覚のユーモア”青春”小説」って書いてあるでしょ。
タイトルがキャッチ―すぎますよね。
wikiにも、「日本で初めて女性の性欲について書いた作品とされる。性に対して奔放なヒロイン」なんて書いてあるんですが、
いや、そこまで書いてないし!ていうか、なんでそこ、そこだけェ!って思っちゃうのよォ。

えーとつい桃尻語調で憤ってみましたが、
要するに女子高生の一人称語りで語られる饒舌な私生活の話です。

書いているのは、15歳女子のホンネ

女の子ってこういうもの、女子高生ってこういうもの
という「ワク」の中で表面上おさまっていながら
心の中では全然おさまらずマシンガントークのように一人称で喋りまくる主人公の玲奈ちゃん。
とにかくいろんなものにブチギレてる。
「性に対して奔放」な部分もなくはないけど
文庫本換算で52ページ中3ページくらいしかその描写はないんだな。
あとはちょいととろくさい友人とか
がっつりホモなクラスメートとか
いささか情けない無自覚な美少年とかとの会話をメインにしながら
自分の周囲の「普通」で「常識」な事象に対して
ガンガン文句言ってる、そういう小説です。

それを29歳の(女子高生から見れば)おっさんが書く

玲奈ちゃんの心の声は、「~なの」「~だわ」「~かしら」なんて言わない。
一人称「あたし」の玲奈ちゃんは、
目の前の「あんた」だけでなく、あんたの前にいる「あたし」も含め
けっこう冷徹な目でバッサバッサ言葉で切り返していく。
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