もしかすると「スペンサー・コンフィデンシャル」は原作の方が面白いかも?!70年代に発刊されたスペンサー・シリーズはお勧めですよ。
2020年12月25日 更新

もしかすると「スペンサー・コンフィデンシャル」は原作の方が面白いかも?!70年代に発刊されたスペンサー・シリーズはお勧めですよ。

2020年、マーク・ウォールバーグ主演による「スペンサー・コンフィデンシャル」が製作されました。ロバート・B・パーカー原作によるこの映画をより楽しむには、やはり原作を読まなくては!原作は最高ですよ。特に70年代に発刊されたスペンサー・シリーズ、これを強くお勧めします!!

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失投

「失投」が刊行されたのは1975年です。3作目。ロバート・B・パーカーにとっても自信作のようですね。いよいよ本領発揮といった感のある作品ですよ、これは。スペンサー・シリーズのスタイルが整ったといって良いかと思います。
では、スペンサー・シリーズのスタイルとはどのようなものなのか?あるインタビューでロバート・B・パーカーは「スペンサーは探偵だがシャーロックホームズやエラリー・クイーンのような探偵ではない。複雑な謎を解かないんだからね」と言っています。重ねて「男、心情、名誉の行動についての本なんだ」とも。つまり、スペンサー・シリーズは、事件や謎解きではなく、人間の心の機微に焦点を当てるというスタイルなんですね。それがロバート・B・パーカー自身が満足できる形で作品となったのが「失投」ということでしょう。
失投

失投

刊行:1975年
スペンサーは、我が耳を疑った。ボストン・レッドソックスのエース、大投手マーティ・ラブが八百長試合を?信じがたいことだったが、野球賭博には大金がからむ。あり得ない話ではない・・・
噂がひろがるのを怖れた球団フロントの極秘の依頼で調査を開始したスペンサーは、ラブの妻リンダに疑いを持つ。リンダの秘められた過去が事件の鍵なのか?やがて冷酷な犯罪組織がスペンサーを襲うが・・・
「失投」はそれまでの2作とは随分違う印象を受けます。オーソドックスな探偵小説からヒーロー小説に移行するターニング・ポイントとなった作品。「失投」の解説で井上次郎と言う方がそのように書かれていますが、まさに言いえて妙です。ロバート・B・パーカー自身は「どちらかというと、冒険小説と呼んでほしい」と言っとりますけどね。

約束の地

1976年刊行の4作目「約束の地」は、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞しています。しかかし、それより何より、この作品からホークが登場しているということの方が読者としては大事です。
ホークというのは、フリー・ランスの取り立て屋で、スペンサーの相棒となる男です。
腕っぷしが強く、男気あふれ、精神的にもタフな主人公、スペンサー。ホークというのがまた、腕っぷしが強く、男気あふれ、精神的にもタフなんですね。で、そのホーク曰く「スペンサーやおれのような人間は、もうあまり残っていない。彼がいなくなったら、さらに一人減ることになる。おれは寂しくなる」とまぁ、こんなセリフを吐くわけです。
「約束の地」でのスペンサーとホークは仲間ではなく、仕事上敵対してるんです。しかし、心情的には上記のセリフというわけで、ここから長い長い付き合いが始まることになります。
約束の地

約束の地

刊行:1976年
新しいオフィスでの最初の客は、シェパードと名乗る中年の男で、家出した妻パムを捜し出してほしいという。スペンサーは、翌朝シェパードの自宅を訪ねるが、そこで凄腕の借金取り立て屋と出くわす。どうやら彼の抱える問題は妻の家出だけではないらしい。一方パムはウーマンリブ運動家たちが企てた銀行襲撃事件に巻き込まれていた……現代風俗と男女のあり方を鮮やかに描く、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作
ホーク初登場ではありますが、設定としてはスペンサーとは長年の付き合いで、一緒にボクシングをやっていた間柄となっています。二人は似ているとは言っても、違う点も当然あって、スペンサー曰く「おれは金のために人を殴ったりしない。金のために人を殺したりしない。彼はやる!」です。う~ん、前作から暴力的になってきてるんですよね。で、それが爆発するのはシリーズ屈指のアクション巨編となる、人を殺しまくる第5作「ユダの山羊」になります。

ユダの山羊

1作目の「ゴッドウルフの行方」で、スペンサーはパブリックガーデンから2ブロック上がったマールバラ通りに住んでいると言っています。パブリックガーデンと言うのはアメリカ初の公立植物園でボストンにあります。そう、このシリーズはボストンを中心として物語が展開されることが多いのです。が、「ユダの山羊」ではスペンサーは先ずロンドンに飛びます。そこからコペンハーゲン、アムステルダム、更にはモントリオールと世界を飛び回ります。緊張感あふれる張り込みや銃撃戦。スペンサーはバンバン人を殺しますし、まさに「ユダの山羊」は冒険小説なんですよ。
ユダの山羊

