少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう
2018年1月12日 更新

少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう

「24年組」と言われる萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子など、それまでの少女マンガから一線を画した作風と表現力でムーブメントを起こしたマンガ家たちの軌跡を振り返ります。

53,476 view
いわゆる少女向けの「少女マンガ」が、より幅広い層に受け入れられる「文化」となる、ちょうど過渡期にマンガを読んできた人間として、当時のことを語ってみたいと思います。

24年組とは?

1970年前半に、少女マンガはひとつの転換期をむかえます。
むかえる、というより、マンガの作り手たちからのムーブメントが起こり
それを受け入れる読者が増えてきた、そういう時代です。
そしてその作り手の中心にいたマンガ家が、だいたい昭和24年前後生まれだったことから
「24年組」もしくは「花の24年組」と称されました。
”(花の)二十四年組”とは昭和二十四年頃に生まれた少女マンガ家のうち、萩尾望都や竹宮惠子・山岸凉子・大島弓子・木原敏江などを指す。彼女らは「少女マンガに文学性を与えた」と評されている作家であり、それまでの少女マンガにはなかった主人公の自己との向き合いや、性に関する問題、親子関係といったテーマを追求し、また表現技法にも新たな手法を取り入れた。彼女らによって少女マンガに革新がもたらされ、その影響は広くマンガ界全体に渡ったといわれている。
via 堀あきこ『欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差』臨川書店 2009

それまでの少女マンガ 24年組の台頭まで

キラキラおめめの少女マンガ

およそ当時掲載されていた「少女マンガ」は、このように世間的には思われていました。

・目が大きい、まつ毛が長い
・目の中に星、しかも不自然なほど
・アップが多い(なおかつ、左向きばかり)、全身像は少ない
・人物の描き分けができていない
・男性(特に成年、老年)が描けない、登場しない
・過剰な装飾(バックに花など)
・描画が平面的
・背景が描かれていない、もしくは下手
・ストーリー性がない、あるいは類型的
 (学園ラブコメ、スポ根、薄幸な美少女ものなど)

当時のすべての少女マンガがこうだったとは思いませんが
「少女マンガ」とレッテルがつくとき
それは上記のようなことを揶揄して切り捨てるかのような扱いをされていました。
「少年マンガ」と比較して、語るべきほどのものもないとされていたのです。
井出ちかえの描く目はある意味象徴的です
彼女たちが嵐のように登場するまで、少女マンガは「要するに少女マンガ」でしかなかった。お目々に星キラキラの、ありきたりなストーリー、少女たちのココロの微妙な揺れや初恋や、生活の中のささいな哀歓、それを細やかに描いて少女たちには支持を受けていたけれどもしょせん「女子供のマンガ」という蔑視を受けるようなものでしかなかった。
via 中島梓「未曾有の時代」『別冊太陽 子どもの昭和史 少女マンガの世界Ⅱ 昭和 38 年- 64 年』平凡社 1991年

選択肢がない、表現の幅も広がらない

なぜこういった内容のものが多かったのか。
出版側が「こういうものが受けるから」と思い込んでいるため、
誌面にほとんど選択肢はなく、読者アンケートも似たようなものを選ぶしかありません。
出版社側もアンケート結果を見て、さらに決めつけを強化し
たとえ描き手が、実験的なものを描きたいと思っても
編集者にダメを出されてしまうわけです。

そういう膠着した状態が、きっと続いていたのだと思います。
左は「はいからさんが通る」でおなじみ大和和紀。
右上は細川知栄子
右下は里中満智子
少女フレンドの定番ラインナップですね。
この3人は当時からそれほど類型的ではなく
とてもストーリー性の高い作家さんですが
やはり「恋愛もの」「学園もの」といった
ワクからはみ出させてはもらえませんでした。
「少女まんが」は研究する価値のないものであるかのように扱われていたけど、「少女まんが」には「少女まんが」の読者がいるのですから無視されているはずはないのです。少女まんが家は基礎力不足である。ヒット作は全員、右へならえをする。目が大きすぎる。老人まで美少年である。「少女まんが」の欠点については、いろいろな所で発言されたと思い出しますが、なぜそんなことになるのか・・・・・・どうするべきなのか・・・・・・だれも答えをだしません。
「少女まんが」は程度が本当に低いのならば、今ほど多勢のファンがいるはずがなく、キラキラピカピカにも理由があるのだし『COM』の数々のまんが論の中で「少女まんが」だけのけものにされているのはとても変なことだと思います。
via 『COM』1971年 1月号 ぐらこんロビー(読者投稿欄)より 投稿者坂田靖子
坂田靖子はこの投稿のち、1970年後半にデビュー、ポスト24年組の一員とみなされています。

