黄昏の文学 村上龍の初期作品たち(「限りなく透明に近いブルー」「海の向こうで戦争が始まる」「コインロッカー・ベイビーズ」)
2017年6月16日 更新

黄昏の文学 村上龍の初期作品たち(「限りなく透明に近いブルー」「海の向こうで戦争が始まる」「コインロッカー・ベイビーズ」)

 昭和半ばから平成にかけて、文化と文学の黄昏とも呼べる時代があった。同じ時代を指して黄金期であったという声もある。あの時代には誰がいたのか。何が書かれていたのか。今回はご存知の方も多いだろう、村上龍の初期作品を取りあげる。テレビでは冷静な姿を見せる彼の、暴力的とも言える表現とテーマをおぼえておられるだろうか。

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コインロッカー・ベイビーズ

コインロッカー・ベイビーズ

 村上龍のテーマは実はかなり手堅い。自分自身の出自経歴に違和感や劣等感を抱く人物がアイデンティティというものをいかに構築するか、他者といかに向き合うかという命題は現在でも様々なクリエイター達に追いかけられている。
 そこに強烈なタイトルや表現方法(「クリトリスにバターを」)、時代性が強いアイテム(「コインロッカー・ベイビーズ」)を持ってきてしまうから誤解をされることも多い。だがここで妥協をするということは作品のコンセプトや表現そのものに妥協をするということにも繋がってしまう。少なくとも当時の村上龍はそういう小説家ではない。

 今、村上龍は65歳である。2010年あたりからカンブリア宮殿などに出演していることもあってだいぶ冷静で、落ち着いている印象を受ける。芥川賞の選考員としてもかなり現実的で、また正しいことを言っている。いつだって根拠や理由が明確であるし、作品とは関係の無いことをあまり言わない。着眼点は鋭く、根本的である。
 それが、例えばノブレス・オブリージュ(高い地位や立場にともなう責任)などを考慮した結果の妥協であるとは思えない。村上龍自身が変質したということはありえるかもしれないし、それは年齢のせいであると言うことも可能ではあるだろう。だが彼の活動の幅広さと動機を見ているとやりたいことそのものが変化しているだけのようにも見える。
 若い頃の彼はあまりにも尖っていた。それこそ文壇の大御所ひとりが匙を投げる程度には。それが、いわゆる若気の至りや見栄っぱりだったと断言してしまうのは危険だろう。
 彼と彼の作品は、複雑で、真剣に考えるとたいへんに難しいが、それに値するだけの価値を持っているのである、というようなことを思うのだがこれは本人の目の前で言うとものすごくイヤな顔をされるのではないか。
村上龍

村上龍

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