少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう
2018年1月12日 更新

少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう

「24年組」と言われる萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子など、それまでの少女マンガから一線を画した作風と表現力でムーブメントを起こしたマンガ家たちの軌跡を振り返ります。

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竹宮惠子(竹宮恵子を1980年ごろ改名)は1950(昭和25)年徳島市生まれ。
石ノ森章太郎に心酔し小学校低学年からマンガ家を志します。
中学時代から本格的に描き始め、1965年、石ノ森の『マンガ家入門』と『龍神沼』を読み大きなショックを受け、石ノ森作品を端から読むようになる。石ノ森に「漫画を共に描く仲間が欲しい」と手紙を送ると、石ノ森から紹介された漫画を描いているグループの人達から手紙が届くようになり、「石森ファン筆頭」の同人誌『宝島』グループに参加し[7]、執筆を続ける。修学旅行で上京した際には、グループの仲間に連れられて石ノ森の自宅を訪れている[8]。後に「永井豪が男性の一番弟子なら、私は女性の一番弟子で優等生」と語っている[9]。
1967年、17歳にして「ここのつの友情」を『COM』の読者投稿広場「ぐら・こん」に投稿。月例新人賞に佳作入選、漫画家デビューを果たす。
その後「週刊マーガレット」(集英社)に『りんごの罪』で1968年佳作デビュー、
親の反対、大学での勉学、学生運動などでの1年間の充電期間のち、
「週刊少女コミック」の編集者からの勧誘を受けて上京、
『森の子トール』で「少女コミック」での連載を始めます。

大泉サロンでの切磋琢磨

多くの原稿依頼をうけおい、カンヅメにもなるような多忙な状態になった竹宮惠子は
当時の萩尾望都の文通の相手で、マンガ家志望でもあった増山法恵の
自宅の向かいの長屋に住み、本格的に活動を開始。
そして、
同じくマンガ家として上京を決意した萩尾望都を誘い、同居を始めます。
これが、少女マンガ界での「トキワ荘」、【大泉サロン】のはじまりです。

竹宮、萩尾、増山の3人で
あるいはサロンに遊びに来た(アシスタントもしに来た)マンガ家を志す女子たちとで
少女マンガのあるべき姿についての切磋琢磨が繰り広げられ
「少女マンガで革命を起こす!」と気炎が上がりました。

少年愛のプロット

大泉サロンが始まる前、竹宮惠子は、ある強烈な啓示を得ていました。
「このキャラクター、今まで描いたこともない顔なのに、自分のキャラって気がする」
「少年の名はジルベール。絶対に、それ以外じゃない」
まるでよく知っている人物のように次々と設定が浮かんでくる。まだストーリーにもなっていないのに、次々と浮かんでくる場面。それを絵にすると、さらに気持ちが高揚し、手に汗を握るような緊張感があった。
via 『少年の名はジルベール』p38 竹宮惠子 小学館 2016.2
部屋の中にあるポスターを見ながらいきなりわき出てきたイメージ。
それを何とか形にしようと、増山法恵と深夜から明け方まで長電話をしながら
その啓示は少しずつ肉づけされ姿を表していきます。
それは後年『風と木の詩』というタイトルで発表される
竹宮惠子のライフワークとも言うべき作品の発露の瞬間でした。
ジルベールという名の少年

ジルベールという名の少年

もともと少年を描くのが好きだった竹宮惠子
「少女コミック」でのデビュー作の『森の子トール』でも
少女よりは少年をクローズアップして描いています。
そこに同好の志である増山法恵との共感が拍車をかけて
「少年同士の恋愛を描きたい」という思いがふくれあがります。

ところが世間は「お目目キラキラの少女マンガ」の時代。
萩尾望都のSFですら困難をきわめたのに
少年愛のまかり通るすきまは全くありません。

竹宮惠子は、長期連載の合間に受けた読み切りに対し
どうしても少年が描きたい、と思いつめ
少年同士の恋愛の短編『雪と星と天使と・・・』をすり替えて提出してしまいます。
これが『風と木の詩』の最初の習作となる作品でした。
『雪と星と天使と・・・』 扉絵

『雪と星と天使と・・・』 扉絵

1970年 別冊少女コミック12月号
のちに『サンルームにて』と改題されました
たまたま代原(代わりに掲載する原稿)がなかったため
このごり押しは通ってしまい掲載されますが
担当に叱られ、自分自身の信用も下がり、
理解を得るにはまだ遠い道のりであることを、あらためて認識することになります。

この作品が発表されたあと
当時集英社で描いていた山岸凉子が、大泉サロンを訪ねてきます。
「自分もやってみたいと思っていたことを発表した人がいて驚いた」と。
彼女は集英社でずっと描いてきた。集英社系列では、王道の可愛らしい少女マンガが重要でその種のマンガは絶対にやらせてもらえないとわかってから、「いつかは誰かがどこかで描き始めるって不安を、ずっと持っていた」と言う。
via 『少年の名はジルベール』p99 竹宮惠子 小学館 2016.2
少年愛の世界を描くのは遠い道のりではあるけれど
間違いなく需要があることを確信し
少年が主人公ではあるものの
少年の動きにこだわりリズミカルに描く作品を、ミュージカル的な仕立てで連載しはじめます。
編集サイドの理解を広げる意味もあったのかもしれません。
『空がすき!』プチコミックスカラーイラスト

『空がすき!』プチコミックスカラーイラスト

1971年 週刊少女コミック12~21号

男の子が主人公で女の子が脇役でしか出てこない作品です。
これも掲載までに編集とすったもんだがあったようですね。

ライバルへの嫉妬と苦悩

しかし一方で、竹宮惠子は
大泉サロンで一緒に住み一緒に活動する萩尾望都との差を、痛切に感じ始めていました。
萩尾望都の表現力、構成力、素材を扱う新鮮な視点
そしてその結果得られる業界内外の評価が、竹宮惠子を少しずつ苛んで行きます。
「別冊少女コミック」では、「何ページであろうと、萩尾には自由に描かせる。ページ数が少なかろうが、多かろうが、とにかく毎月、萩尾だけは載せる」という方針を立てていた。(略)
この作家なら、ページ数が多くても少なくとも必ず載せる。この言葉には心が動く。これは「萩尾のためにうちの雑誌はある」と言っているのと同じだ。(略)
読者にとっては、その雑誌が月刊であろうと、月に一度は必ず載っている魅力的な作品を描いてくれる作家、1ヶ月待ったとしても、必ず会える描線やフォルムや薫り高い話を描き出せる作家。それも看板作家ではないか。
ジェラシーを感じた。
via 『少年の名はジルベール』p103~104 竹宮惠子 小学館 2016.2
萩尾望都の描く世界、
ヨーロッパの映画のように、説明もないままに静かに情景からはじまり、
導入へと至る表現は、これまでの少女マンガにはないものでした。
その形が、いつの間にか大島弓子や他の作家にも表れてきて
竹宮惠子は「自分の作品スタイルは古いのではないか」と思い悩みます。
あれだけ革命を起こしたい、突破したいと反発した古い形に
自分が陥っているのではないかと。
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