ロバート・デ・ニーロ主演の『ディア・ハンター』はただのベトナム戦争の映画ではないのだ!
2017年1月24日 更新

ロバート・デ・ニーロ主演の『ディア・ハンター』はただのベトナム戦争の映画ではないのだ!

若者の心の在り様を丁寧に描き、その友情と苦悩を描き切ったロバート・デ・ニーロ主演の『ディア・ハンター』。ベトナム戦争をテーマにした映画としてひとくくりにされることもあるが、それだけではない。想像もつかないことが起きてしまう今の時代。そんな、無力さに心折れる時にこそ、何が大切かを教えてくれる映画なのだ。

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まずは、強烈!『ディア・ハンター』のロシアンルーレットから!

全編183分のなか、戦場でのシーンは1時間にも満たない。その中に、映画史上あまりにも有名なシーンがある。言わずと知れた「『ディア・ハンター』のロシアンルーレット」。まず衝撃のこのシーンから見てもらおう。

強烈なシーンだが、このシーンがこの映画を象徴するものではないことを前提にしておきたい。

『ディア・ハンター』が私たちに語りかけてくること

 『ディア・ハンター』は、マイケル・チミノ監督による1978年公開のアメリカ映画。ベトナム映画を描いた名作として、非常に人気が高い。「好きなアメリカ映画ベスト100」などのランキングでもたびたびランクインする映画だ。
 1960年代末期のベトナム戦争での過酷な体験から、心身ともに深く傷を負ってしまった若者たちの友情や苦悩を描いている。

 前述したとおり、この映画は上映時間が長い。しかし、この長さで丁寧に描いているからこそ、『ディア・ハンター』は名作なのだということができる。ベトナム前とベトナム後の、若者たちの心の在り様のあまりに強烈なコントラストに、観る者はやりきれなさを抱くだろう。
 戦争だけでなく、自然災害や日々の事故、さまざまな出来事によって、誰でも心身ともに大きな傷を負うことがあるのだと私たちはあらためて気付く。ただ、人間の運命は容易にどうにでもなってしまうのだと知っても、前を向いて生きていこうとする人間の姿は確かにあるのだということを、この映画は語りかけてくれる。

<ストーリー>

 ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外の鉄鋼などの製造工業の町クレアトン。製鉄所で働くロシア系移民のマイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スティーブン(ジョン・サヴェージ)、スタン(ジョン・カザール)、アクセル(チャック・アスペグレン)、ジョン(ジョージ・ズンザ)は、仕事が終われば、バーに繰り出し、ビリヤードを楽しみ、ヒット曲「君の瞳に恋している」に熱狂する、仲の良いごく普通の若者グループだった。

無邪気としかいいようがない。「君の瞳に恋している」を聴きながら歌いながら、酒を飲み、ビリヤードをする若者たち。その様子は見ている方が気恥ずかしくなる。この時点では、自分の運命はどうなるかなど、ほんの少しも想像していないように見えるのだ。
そんな折、スティーブンとアンジェラ(ルターニャ・アルダ)の結婚式と同時に、徴兵され、ベトナムの戦地へと赴くマイケル、ニック、スティーブンの壮行会が行われる。ニックはグループの女友達の一人であるリンダ(メリル・ストリープ)に結婚の申込み、彼女は喜んでそれを受け入れる。兄貴分のマイケルは、ニックがリンダのことを好きだということを知りながらも、リンダのことを気にしているのだった。
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メリル・ストリープが美しい。デ・ニーロとの絡みのシーンはなんだか感動すらするのだ。そんなシーンを含めた前半のスティーブンの結婚式周辺を描いた約1時間はやたら長いと言われる。しかし、コレがあるからこそ、他の戦争映画と一線を画す価値があるのだと思う。
結婚式や壮行会も終わり、スティーブンとアンジェラを送り出したマイケルは、突然裸になり、街を走り出す。追いついてきたニックにマイケルは言う。

「何でこうなったんだろう。
周りがすごい速さで変わってく。
おれたち帰って来られるか?」

マイケルの言葉に、ニックは言う。

「おれにはこの町がすべてだ。
でも、万一の時は必ず連れ帰ってくれ。
置き去りにするな。おれは本気だ、約束しろ」

 ニックの言葉にマイケルは言うのだった。
「任せろ」

 一夜明けて仲間たちで一緒に鹿狩りに出かける。マイケルはそこで見事な鹿を仕留めるのだった。
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結婚式の翌日、鹿狩りを行う若者たち。そこでのやりとりも、その後を見ているとわかるように、実に計算しつくされていると思う。
 そして、戦地ベトナム。
 アメリカは予想外の苦戦を強いられている。偶然、戦場で再会するマイケル、ニック、スティーブンの3人。しかし、ほどなく、3人は捕虜となってしまう。

 捕虜となった3人を待っていたのは、北部ベトナム兵士によるロシアンルーレットだった。川沿いの捕虜小屋の中で渡される弾一発が装填されたリボルバー。捕虜たちはそれを自分のこめかみにあて引き金を引かなければならない。北ベトナム兵士はそれを楽しんでいるのだった。

 他の捕虜のロシアンルーレットでの銃弾の音に発狂寸前となるスティーブン。しかし、冷静なマイケルは北ベトナム兵士の心理を逆手にとって脱出策を考え出すのだった。笑いながら引き金を引き、ほとんど半狂乱のように振る舞うマイケルは、弾倉内の弾を3発に増やすことを提案。その提案を聞き入れた北ベトナム兵士のスキを突き、彼らを射殺する。窮地を脱したマイケルは、ニックとスティーブンを連れ、捕虜小屋を脱出する。
 
 しかし、濁流から自軍のヘリに救助されたのはニック一人。ヘリから落ち、足を損傷したスティーブンを担いでマイケルは街道に辿りつく。行軍中の味方のジープにスティーブンを預け、マイケルは歩いて町に向かうのだった。
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狂気のシーン。デ・ニーロの笑顔(でも、笑っていない)がまた迫力があるのだ。
 勲章を受け、一人、アメリカに帰国するマイケル。仲間たちは歓迎してくれるが、もう以前のように振る舞うことはできなくなっていた。影をまとうマイケルに戸惑う仲間たち。

 そんなマイケルは、両足を失い、隠れるように陸軍病院で治療を受ける失意のスティーブンを尋ねる。そこでサイゴンからスティーブン宛に謎の送金があることを聞く。ニックの存在を感じたマイケルは再び、サイゴンに向かうのだった。
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帰国後の鹿狩りで、マイケルはスタンの銃に対する軽い態度に激怒する。その姿はベトナム帰還兵として象徴的だった。映画全編を通して、「銃」が、生と死を操るものとして重要な意味をもって描かれていたと思う。

サイゴンでニックと再会したマイケル。しかし、ニックはマイケルのことがわからない。そして、再びロシアンルーレット。マイケルが、ニックの名を呼びながら、抱きかかえるシーンはどうにもやりきれない。
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ニックの葬儀のあと、仲間たちは「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌う。

<キャスト&スタッフ>

監督/マイケル・チミノ
脚本/デリック・ウォッシュバーン
原案/マイケル・チミノ、デリック・ウォッシュバーン、
ルイス・ガーフィンクル、クイン・K・レデカー
製作/マイケル・チミノ、バリー・スパイキングス、
マイケル・ディーリー、ジョン・リヴェラル
出演者/ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン
ジョン・カザール、ジョン・サヴェージ、メリル・ストリープ
音楽/スタンリー・マイヤーズ
撮影/ヴィルモス・スィグモンド
編集/ピーター・ツィンナー
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