まだ戦後の焼け跡の匂いを残す河っぷちで、食堂を営む家族がある。
その一人息子である9歳の信雄(朝原)は、ある雨の早朝、橋の上で鉄くずを盗もうとする少年、喜一(桜井)に出会った。
雨に煙る対岸に、その日つながれた、みすぼらしい宿船の少年である。
舟の家には銀子(柴田)という11歳の優しい姉と、板壁の向こうで声だけがする姿の見えない母がいた。
友達になったことを父、晋平(田村)に話すと、夜はあの舟に行ってはいけないという。
窓から見える船の家が信雄を魅惑し不安にする。
子供達の交流が深まり始めたある日、終戦直後に別れた晋平のかつての女房の病変の知らせが届く。
不可解な人生の断面が信雄に成長を促していく。
楽しみにしていた天神祭りの日、お金を落としたことでしょげ返る信雄を慰めようと喜一は、夜、舟の家に誘った。
泥の河に突き刺した竹箒に蟹の巣があり、喜一はその宝物である蟹にランプの油をたらし、火をつけて遊ぶのである。
船べりを逃げる蟹を追った時、信雄は喜一の母の姿を見た。
舟は廓舟と呼ばれていたのである。
翌日、舟の家は岸を離れた。
信雄は曳かれていく喜一の舟を追い続けて、初めて生きることの悲しみを自らの人生に結びつける。