松田優作主演の映画 『野獣死すべし』
製作は角川春樹事務所。配給は東映。監督は松田との数々のコンビ作で知られる村川透だった。
また、「処刑遊戯」や「探偵物語」で松田出演作の脚本を手掛けた丸山昇一が、本作の脚本を担当した。
これは大藪が伊達を野性的なタフガイとして位置付けていたのに対して、丸山は原作が書かれた時期とは時代の様相が大きく異なっていたことも鑑みて、当時の若者から感じ取った、掴みどころがなく陰湿な不気味さを持った人物として伊達を描いたことに起因する。
ありえない逸話だらけの主演・松田優作
その間、松田は10kg以上もの減量をし、62kgまで体重を落とした。さらに頬がこけて見えるようにと上下4本の奥歯を抜いたという。
約1ヶ月後、撮影所に現れた松田の痩せ細った姿に監督の村川透が激怒し、松田と激しい口論を始めたという逸話も残されている。
ただ、主人公の身長設定は「180cm前後」もしくは「180cm以上」とされており、松田の身長は公称185cm(美由紀夫人の証言から実際には183cm)のため、大きくかけ離れている訳ではなかった。
この逸話は松田の演技へのストイックな姿勢を物語る際によく用いられるものとなっている。
狂気の殺人者・伊達邦彦の物語
ある大雨の夜、東京都内で警視庁捜査第一課の岡田警部補が刺殺され、拳銃を奪われる事件が起きた。更にその直後、その拳銃を使用した違法カジノ強盗殺人事件が発生、世間は騒然となる。
その犯人は、数々の戦場で地獄を見てきた大手通信社外信部記者の伊達邦彦だった。
伊達は東京外国語大学卒のエリートで頭脳明晰、射撃の心得もある。
現在は通信社を退職し、翻訳家をしながら趣味である読書とクラシック音楽鑑賞に没頭、社会とは隔絶した生活を送っていた。
次の標的を銀行に定めた伊達は綿密な計画を企てるが、厳重な防犯体勢の元では単独犯行は不可能であると判断、相応しい共犯者を欲するようになる。
そしてある日、大学の同窓会に出席した伊達は、レストランでウェイターとして働く青年、真田と出会う。
2人は正反対の性格ながら、どこか通じ合うものを感じ、以後行動を共にするようになる。
現金強奪計画を真田に伝えた伊達は、真田に銃の扱い方を教え、「動く標的」として恋人の殺害を強要する。そして、躊躇を重ねながらも恋人を射殺した真田を伊達は「君は今確実に、神さえも超越するほどに美しい」と称え、社会性や倫理感を捨て去り「野獣」として生きていく術を説く。
真田徹夫(鹿賀丈史)
エリートで固められた伊達たちに対して、因縁をつけ、終いには暴力をふるう厄介者であり、狂犬だった。
真田が同級生とトラブルになっている様子をじっと観察していた伊達に気づき、「何見てんだお前!」とまたも喧嘩を吹っかけてくるが、直後にレストランを勢いで辞めてしまう。
2人は銀行襲撃を決行するが、伊達に思いを寄せる華田令子が客として偶然居合わせるという、予期せぬ事態が起きる。
行員達を次々と殺害し、地下金庫から大金を収奪すると逃走を図るが、そこにはマスク姿の伊達を見つめる令子の姿があった。振り返った伊達はマスクをはずし、躊躇することなく令子にも引き金を引く。
警察の緊急配備網を巧みな鉄道移動で突破したかに思えたが、岡田の部下で伊達を執拗に追い回す変わり者の刑事・柏木は、どこまでも伊達に付きまとう。
そしてついに決断した柏木は、夜も更けた鉄道の車内で伊達に拳銃を向け、尋問を始めたのだが…。
伊達の趣味であるクラシック音楽の演奏会で出会った華田令子(小林麻美)
偶然レコード屋で再会し、華田がアプローチを掛けるもどこか素っ気ない伊達だった。
刑事と対峙する緊迫した電車内のシーンでは、まばたきなし!
銀行強盗の後、真田と逃亡する伊達。
普通は自動車で現場を離れるものだが、裏をかき、電車を乗り継ぎ逃亡するが、途中で刑事の柏木と遭遇してしまう。
銀行の事件を知り、伊達の後をつけていく柏木は、深夜に無人となった電車の車内で、ついに伊達を犯人と断定し、銃口を向ける。
しかし、伊達が唐突に「リップヴァンウィンクル」の話をはじめ、あっけにとられる柏木。
銃をすっと伊達に取られ、強制的に柏木のみがロシアンルーレットをさせられる。
「リップヴァンウィンクル」の話で、とても美味しい酒が出てくる。柏木が何の酒か尋ねる。
「ラム、コアントロー、それにレモンジュースを少々シェイクするんです。わかりますか?」
「X・・・Y・・・Z」
「そう、これで終わりって酒だ」と、引き金を引く伊達。
しかし、弾は出ずに、脱力する柏木。
直後、逃げ出す柏木だったが、伊達はその背中に弾丸を撃ち込み、仕留める。
実際はモデルガンではあるが、劇中グリップ部分の裏面が映し出される際の隠し文字は、入手した時点で既に掘られていたそう。