黒柳朝    トットちゃんの母、チョッちゃん
2024年6月4日 更新

黒柳朝 トットちゃんの母、チョッちゃん

黒柳徹子の母、黒柳朝。バイオリニストの黒柳守綱に略奪、監禁されて結婚。戦争、夫の徴兵、300機のB29による東京大空襲、疎開、焼け野原となった東京で遭った寸借詐欺、黒柳徹子の結婚詐欺、どんなときでも自分らしく生きたチョッちゃんのエピソード。

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黒柳朝子の2歳上のダンナ様、黒柳守綱は、東京、墨田区本所生まれの江戸っ子。
父親は、長崎で蘭学を学んで医者となり、かつ熱心なクリスチャンでもあり、本所教会の長老までなった。
本を乗せた見台の前に正座し、片手はキチンと膝の上、もう一方の手でページをめくって読む人物で、往診から帰ってくると、車夫が
「お帰りぃ~」
と叫び、妻、子供、書生、お手伝いさんまで全員が玄関に集合。
板の間に手をついて
「お帰りなさい」
とお出迎え。
黒柳守綱は母親は、黒柳朝子いわく
「女優の沢口貞子さんと山本陽子さんを合わせたような、とても美しい人」
いつも着物で
「なにがあるかわからない」
と財布に必ず使わないお札を1枚入れておく人だった。
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黒柳守綱には、櫻村(松竹蒲田撮影所の初代所長)、修治(ジャーナリスト・カメラマン)という兄がいたが、2人は静かでおとなしいのに1人だけヤンチャ。
小学校は遅刻の常習犯で、1時間目の授業は、いつも後ろに立たされながら受けた。
古着屋の子供がイジメっ子だったことに腹を立て、水を口に含んで並んでいる商品に吐きかけたり、兄がイジメられて帰ってくると、タンコブをつくりながら報復した。
8歳のときに父親が亡くなり、12歳から三越呉服店で働き始めた。
三越にはクラシック音楽を演奏する「三越少年音楽隊」があり、バイオンリンを学び始めた。
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一方、黒柳朝子は、北海道空知郡滝川町生まれのエゾっ子。
父親は、仙台医学専門学校(東北大学医学部)卒の開業医だが、黒柳守綱の父親よりも25歳若かった。
母親は、子供のお古の洋服を着たり、寒ければ長いスカートの上に短いスカートをはいたり、長袖の上に半袖を着たり、着るものにまったく無頓着。
洗濯機のない時代、寒い北海道で手を赤くしながらゴシゴシ、ジャブジャブ洗濯するのは大変で、こまめに洗濯することはできず、2、3日に1度着替えないこともあった。
「いいことをしようとしていることに神様が力を貸してくださらないはずはない」
という信念を持ち、余ったお金があれば教会に寄付をしてしまうので、母親の財布はいつも空だった。
狭い町なので町中みんな顔見知りで、父親はほとんど全員を診ていたが、治療費は盆と暮れのまとめ払いのため、買い物をするときは、ほとんどツケ。
黒柳朝子も学用品や本などを
「これちょうだい」
といってもらって帰り、買ってもらうとか買うという感覚はなかった。
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長女である黒柳朝は、母親がミッションスクール(キリスト教の教えを教育理念に掲げる学校)、宮城女学校)に再入学したとき、一緒に仙台へ転居。
2年間、仙台東二番町小学校に通った後、北海道に戻って岩見沢高等女学校に進学し、4年間、寄宿舎生活。
音楽教師の勧めで北海道の実家を出て、東京都千代田区麹町の親類の家に住みながら、東洋音楽学校((現:東京音楽大学)に通った。
声楽科3年生のとき、日本のオーケストラの礎を築いた作曲家、山田耕筰のもとでアルバイトを開始。
オーケストラの演奏に加え、豪華な衣装を着た俳優が芝居をしながら歌い、コーラスやバレエまで入るオペラは、音楽の勉強になる上、舞台衣装を着けて歌うこともあるのがうれしく、声楽科の生徒として学びと実益を兼ねた楽しいアルバイトだった。
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山田耕筰は、東京音楽学校卒業後、三菱財閥総帥、岩崎小弥太の援助を受け、ドイツのベルリン王立芸術アカデミー作曲科に留学し、日本人初の交響曲「かちどきと平和」を作曲。
帰国後、日本初の交響楽団「東京フィルハーモニー管弦楽団」を創設したが、不倫問題で岩崎小弥太の逆鱗に触れて支援を打ち切られ、たった1年で解散。
その後、「日本演劇協会」を創立し、オペラを上演。
さらに「日本交響楽協会」を設立するも不明瞭な経理を理由に大部分の楽員が離れ、黒柳守綱ら4名が残って「新交響楽団」を結団。
山田耕筰は、数々の失敗で40歳にして多額の借金を抱えながら、日本語による歌曲を追求し「赤とんぼ」などの名曲をつくった。
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黒柳朝は、そんな破天荒な作曲家が主催するオペラ「椿姫」「お蝶夫人」「カルメン」でコーラスガールを務めた。