はじまりは、後発誌「少女コミック」の苦肉の策から

当時の少女漫画誌は「少女フレンド」「マーガレット」が中高生向け2大誌。
「なかよし」「りぼん」は、ターゲットの年齢層の若干低い2大誌でした。

そこへ後発誌として出てきたのが「少女コミック」(小学館)です。発刊は1968年。

当時「マーガレット」では『アタックNO.1』、「少女フレンド」では『サインはV!』が連載されていて、バレーボールスポ根ものの全盛期。
その後「マーガレット」では
池田理代子『ベルサイユのばら』、山本鈴美香『エースをねらえ!』、
「なかよし」では『キャンディ♡キャンディ』の連載を開始、
「少女マンガ」という、これまでのワクからは出ない世界ながら、少女マンガの業界は興隆していきます。

少女マンガ界が盛り上がる結果、執筆する作家の確保に難儀した「少女コミック」は、
後発誌で、まだ少女マンガ誌として形ができていなかったことを逆手に取り、
作家に自由に描かせるという方法で、意欲のある描き手を集めて行きました。

その筆頭が、萩尾望都でした。

とにかく「SF」を描きたい 萩尾望都

萩尾望都は1949(昭和24)年大牟田市生まれ。「望都」は本名。
高校時代にマンガ家を志し、卒業後専門学校に学びながら投稿を続け、
「なかよし」(講談社)1969年夏の増刊号にて『ルルとミミ』でデビュー。

しかしながら「なかよし」編集部の意向は従来通りの「少女マンガ」。
自分の描きたいものを描かせてもらえない状態が続いたところ
「少女コミック」編集部から声がかかります。

「恋愛」要素のない、抒情の小品

もちろん編集部側としては、恋愛要素を排除してと依頼したわけではないと思います。
萩尾望都も、恋愛要素のある、ミュージカル的な展開のものも描いています。
ですがやはり、恋愛のない、ストーリー性に満ちた、短編小説に近い形のものを
当時から発表していました。
「自由にわがままに思い切り描かせる」というのが、編集部の方針だったそうです。

たとえば『かわいそうなママ』(1971年「別冊少女コミック」5月号)
『かわいそうなママ』「別冊少女コミック」5月号より

『かわいそうなママ』「別冊少女コミック」5月号より

「母と娘」ものは少女マンガの定番でしたが
母と息子、というのがまず珍しかった。
そしてその展開も衝撃的でした。
via 小学館文庫『11月のギムナジウム』p172 1995.12 
134 件

思い出を語ろう

     
  • 記事コメント
  • Facebookでコメント
  • コメントはまだありません

    コメントを書く
    ※投稿の受け付けから公開までお時間を頂く場合があります。

あなたにおすすめ

大人の女子にとってはどれも懐かしい!女子に人気の記事・スレッド一覧

【TBSからテレビ東京へ】懐かしの「ハロー!レディリン」放送局変更で続編なのにまるで別のアニメに!?

【TBSからテレビ東京へ】懐かしの「ハロー!レディリン」放送局変更で続編なのにまるで別のアニメに!?

