ピコ太郎のモデル?無頼派芸人「トニー谷」
2017年11月11日 更新

ピコ太郎のモデル?無頼派芸人「トニー谷」

1950年代前半に活躍したコメディアン「トニー谷」をご存知でしょうか?トニングリッシュと呼ばれる独自の言語を駆使した舞台パフォーマンスで人気を博した彼は、同時に、その強すぎる個性ゆえに多くの人から疎まれる、嫌われ者でもありました。そんな、ピコ太郎のビジュアルモデルにもなったとされるトニー谷について調べてみました。

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ピコ太郎と似ている?

去年一大ブームを巻き起こしたピコ太郎。彼のビジュアルにはモデルが存在したのをご存知でしょうか?
モチーフにしたとされているのは、昭和に活躍した舞台芸人(ヴォードヴィリアン)・トニー谷。オールバックのヘアースタイルとメガネ、ハの字の口髭…。たしかに、外見的特徴にはかなり類似点があり、胡散臭そうは雰囲気もそっくりです。
ピコ太郎

ピコ太郎

トニー谷

トニー谷

もともと、トニーを模したキャラとして有名だったのが、赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』に登場するイヤミです。ルックス的に似ているのはもちろんのこと、語尾に「~ざんす」をつけるところ、外国語交じりの言葉づかいなところ、常に人を見下したような態度をとるところなど、トニーの芸風そのものをコピーしているといっても過言ではありません。
イヤミ

イヤミ

ようするに、トニー谷というヴォードヴィリアンは、それだけキャラが起っていたのです。彼の歩んだ芸人人生は、破天荒の一言に尽きます。しかも、それはスポットライトが当たる舞台の上・テレビカメラの前だけに限った、破天荒さではありません。楽屋裏、私生活、全ての局面において傲慢不遜、厚顔無恥を貫き、どれほど憎まれ、嫌われようが、お構いなしに悪役芸人としての流儀を通し続けた、空前絶後の怪人なのです。
そんな不世出のヴォードヴィリアン、トニー谷について迫りたいと思います。

“素人芸”で身を立てたという意味で、タモリと同じ?

異端・邪道・外道芸人の華である‐

評論家・小林信彦氏の名著『日本の喜劇人』においてこのように評されるトニー谷。彼は所謂、師弟関係の中で芸を磨いたタイプの芸人ではありません。素人芸によって身を立てた成り上がり者であり、そういった意味でタモリに似ているといえるでしょう。本人も晩年、このサングラスの後輩タレントをいたく気に入っていたようで、『今夜が最高!』で共演も果たしています。

若かりし頃のタモリと晩年のトニー谷

際立った独特の言語感覚

彼の芸風で際立ったのが、その独特なしゃべり方。「レイディース・エン・ジェントルメン!…アンド・おとっつぁん・おっかさん!おこんばんわ!ジス・イズ・ミスター・トニー谷ざんす!」という自己紹介をはじめ、「アイブラユー」「ネチョリンコンでハベレケレ」「さいざんす」「バッカじゃなかろか」など、日本語と英語を奇妙に捻じ曲げて自己流にアレンジする才能に長けていたのです。

もう一つ有名なのが、そろばん芸。彼の代表曲『そろばんマンボ』において、まるで打楽器のように、軽快かつリズミカルに叩きならす様は、一見の価値ありです。
しかしこれ、坊屋三郎のアイデアをパクったのものだったらしく、怒った坊屋がイチャモンをつけるも、トニーは「盗まれるほうが間抜けなんだよ!」と逆ギレしたといいます。

晩年のトニーによるそろばん芸

また、トニーはもともと、50年代にブームとなったジャズコンサートにおける司会業で人気に火がついた芸人ということもあり、客イジリもお手の物でした。しかし、愛のあるイジリではありません。うるさい客がいると「シャラップ!アホウ!」「おだまり!」と一喝し、ある公演などでは、客の頭を蹴り上げていたといいます。
実に粗暴な振る舞いですが、これがウケていたというから、当時いかに人気者だったか分かるというものです。

とにかく共演者・スタッフから嫌われまくっていた

前述したように、トニーは楽屋裏でも破天荒。楽屋に乱入してはヌードダンサーや女性タレントに抱きつき、触りまくったといいます。また、古川ロッパ・柳家金語楼・伴淳三郎といった先輩喜劇人に対しても、一切、敬意を払わず、裏方のスタッフには、しょっちゅう理不尽な難癖をつけて怒鳴っていたのだとか。当然ながら、このようにあたり構わず、横柄な態度を取るトニーを好きになる者など誰もいませんでした。

トニー谷の『そろばんマンボ』

嫌われていたためか、後ろでトニーのパフォーマンスを無視している共演者がたくさんいる。

暗い少年時代を過ごしていた

トニーは、徹底して私生活を黙秘するコメディアンでした。舞台やテレビで自分のことを語らないのはもちろん、生い立ちについて少しでも質問されると、烈火のごとく怒っていたというから、そのこだわりたるや半端ではありません。

その裏には、自分の過去に対する強烈なコンプレックスがあったとされています。トニーは、東京市京橋区銀座生まれ。実父はトニーが誕生する少し前に死亡。代わりに戸籍上の父となった伯父からは、ひどい虐待を受けたそうです。
17歳の時には、実母も病死。実の両親を2人共に亡くし、戸籍上の父とその再婚相手の継母からは、さらに過酷な仕打ちを受けることに。これに耐え切れず、トニーは家を飛び出し、18歳にして自活の道を歩んだのでした。

こうした暗い思い出を含めた一切の過去を、トニーは封印しました。大谷正太郎という本名さえも「谷正」と偽名を使い、完全に抹消しにかかります。少年時代の友人から「正ちゃん!」と声を掛けられても、「人違いでしょう」と一蹴。戦時中同じ部隊にいた戦友、実の妹が訪ねてきても門前払いを食らわし、「楽屋への訪問、知り合いといいふらすこと、全部お断りします」と言い放ったといいます。ここまでする人、他にいるでしょうか?
トニー谷

トニー谷

26 件

思い出を語ろう

     
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  • chisquare 2020/1/20 15:07

    トニー谷と言えばキザでイヤミでオゲレツなキャラで一世を風靡したボードビリアンだが、戦後の日本人の自虐を出発点とする彼の芸風は徹底的に自己を否定、嫌悪の対象とすることで成立すると考えていたようで、そうしなければ人気を保てないという決意だったろう。果たして昭和30年の誘拐事件によって彼の子煩悩な素顔や辛酸に満ちた生い立ちが暴露されると却って人気は急落した。その後の彼の素顔をうかがわせる番組はラジオの「天晴れ風来坊」や「トニーの童話」だ。特に前者は「寅さん」とチャップリンの「キッド」と「母を訪ねて三千里」を合わせてミュージカルにしたような連続放送劇で、子供好きで優しく情に厚い行商人を演じていた彼のラジオドラマ代表作だろう。また後者はこれも子供向けの優しい童話を読み聞かせる番組だった。表看板の顔からすると信じ難いが、これが彼の素顔でなくてはこんな演技ができるはずはない。このような番組は録音や台本すら残っておらず完全に忘れ去られた。だが彼はその後も嫌味と毒気を舞台外まで貫いた。テレビで一時復活するが、彼の芸風は「もはや戦後ではなくなった」日本では長くは受け入れられなかった

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