少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう
2018年1月12日 更新

少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう

「24年組」と言われる萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子など、それまでの少女マンガから一線を画した作風と表現力でムーブメントを起こしたマンガ家たちの軌跡を振り返ります。

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当時萩尾望都が竹宮惠子と同居していた通称【大泉サロン】に
山岸凉子が訪ねて行ったときのことが、対談で語られています。
―――それは萩尾さんが何を描いていらっしゃった頃でしょうか。
山岸 最初ささやさんと行ったときは「かわいそうなママ」を描かれていた頃です。本をもらって帰ったので。「これが出たばかりの本よ」というので、喜んで持って帰りました。
―――1971年ですね。
城 あれ、「母の日特集」に掲載されてたんですよ。それでお母さんを殺しちゃう男の子の話。なんと恐ろしい作家だと思いましたよね(笑)。
萩尾 あれは1年くらい前に描いたのを、小学館が買ってくれて載せてくれたの。
文中の「城さん」は萩尾望都のマネージャーです。
それから『小夜の縫うゆかた』(1971年「少女コミック」夏の増刊)
『秋の旅』(1971年「別冊少女コミック」10月号)
『11月のギムナジウム』(1971年「別冊少女コミック」11月号)
これらの作品は
日常のシーンのひとこまひとこまをつなげながら
底に流れる生活や文化や意識を背景に
登場人物の心の揺れや気持ちのあやをていねいに描く、文学性の高いものでした。

絵柄は地味、お目目キラキラを期待するムキの少女たちには、受けは悪かったと思います。
でもマンガと同時に小説も読みだしている多感な世代には
「少女マンガでここまで表現ができる!」
というのは、事件であり、衝撃であり、大きな喜びでもありました。
そういう社会通念にやにわに叩きつけられた「24年組」の挑戦はしかし鮮烈で、あまりに強烈であったのでひとつの文化現象だったという印象さえ与えた。それはまったくふいにはじまり、そして怒涛のようにマンガ界を席巻したように思われる。(略)それはおそらく萩尾望都が口火を切った。『11月のギムナジウム』-のちの『トーマの心臓』や『ポーの一族』のかげに隠れてむしろ小品のようだけれども、これは最初の画期的な作品ー「少女マンガが表現でありうる」ことを証明してみせた最初の作品であったのだ。それにはテーマ性があり、複雑な生と死への観相があり、そしてこまやかな感受性と芸術的な世界を見る目があった。
via 中島梓「未曾有の時代」『別冊太陽 子どもの昭和史 少女マンガの世界Ⅱ 昭和 38 年- 64 年』平凡社 1991年

『ポーの一族』の大ブレイク

コミックス第1巻扉絵

コミックス第1巻扉絵

via フラワーコミックス『ポーの一族』① 1974.6 小学館
『ポーの一族』シリーズは、西洋に伝わる吸血鬼(バンパネラ[1][2])伝説を題材にした、少年の姿のまま永遠の時を生きる運命を背負わされた吸血鬼エドガーの物語。成長の代償に失うもの、大人になれない少年の姿が描写されている。200年以上の時間が交錯する構成で、舞台は18世紀の貴族の館から20世紀のギムナジウムまでさまざまである。作品発表当時としては異色の作品であり、少女漫画の読者層を増やした作品であると評価されている[3][4]。
1972年『すきとおった銀の髪』によって始まるオムニバス形式の『ポーの一族』の連載は
当時のマンガ好きの少女たちを熱狂させました。
「年を取らない子ども」というアイディアから生まれた「エドガー」という少年の物語は
当初の構想の3部作(『ポーの一族』『メリーベルと銀のばら』『小鳥の巣』)を超えて
スケールの大きなドラマになっていきます。

1976年には、第21回小学館漫画賞(少年少女部門)を受賞しています。
『グレンスミスの日記』(「別冊少女コミック」1972年...

『グレンスミスの日記』(「別冊少女コミック」1972年8月号)より

表題作『ポーの一族』のサイドストーリー『ポーの村』の後日譚にあたります。軸になるグレンスミスの記した「日記」は、約100年の時を経て「ポーの一族」の存在をうっすらと浮き彫りにします。
via フラワーコミックス『ポーの一族』① p171 1974.6 小学館

SFが描きたくて

それでも萩尾望都の描きたいものは「SF(サイエンス・フィクション)」でした。
『ポーの一族』も、ある意味タイムリープめいたファンタジーではあるのですが
萩尾望都が志向しマンガで描きたいと熱望したSFは
「どうせならアシモフ、ヴォークト、ハインラインだ」
(『10月の少女たち』その2・真知子 登場人物の米山行のセリフ「COM」1971年10月号) 
というセリフに代表されるような、スペースオペラ的なSFでした。
1973年「別冊少女コミック」8月号 1ページ劇場

1973年「別冊少女コミック」8月号 1ページ劇場

萩尾望都の「心の叫び」満載のページだと思います。
via 少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代 (立東舎)  p57
『ポーの一族』で広い読者層や編集者に受け入れられた萩尾望都でも、
当時認知度の低かったSFを、さらにジャンル的に苦しい少女マンガの世界で描くのは
相当に難しかったらしく
読者アンケート結果がよくないと、おいそれと描かせてはもらえない状況だったようです。
『デクノボウ』(「別冊LaLa」1983年オータム)より

『デクノボウ』(「別冊LaLa」1983年オータム)より

via 萩尾望都作品集15『モザイク・ラセン』p197 1986.4 小学館
その状態からやっと発表できたのが
『11人いる!』です。
『11人いる!』(1975年「別冊少女コミック」9~1...

『11人いる!』(1975年「別冊少女コミック」9~11月号)より

via 小学館文庫『11人いる!』p85 1976.7 小学館
今となっては説明不要の古典的名作ですね。
SFファンをうならせたのはもちろん、サスペンスミステリーとしても秀逸なこの作品は
「少女マンガ」のワクを大きく超え、多くの「大人の」読者の裾野を広げました。

1976年、『ポーの一族』と同時に小学館漫画賞(少年少女部門)を受賞、
アニメはもちろん、TVドラマや映画化、舞台化もされました。
続編『東の地平 西の永遠』(1976~77)も翌年発表されています。

その後、『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍原作 1977~78「週刊少年チャンピオン」)や
『スター・レッド』(1978~79)など
次々とSFの話題作を発表していきました。
萩尾望都は『ポーの一族』だけではなく、多くのジャンルで秀でた表現者として
世間に周知され今に至っています。

「ジルベール」を描くために 竹宮惠子

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