ユダの山羊

刊行:1978年
車椅子の老富豪は、そこだけが生命の火を燃やしているような両眼を、ひたとスペンサーにすえた。妻子を殺したテロリストどもを捕まえてほしい。標的は九人、報酬は一人につき二千五百ドル、ただし生死は問わない……老人の依頼を引き受けたスペンサーは助っ人のホークとともにヨーロッパへと飛んだ。テロリストたちの反撃をくぐりぬけて、二人は組織のリーダーに迫るが……雄大なスケールで放つシリーズ屈指のアクション篇
毎回楽しみなのが料理。スペンサーは自分でも作りますが外食も大好き。本作にも世界各地での料理の描写があり食欲をそそられます。それとは別に、このシリーズにはもうひとつ楽しみがあるんですよ。それはファッションです。

「イギリス人ごときに色彩感覚を欠いていると思われるのは癪だ」ということで、スペンサーのロンドンでの服装はジーンズに白いデニムのシャツ。その上にダークブルーのコーデュロイでできた丈の短いリーバイスのジャケットを襟を立てて着こなし、青い筋の入ったアディダスのロムズで決めています。まぁ、いつもこんなカジュアルな格好をしているわけではなくって、グレイ・スラックスに紺と白のストライプのボタンダウンシャツ。ブルーのニットタイを合わせ、黒い飾り付きのローファーという描写も出てきます。
相棒のホークはというと、ラベンダー色のバンドの付いたストローハットを前にずらしてかぶり、薄灰色のピンストライプの入ったダーク・ブルーのスリーピース・スーツ。白いシャツにラベンダーのシルクタイ。小さな結び目の下にはカラー・ピンを付けていて、胸のポケットからはラベンダー色のハンカチの先が覗いているというオシャレぶり。因みにホークは背が高くスタイルの良い黒人ですので、さぞかし見栄えがするんでしょうねぇ。

レイチェル・ウォレスを捜せ

そしてシリーズ6作目「レイチェル・ウォレスを捜せ」です。1980年に刊行されています。今回の任務は作家レイチェル・ウォレスの護衛。このレイチェル・ウォレスが気の強い女性で、気の強い事では引けを取らないスペンサーと当然衝突します。これが見どころですね。つまりレイチェル・ウォレスとスペンサーの生き方の衝突。
結果、スペンサーは護衛を解任されてしまうのですが、レイチェル・ウォレスが誘拐されたと知ると無償で事件解決にあたることに、、、男にはグッとくるんですよねぇ。こういう設定。
レイチェル・ウォレスを捜せ

レイチェル・ウォレスを捜せ

刊行:1980年
「スペンサー、レイチェル・ウォレスが誘拐された。すぐに来てくれ」出版社からの電話はクリスマス気分を吹き飛ばした―それより2カ月前、スペンサーは同じ出版社の依頼で、ある女性著作家の護衛についていた。だが女性解放論者であり、かつレズビアンであることを公言する彼女とは肌が合わず、やがて彼女と衝突したスペンサーは解雇されてしまったのだ―その女性、レイチェル・ウォレスが過激派組織に誘拐された!彼らの目的は?彼女は無事なのか?単身レイチェルの足跡を追うスペンサーは、大雪に閉ざされたボストンの街を走る!
立ちはだかる障害を拳とジョークでなぎ倒し、自分のスタイルで仕事をする男、スペンサー。この男、改めて説明しますと「自分の名前はSpencerではなく、Spenser。16世紀の英国の詩人と同じく“c”ではなくて“s”なのだ」ということに拘りを見せる主人公です。

身長、6フィート1インチちょっと。体重は201.5ポンドと言ってます。なので、身長185.5センチの体重91.4キロくらいですかね。1日5マイルほど走っているそうです。5マイル。約8キロですね。多い時には体に無理をさせるために10マイル走るそうなので、かなり鍛えています。
職業は私立探偵ですが、ボクサーだったことがあり、警官だったこともある。誰が見ても分かるような鼻の骨折跡があって、それは最盛期を過ぎたジョウ・ウォルコットと試合をした時のものだそうです。「彼の最盛期だったら殺されていただろう」と言ってます。なんかもうタフガイそのものですよ。
で、オシャレで料理好き、かなりの読書家でもあり文学の引用も出てきますし、何でもよう知ってますよ。

さぁ、そんなスペンサーが15歳の少年を自立した男に鍛えていくという、スペンサー流の教育指導書ともいえる内容が次の作品、読後感最高の「初秋」です。「レイチェル・ウォレスを捜せ」と同じく1980年に刊行されています。
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