昭和期における絵本の歴史について。
2020年3月5日 更新

昭和期における絵本の歴史について。

私たちの幼いころ、絵本や紙芝居といった娯楽が当たり前にありました。気が付けば情操教育に大きな役割を担ってくれた絵本の歴史について。

996 view

現代日本における「絵本」の起源と推移

日本では古くは平安時代より絵物語が存在しましたが、いまの日本で親しまれる絵本の形が出来てきたのは1900年代になってからのことです。西洋の新しい印刷技術が導入されて多色印刷が普及したこと、西洋の近代的な児童観の思想を反映した幼児教育制度が整ったことが、その背景にあったとされています。
1936年には、出版最大手の一社である講談社が「講談社の絵本」シリーズを創刊しました。全203冊からなるこのシリーズのフォーマットが以後の日本の絵本に大きな影響を与えました。私たち世代には学研の「ひみつシリーズ」にも似たフォーマットに映るかもしれませんね。
「講談社の絵本」シリーズ

「講談社の絵本」シリーズ

1945年、太平洋戦争を終えた日本にあって出版界は自由と民主主義という新しい価値観のもとで再出発を果たします。物資が不足する中、粗悪な紙で作られた雑誌や本が飛ぶように売れる時代がやってきました。貧しい日常下で国民が文化を渇望していた時代背景に後押しされて、絵本の歴史は本格的な歩みを始めることとなるのです。
民主主義の国を目指し子供に未来への夢と希望を届けようとする機運の中、「子供の広場」「赤とんぼ」など児童向け雑誌が次々に創刊され、数多くの出版社が誕生します。「二度と戦争を繰り返さず、平和な国を建設する」その担い手になる子供を育てたいという情熱で作家、画家、編集者を志す人が増えていきました。
1949年には新潮社「世界の絵本」シリーズが創刊。1953年には岩波書店「岩波の子どもの本」が創刊し「ちびくろ・さんぼ」や「ひとまねこざる」など外国絵本の名作が翻訳されるとともに、日本国内の昔話「ふしぎなたいこ」や「おそばのくきはなぜあかい」などの絵本が刊行されました。
「世界の絵本」シリーズ

「世界の絵本」シリーズ

「岩波の子どもの本」シリーズ

「岩波の子どもの本」シリーズ

1956年、現代では児童書出版の最大手の一社である福音館書店から月刊の物語絵本「こどものとも」が創刊。これは月ごとに一冊の絵本を創るという試みが画期的でした。テーマは実に幅広く、絵も洋画家や日本画家、漫画家に彫刻家など様々なジャンルから個性豊かな描き手を起用して、絵本の幅を広げることとなります。

「岩波の子どもの本」「こどものとも」は、ともにその後の日本の絵本作りに大きな影響を与えることとなりました。
「こどものとも」シリーズ

「こどものとも」シリーズ

1960年代、高度経済成長に沸いた日本では至光社や童心社、こぐま社、偕成社など児童書専門の出版社が次々に誕生します。各出版社が、明確なコンセプトを持って絵本作りに取り組むようになったのはこの時代からです。

1973年には絵本の専門雑誌「月刊絵本」が創刊され作家、画家、編集者たちが真剣に絵本とは何かを模索し、実験的な絵本も次々と出版されます。日本国内では環境問題など急激な経済成長の歪み、世界では戦争が絶えないなか、子どもには物質的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさを教えたいという意識が絵本に色濃く反映されていきます。
その間、絵本出版に携わる出版社は増加の一途を辿り、絵で展開する絵本、文字なし絵本、読者を子どもに限定しない絵本など、様々な新しい試みが誕生します。さらには、物語は作家が書き画家が絵を描くという分業から、画家が物語も絵本も創作するスタイルが登場してきます。
後に「絵本ブーム」と呼ばれた1960~70年代には、累計発行部数で600万部を超えるベストセラー絵本「いないいないばあ」を始め、「スーホの白い馬」「キャベツくん」「ふきまんぶく」など、現代にも読み継がれる絵本が数多く生まれました。

いないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本) | 松谷 みよ子, 瀬川 康男 |本 | 通販 | Amazon

