晩年の黒澤作品を舐めてもらっては困ります。実は名作揃いなんですよ。ヒットはしなかったけどね。
2018年11月20日 更新

晩年の黒澤作品を舐めてもらっては困ります。実は名作揃いなんですよ。ヒットはしなかったけどね。

80年以降、晩年の黒澤作品は一般にあまり評価が高くないように見受けられます。特に最後の3作品は商業的にも厳しいものでした。だからって、ダメなのか?!駄作なのか?!いやいや、まったくそんなことはないんですよ、これが!

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作風をガラリと変えた「夢」が黒澤明の28本目の作品として1990年に公開されました。黒澤明が実際に見た夢をオムニバス形式で「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨士」「鬼哭」「水車のある村」という8話で構成しています。
夢

監督:黒澤明、本多猪四郎(演出補佐)
脚本:黒澤明
製作:黒澤久雄、井上芳男
出演者:寺尾聰、倍賞美津子、原田美枝子
音楽:池辺晋一郎
撮影:斎藤孝雄、上田正治
編集:黒澤明
配給:ワーナー・ブラザース
公開:1990年5月25日
上映時間:119分
「晩年の黒澤作品は面白くない」とは、この辺りの作品から言われだしたように思います。それを裏付けるように「夢」の日本における配給収入は3億3200万円。国外での収入がそれなりにあるとはいえ芳しい数字とは言い難いですね。

しかし、作品は信じられないほど美しい。どのシーンをとっても、そう、まさに夢を見ているかのように美しのです。

Akira Kurosawa Dreams 1990

本作品こそもっと多くの人に見てもらいたいものです。2度と作られることのない、いえ、誰にも作ることの出来ない作品です。

制作は例によって出資者を国内では見つけることが出来ず、アメリカのワーナー・ブラザースが行っています。このため配給権はワーナー・ブラザースが所有しており、日本でのフィルム上映は難しいものとなっているのです。映画館で観れないなんて、残念ですよねぇ。

八月の狂詩曲

1965年に公開された23作目の「赤ひげ」以降、5年おきに公開されてきた黒澤作品。5年おきにしか公開できなかったといっても良いかと思いますが、29作目となる「八月の狂詩曲」は、なんと「夢」の翌年にはやくも公開されています。
八月の狂詩曲

八月の狂詩曲

監督:黒澤明
脚本:黒澤明
原作:村田喜代子『鍋の中』
製作:黒澤久雄
製作総指揮:奥山融
出演者:村瀬幸子、吉岡秀隆、大寶智子、リチャード・ギア
音楽:池辺晋一郎
撮影:斎藤孝雄、上田正治
編集:黒澤明
配給:松竹
公開:1991年5月25日
上映時間:98分
当時日本でも人気だったリチャード・ギアが出ているからか、配給が松竹となって気合が入ったのか、配給収入は「夢」を大きく上回っています。成功。監督をはじめスタッフ一同のホッと漏らした息が聞こえてきそうです。
代表作「七人の侍」を持ち出すまでもなく、黒澤作品には雨のシーンが多い。「八月の狂詩曲」ではラストシーンがそうなのですが、これが、もう、圧倒的で素晴らしい。感動してしまうんですよね。

El Gigante del Bosque - 八月の狂詩曲

言葉にならない感情を映像で見せる。そのお手本とでも言いましょうか、何度見てもグッときます。

まあだだよ

黒澤明の監督生活50周年・通算30作目という記念となる作品は、黒澤作品に所ジョージが出るということで話題となったものの興行的には失敗に終わった「まあだだよ」ですね。ヒットしなかった理由は、地味だから。淡々と流れていくといった感じで、もう地味。ヒットしなかったのも頷けるほど地味な作品と思っていたのですが、改めて見てみると地味とはいえ面白いぞ、これ。
まあだだよ

まあだだよ

監督:黒澤明
脚本:黒澤明
製作:黒澤久雄
製作総指揮:徳間康快、小暮剛平
出演者:松村達雄、香川京子、井川比佐志、所ジョージ
音楽:池辺晋一郎
撮影:斎藤孝雄、上田正治
編集:黒澤明
配給:東宝
公開:1993年4月17日
上映時間:134分
アクションシーンこそないものの、「摩阿陀会」という催しのシーンはそれに匹敵するような面白さで、迫力もあるんですよねぇ。
しかし、まぁ、この映画は惚けたというか、力の抜けた会話の面白さにつきます。脱力。そんな感じ。

Madadayo Opening Scene (Akira Kurosawa, 1993)

これが遺作となったんです。最後の作品と分かっていたら大ヒットさせたかったでしょうね。晩年の作品は資金が集まらないということで制作が滞り、スタッフとの衝突も多かった。苦労が絶えなかったことでしょう。しかし、作品は決して駄作などではない!
「まあだだよ」にしても、黒沢清監督にとっては一番好きな黒澤作品だそうですよ。おそらく、晩年の黒澤作品は年を取ってから観ると良いように思います。人生のことが少しだけでもわかるようになってから観ると一味違いますよ、きっと。

黒澤明が最後の作品「まあだだよ」を創ったのは83歳の時のことです。
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