オペラ「堕ちた天女」は、歌舞伎座で練習1ヵ月した後、本番2ヵ月というスケジュールだったが、その間、黒柳守綱は、黒柳朝を
「ずっと狙っていた」
22歳の黒柳守綱は、新交響楽団(NHK交響楽団の前身)のコンサートマスター。
「第2の指揮者」ともいわれる楽員のリーダーだった。
オペラ「堕ちた天女」の最終日、黒柳守綱は黒柳朝をお茶に誘った。
19歳の黒柳朝は、バイオリンを下げている黒柳守綱をみてオーケストラのメンバーだと認識し、友人もよくオーケストラの人たちと遊んでいたので
「1回くらいいいか」
と思い、ついていった。
「これがどんな大変なことになるか、一生まで変えてしまうことになろうとは・・・」
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連れていかれたのは最新式のアパート「乃木坂倶楽部」の1階の喫茶店。
山盛りのサクランボを出され、
「サクランボ、好き?」
と聞かれた黒柳朝は、
(こんなおいしいもの、誰でも好きだろ)
と思いながら
「大好き」
と答えた。
そして喫茶店で話し込んだ後、
「ちょっと僕の部屋に行ってみない?
すぐ上だから」
といわれ、
(この建物全体が彼のものなのかしら?
ずいぶん大きな家を持っている人なのだなあ)
と思った。
そして断るのも悪く2階の部屋へ。
コンクリートづくりの6畳くらいの部屋は、ベッドと机とソファーがあるだけ。
ソファーに座ると机に上にきれいな女性が猫を抱いて藤イスに腰掛ける写真が飾ってあり、コップに入れた水が供えられていた。
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その後、アルバムなどをみせてもらったが話は盛り上がらず、落ち着かない朝は、
「もう帰ります」
すると黒柳守綱は
「何時かなあ」
といって時計をみて、
「アッ、もう電車ないよ。
泊っていかなきゃダメだよ」
黒柳朝にとって、それは思いもかけない事態だった。
まず思ったのは
(伯母に怒られる!)
だった。
麹町の伯父の家、豊島区雑司が谷の音楽学校、兄に連れていってもらった銀座、友人たちといった新宿しか知らない黒柳朝には、ここが何というところで伯父の家までどのくらい離れているかわからない。
一般庶民は電車やバスで出かけるのが当たり前、タクシーなど使えば「ぜいたく」といわれた時代にタクシー代などあるはずもなく、
(人さらいにさらわれた)
(人買いに売られてしまう)
と体がガタガタ震える思いで、
(よく知らない男の人についてきてしまって私はなんて馬鹿なんだろう)
と悲しみでいっぱいになった。
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電車がないといわれたとき、
(もう帰れない。
絶体絶命だ)
と思ったが、帰った後のことを考えても
(ああ、男の人の部屋に無断で泊ってしまうなんて、なんていい訳したらいいんだろう)
と伯母や母に怒れることが怖かった。
黒柳朝は、
「もちろんそう思うように彼(黒柳守綱)に強く説得された」
「ですから、もうほんとに略奪愛なのです」
というが略奪に成功した黒柳守綱は、出かけるとき、逃げ出さないように、部屋の外からもカギをかけた。
熱心なクリスチャンである黒柳朝の母親は、音楽学校に行っていた娘が突然いなくなってしまい消息がわからなくなった数日間、
「娘を返して下さい。
無事で元気でいてくれるようにしてください」
とただひたすら祈った。
しかし娘は、家出同然のまま同棲生活に突入した。
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そんなプレイボーイな黒柳守綱だが、仕事にはとても厳しかった。
若い頃、天才ヴァイオリニストと呼ばれ、21歳でNHK交響楽団のコンサートマスターとなったた黒柳守綱は、団員がミスをするとにらみつけ
「みんな死に物狂いで弾いているのに、なんで間違えるんだ」
と怒り、
「怖い」
と恐れられた。
「特にヴァイオリンに関しては鬼だった」
という黒柳徹子は、家でのヴァイオリンのレッスンで自ら美しい音で演奏し
「景色がみえるように・・・・」
と指導していた黒柳守綱が、レッスンが終わった後、帰りの玄関で生徒が
「先生、今日は天気がいいですね」
というと急に怒り出し、
「今、君が考えなければならないのはヴァイオリンのことであって天気のことじゃない。
そんなことどうだっていいじゃないか」
というのを目撃した。
また黒柳守綱は結婚後、1度も浮気をせず、仕事以外はいつも黒柳朝と一緒にいた。
70歳で黒柳守綱が他界したとき、黒柳朝は、
「いつもママきれい、ママきれいっていってくれてたけど、そういってくれるパパがいなくなったら、私なんてただのおばあちゃんじゃない。
せめてもうちょっと早く死んでくれれば私だってまだ次のチャンスがあったのに」
といい、その後、アメリカに住んだり、公演活動をしながら95歳まで生きた。
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