黄昏の文学 直木賞作家にして文化勲章受章者、杉本苑子
2018年3月6日 更新

黄昏の文学 直木賞作家にして文化勲章受章者、杉本苑子

昭和半ばから平成にかけて、文化と文学の黄昏とも呼べる時代があった。同じ時代を指して黄金期であったという声もある。あの時代には誰がいたのか。何が書かれていたのか。今回は直木賞作家にして文化勲章受章者、杉本苑子を追いかけてみよう。

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孤愁の岸

 1962年下半期の直木賞受賞作品。
 作者には「孤愁の岸」以前に「申楽新記」「燐の譜」という作品があるようだが、詳しいことはわからなかった。
孤愁の岸

孤愁の岸

財政難に喘ぐ薩摩藩に突如濃尾三川治水の幕命が下る。露骨な外様潰しの策謀と知りつつ、平田靭負ら薩摩藩士は遥か濃尾の地に赴いた。利に走る商人、自村のエゴに狂奔する百姓、腐敗しきった公儀役人らを相手に、お手伝い方の勝算なき戦いが始まった……。史上名高い宝暦大治水をグローバルに描く傑作長編。
 武士階級と言えば支配者であるというイメージをお持ちの方も多いだろう。
 だが彼らのうち大半は階級のなかのトップの人間というわけではないのである。
 武士階級や藩といった社会のなかには、もちろん将軍や藩主と言ったトップもいるが、それ以上に平社員各の武士たちが存在している。
孤愁の岸

孤愁の岸

 平田靱負は実在の人物。家老と呼ばれる立場の人間である。
 だが幕府からくだった無茶な命令と下の人間たちとの間に挟まれ、なかなか苦労の多い生涯を送ったようだ。

滝沢馬琴

 第12回吉川英治文学賞受賞作品。1977年のことである。
滝沢馬琴

滝沢馬琴

滝沢馬琴の苛酷な生を描く吉川英治文学賞受賞作。「南総里見八犬伝」「椿説弓張月」等で名声を得た馬琴は、保守的で狷介な性格のため人と衝突することも多く、苦しい家計と病弱な家族の煩労も、一身に負っていた。
 滝沢馬琴の名は知っている方も多いだろう。教科書にも出てくるうえ、「南総里見八犬伝」の著者である。

 だが馬琴は複雑な男でもあった。江戸時代の物書きというのがそういう立場なのである。
 Wikipediaなどには、
ほとんど原稿料のみで生計を営むことのできた日本で最初の著述家である。
 と書かれているからさぞや良い身分だったのだろうと思われがちだが、若い頃は勤めが長続きしなかったり放蕩無頼の生活をしていたりと苦労も多かったらしい。

穢土荘厳

 1986年、第25回女流文学賞受賞作品。
穢土荘厳

穢土荘厳

華やかに咲き誇る天平文化の裏側で恐るべき陰謀が進行していた。持統、元明、元正ら蘇我氏系の女帝に対し、宇合を中心とする藤原氏が権力奪取を企てたのだ。最大の政敵長屋王襲撃で闘いの火蓋は切って落とされ、血で血を洗う抗争が一気に―。長屋王一族滅亡から大仏開眼までを重層的に描き、女流文学賞に輝く歴史大河小説。
 舞台は天平。
 西暦729年から749年までの期間で、聖武天皇が治めていた時代である。
 当時は奈良の都、平城京が文化の中心となっており、平安時代のひとつの盛りとなっている。

 代名詞はやはり東大寺の大仏、東大寺盧舎那仏であろう。いわゆる奈良の大仏である。
 この仏像は745年に制作が開始され、752年に開眼供養会が行われている。

マダム貞奴

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