770
Amazonで松谷 みよ子, 瀬川 康男のいないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)。アマゾンならポイント還元本が多数。松谷 みよ子, 瀬川 康男作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。またいないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)もアマゾン配送商品なら通常配送無料。
1980年代、子どもを取り巻く環境は大きく変化していきます。日本経済はバブル景気を迎え消費社会化が進む一方で、1970年代の反戦や社会運動の動きは衰退していきます。この時代には多くの絵本が出版されては次々に消えていきましたが、自然破壊が進み核家族が一般化する中で、いわむらかずおの「14ひきのシリーズ」が人気を博しました。

14ひきのシリーズ 12冊セット(全12巻) | いわむら かずお |本 | 通販 | Amazon

15,840
Amazonでいわむら かずおの14ひきのシリーズ 12冊セット(全12巻)。アマゾンならポイント還元本が多数。いわむら かずお作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。また14ひきのシリーズ 12冊セット(全12巻)もアマゾン配送商品なら通常配送無料。
1990年代になると、数多くの絵本作家や画家たちが活発な絵本評論を展開するようになり、絵本について幅広く研究する絵本学会も設立されました。国内には次々と絵本美術館が誕生し、絵本原画展も数多く開催されるなど、絵本が文化の一つとして広く認識されるようになりました。

21世紀にはいると、1960~70年の「絵本ブーム」をリアルタイムに体験した世代が作家や編集者となって、コンピュータの普及と相まって絵本表現の多様化がすすんでいきます。

経済、利便性が十分に進化した現代。しかしながら絵本が与えてくれる独特の温もりや暖かい気持ちは、いつまでも大事に紡いでいきたいものですね。
19 件

思い出を語ろう

     
  • 記事コメント
  • Facebookでコメント
  • コメントはまだありません

    コメントを書く
    ※投稿の受け付けから公開までお時間を頂く場合があります。

あなたにおすすめ

関連する記事こんな記事も人気です♪

吸血鬼百科、飢餓食入門、生き残り術入門…70年代の小学生を恐怖に陥れた「ドラゴンブックス」

吸血鬼百科、飢餓食入門、生き残り術入門…70年代の小学生を恐怖に陥れた「ドラゴンブックス」

皆さんは子供の頃、「幽霊」「UFO」「宇宙人」などを題材にした児童書を読んだ経験がありますでしょうか?これらは一般に「怪奇系児童書」と呼ばれ、講談社が出版していた「ドラゴンブックス」が特に有名です。
となりきんじょ | 11,651 view
今と昔で習うことが違う?小学校の教科書はこんなに変わった!

今と昔で習うことが違う?小学校の教科書はこんなに変わった!

小中学校の木に一生懸命覚えた数学の公式、歴史の年号など今と昔で変わっているのをご存じですか?今と昔の違いを見ていきましょう。
saiko | 1,099 view
藤井聡太七段の「矢倉囲いでの勝利」を将棋のレジェンド・加藤一二三が予言していたと話題に!!

藤井聡太七段の「矢倉囲いでの勝利」を将棋のレジェンド・加藤一二三が予言していたと話題に!!

将棋界に旋風を巻き起こしている藤井聡太七段が、6月28日に行われた渡辺明三冠との棋聖戦五番勝負第2局にて、古くからの戦型の定番である「矢倉囲い」で勝利を収めました。それに際し、SNS上では将棋界のレジェンドである加藤一二三が過去に発した以下のコメントに注目が集まっています。
隣人速報 | 841 view
子供の頃、超怖かった昭和時代の『トラウマ絵本・怖い絵本』(児童書)16選

子供の頃、超怖かった昭和時代の『トラウマ絵本・怖い絵本』(児童書)16選

恐いもの見たさが勝る…いつの時代も子どもは「怖い、怖い」と言いながら、怖い物に興味がある…。子供の頃に見て、読んで恐かったトラウマ絵本(恐い本)を振り返ってみましょう。
ガンモ | 23,480 view
70年代のテレビマガジンに掲載された付録などを復刻した『テレビマガジン完全復刻コレクション マジンガーZ』が発売!

70年代のテレビマガジンに掲載された付録などを復刻した『テレビマガジン完全復刻コレクション マジンガーZ』が発売!

70年代に人気を博した永井豪原作の漫画・アニメ作品「マジンガーZ」を掲載した当時の「テレビマガジン」の付録などを復刻させた書籍『テレビマガジン完全復刻コレクション マジンガーZ』が発売されることが明らかとなりました。
隣人速報 | 3,327 view

この記事のキーワード

カテゴリ一覧・年代別に探す

あの頃ナウ あなたの「あの頃」を簡単検索!!「生まれた年」「検索したい年齢」を選択するだけ!
リクエスト