イーストウッド最後の西部劇「許されざる者」。リアリティを追及した映画!
2016年6月12日 更新

イーストウッド最後の西部劇「許されざる者」。リアリティを追及した映画!

1992年公開の「許されざる者」。クリント・イーストウッドが監督と主演を務め、アカデミー賞も受賞した。最後の西部劇と言われ、徹底的なリアリティを求めた撮影エピソードから、イーストウッドの「許されざる者」にかけた想いを感じ取れる一作。

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そして、一人で酒場に乗り込んでいく。
酒場の入り口にはネッドの死体が棺桶に入れてあり、哀れにも晒されている。
中では保安官などが集まり、賑やかなムード。
正面のドアから堂々と中に入るウィリアム。彼はまず店長を撃ち殺す。

次に、保安官の地位を巧みに利用して暴力で人々を支配していたダゲットに弾丸を撃ち込んだ。そして、刃向った者達もを次々と殺害。
大銃撃戦の後もマニーは息一つ切らさず、「殺されたくない奴は裏口から出ていけ」と淡々とした口調で言う。そそくさと出ていく店内の者達。

昔の殺し屋時代同様、時折ウィスキーを飲み、平静を保つマニー。
そして、虫の息ながら反撃を試みるダゲットに「お前は生きるに値しないのさ」と、とどめの一発を与えた。

雨の降りしきる中、馬に乗り、マニーは子どもたちの待つ家へマニーは帰っていくのだった。
冷酷かつ冷静沈着なマニー

冷酷かつ冷静沈着なマニー

徹底的なリアリティを追求した映画

イーストウッドの本作への熱意はセットや撮影にも反映されている。 たとえば、自動車のタイヤ跡などで雰囲気が壊れることを避けるため、町のオープンセットへの出入りは馬のみと厳令。

また室内シーンでは、一貫してランプしかなかった当時を想定した光量の照明で撮影することにこだわった。 そうしたリアル志向、役者たちの妙演、深遠で重厚なテーマ性が見事に融合。世界的ヒットを記録する
保安官ダゲットの後ろが、舞台となった「ビッグ・ウィスキ...

保安官ダゲットの後ろが、舞台となった「ビッグ・ウィスキー」のセット

イーストウッドはこの映画の脚本を製作の10年以上前から既に買い取っていた(それまではフランシス・フォード・コッポラが一時的権利を所有し、またケビン・コスナーも映画化を狙っていた)が、期間を置いたのは自身が主人公のマニーと同じ年齢になるのを待っていたためである。

また、当時落ち目だったイーストウッド自身もキャリアの今後をかけていた。ゆえにモーガン・フリーマンやジーン・ハックマンを集結させる事になった。

「暴力的な作品にはもう出演しない」と心に誓っていたジーン・ハックマン。脚本を読み、しかし、非常で理不尽な暴力が描かれているが、「これは暴力映画ではなく、暴力を否定する映画だ」として出演を受けた。結果としてアカデミー最優秀助演男優賞に輝いたのである。
アカデミー最優秀助演男優賞に輝いたジーン・ハックマン(...

アカデミー最優秀助演男優賞に輝いたジーン・ハックマン(保安官ダゲット役)

ガン・ファイトの結果起こる、ガンマンの心理までも、本作では圧倒的なリアリティを持って描写される。
ネッドは土壇場になって賞金首を殺せなくなり、ライフルをマニーに預け離脱するし、キッドは賞金首を殺害すると心に深い傷を受け、もう人殺しはしないと誓う。人間を殺すことが、ここではある種の呪いとして、個人の心をむしばんでいくのである。

それは、味方や動物、女や子供まで殺しまくることに、何の恐怖も罪悪感も感じてこなかったウィリアム・マニーでさえ例外でない。
マニーはことあるごとに自分が殺した人物の亡霊をそばに感じ、その手につかまれ、地獄へ引きずられ死んでいくという妄想で怯えている、老いぼれた農夫である。

「殺人」自体に正義も悪もなく、それを犯してしまった人間は、いますぐではないにしろ、いつかその行為の意味に向き合わねばならない。
自分が善良さを取り戻せば取り戻すほど、皮肉にも精神が苦しめられていく。これが『許されざる者』が発掘し提示した、新しいリアリズムである。

作品データ

【監督】 クリント・イーストウッド
【脚本】 デイヴィッド・ウェッブ・ピープルズ
【製作】 クリント・イーストウッド
【撮影】 ジャック・N・グリーン
【音楽】 レニー・ニーハウス
【配給】 ワーナー・ブラザーズ
【出演】クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマンetc.
この映画を機に「監督クリント・イーストウッド」の地位を確立していった。転機となった一作。
また、イーストウッドはこの頃から「マディソン郡の橋」や「ミスティック・リバー」のような文芸性の高い作品も製作していく事となる。
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