自分自身の体験や気づき
松本さんは、漫画家としてデビューして、一生懸命描いても、作品が売れたり売れなかったりする時期が続きます。
「クビが飛んで悔しい思いも何回もした」そうです。
しかし、マンガを描き続けていた幼い頃から、描いたものを「漫画映画」にするという夢がありました。実際、自主製作もしたそうですが、36歳の時にチャンスがやってきます。
『宇宙戦艦ヤマト』をTVアニメ化する話でした。
ところが、『宇宙戦艦ヤマト』の視聴率が悪くて、スポンサーが降りてしまった。
当初3クール39話の予定だったのが、急きょ2クール26話で打ち切りになった。
呆然として「アホらしい」とも思ったけど、落ち着いて考えてみれば、突然の休暇が訪れたようなものだった。
冒頭で紹介した、古代守=ハーロック案も、これで吹き飛んでしまったわけです。
TVアニメ制作のために空けておいた時間が自由に使える。
幼い頃から探検物語や冒険物語で夢見ていたアフリカへ行こうと決心したんだよ。
38歳の時だった。
「何か連載してくれ」と少年画報社に頼まれた『銀河鉄道999』を10話ほど編集に渡して旅立った。
レオパードロックからキリマンジャロを見て悟りを開く
アフリカで空と大地が接しているのを見、さらに360度眺望の効くレオパードロック(ヒョウの山)からキリマンジャロを見て悟りを開いたわけよ。
「ここは、俺が生まれる前からここにあり、俺が死んだ後もここにある」
と考えたら、視聴率が何だ、原稿料がどうしたと、そんなものはどうでもよくなっていた。
悟りが体に流れ込んでくるというのは、こういう感覚なんだと思った。
アフリカの夜空の星は宝石みたいにピカピカだったんだよ。
『銀河鉄道999』の長期連載化が決定し、没になりかかっていた『キャプテンハーロック』の企画も復活。日本を離れる前、あれだけ逆風が吹いていたのに、すべてが息を吹き返し、大逆転したのでした。
私たちがTVや映画に夢中になる前に、こんなことが起きていたのです。
ハーロックとトチローを描き続ける
もちろんハーロックとトチローも、様々な形でいろいろな作品に登場しました。
今まで見てきた様々な背景や要因が、物語の広がりやセリフの奥深さをより高めたのではないでしょうか。
なかでも、『銀河鉄道999』と『わが青春のアルカディア』の中の、ハーロックとトチローのエピソードは、心に響くものがありました。
『わが青春のアルカディア』ファントム・F・ハーロックⅡ世
第2次世界大戦中、メッサ―シュミットMe109Gの愛機アルカディア号で、大空を駆けたドイツ空軍大尉。撃墜王と呼ばれたほどの名パイロット。
大山 敏郎
レビC12D照準器の研究をしている技術者。
戦火を脱出するため、ハーロックのメッサ―シュミット内部に乗せてもらう。
名前は敏郎だが、トチローの先祖という設定。
セリフはなく、音楽と効果音のみです。
トチローがアルカディア号の一部となるシーン、息を飲んで観ていました。