「ハロー!レディリン」と聞いてピンとくる人の方が少ないかもしれません。それでも一部ではとても人気のあった伝説のアニメ「ハロー!レディリン」。前作の視聴率が振るわなかったにもかかわらず、続編である「ハロー!レディリン」が放送されたのには意外な理由がありました!
ミチ | 4,460 view
ふんわりとした絵柄とタイトルが印象的。斉藤倫さんの漫画まとめ

ふんわりとした絵柄とタイトルが印象的。斉藤倫さんの漫画まとめ

別冊マーガレット、cookieなどでおなじみの漫画家・斉藤倫さん。ふんわりとした絵柄とタイトルが特徴的な作家さんです。今回は斉藤倫さんの作品を振り返ってみましょう。
saiko | 280 view
『まもって守護月天!』はシャオリンのファッションがとにかく可愛いんです!!

『まもって守護月天!』はシャオリンのファッションがとにかく可愛いんです!!

1998年~1999年に放送された大人気アニメ『まもって守護月天!』の内容はとても楽しいのは言うまでもありません。しかし、今回はヒロイン・シャオリンのファッションにスポットを当ててみたいと思います。とにかく可愛いファッションが多いので注目して頂きたいです。
がきんこ | 2,631 view
男子も女子も身に覚えあり?バレンタインデーにまつわる「あるある」!!

男子も女子も身に覚えあり?バレンタインデーにまつわる「あるある」!!

日本の冬の一大イベントと化した、2月14日のバレンタインデー。この記事では、バレンタインにありがちなエピソードをいくつかご紹介したいと思います。

関連する記事こんな記事も人気です♪

【バレエ漫画の金字塔】「まいあ SWAN act Ⅱ」最終巻が刊行!完結記念の全7巻セット発売!!

【バレエ漫画の金字塔】「まいあ SWAN act Ⅱ」最終巻が刊行!完結記念の全7巻セット発売!!

人気コミック「まいあ SWAN act Ⅱ」(有吉京子)が、2022年12月発売の第7巻で完結。これにより累計発行部数2000万部超のSWANシリーズが幕を閉じます。今回、完結記念となるサイン入りポストカード4枚セットの購入特典付き「まいあ」全7巻セットが発売され
魅惑のなつかし少女漫画ファッションを特集した『かわいい!少女マンガ・ファッションブック』が好評発売中!!

魅惑のなつかし少女漫画ファッションを特集した『かわいい!少女マンガ・ファッションブック』が好評発売中!!

立東舎より、昭和30〜40年代の少女漫画や雑誌などに掲載されていた「ファッション画」を特集した書籍『かわいい!少女マンガ・ファッションブック 昭和少女にモードを教えた4人の作家』が現在好評発売中です。
隣人速報 | 1,055 view
【訃報】少女漫画家の美村あきのさん、死去。「すくうるでいず」「伝説の少女」など

【訃報】少女漫画家の美村あきのさん、死去。「すくうるでいず」「伝説の少女」など

「すくうるでいず」「伝説の少女」などの作品で有名な少女漫画家・美村あきのさんが7月30日に死去したことが、本人のTwitterなどで明らかとなりました。60歳でした。
隣人速報 | 1,564 view
崖での特訓は当たり前!あの「バレエ星」の谷ゆき子による超展開バレエ漫画に第2弾「まりもの星」が登場!!

崖での特訓は当たり前!あの「バレエ星」の谷ゆき子による超展開バレエ漫画に第2弾「まりもの星」が登場!!

株式会社リットーミュージックの面白レーベル「立東舎」より、谷ゆき子著のバレエ漫画『まりもの星』が現在好評発売中です。果たして今回はどんな超展開を見せてくれるのでしょうか?
隣人速報 | 1,004 view
“日ペンの美子ちゃん”が日産とのコラボでお母さんに!?「日サン」の美子ちゃんが連載開始!!

“日ペンの美子ちゃん”が日産とのコラボでお母さんに!?「日サン」の美子ちゃんが連載開始!!

日産自動車株式会社は、31日、充実の先進安全装備を備えたインテリジェント軽「日産デイズ ルークス」のタイアップ企画として「日サンの美子ちゃん」の連載をweb上で開始しました。あの美子ちゃんがなんと子供を連れて登場します!
隣人速報 | 2,588 view

この記事のキーワード

カテゴリ一覧・年代別に探す

あの頃ナウ あなたの「あの頃」を簡単検索!!「生まれた年」「検索したい年齢」を選択するだけ!
リクエスト