「人生の楽しみ方」を教えてくれるウディ・アレンの傑作映画『アニー・ホール』は、観ておいて本当に損はないと思う
2017年1月24日 更新

「人生の楽しみ方」を教えてくれるウディ・アレンの傑作映画『アニー・ホール』は、観ておいて本当に損はないと思う

ウディ・アレンが好きでも嫌いでもそんなの関係ない。とにかく、「映画芸術」みたいなものを語りたいなら外せない映画ではある。とはいえ、そんなに肩ひじを張って観る必要はない。ただ、楽しめばいい。そうすれば見えてくるはずだ。「人生の楽しみ方」が。そんなものが詰まっている映画が、この『アニー・ホール』なのだ。

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『アニー・ホール』・・・その物語。

 舞台は、ニューヨークとロスアンゼルス。
 神経質で自閉症気味なのに、マシンガントークのコメディアン、アルビー・シンガーと、ちょいと女優でシンガー志望(?)のアニー・ホールとの恋愛映画(たぶん)。
 とにかく、アニー・ホール役のダイアン・キートンが最高だ。最高だなんて簡単に書いてしまうとたいていは、まあ伝わらないと思うけど、案の定、伝わってないと思うが、とにかく観てほしい。なんといっても、アカデミー賞主演女優賞だし。上の方で権威的なものに背を向けよ的なことを言っておいて、アカデミー賞受賞を振りかざすのも何かと思うけど、わかりやすいので書いてみた、情報として。いずれにしても、こんなに魅力あふれる女性アニー・ホールが、なんでアルビー・シンガーのような風采の上がらないめんどくさい男を好きなのかを観察するのも面白いのである。

 二人の出会いは、テニスコート。この手のタイプ(アルビー・シンガーのことだ)の人間がテニスをやるなんてのは、長年テニスをやってきた僕としては、少々考えにくいが、でもテニスで出会うという設定は当時を象徴しているのだろうか。
 アニー・ホールはダンロップの木製のラケットを手にしていた。当時は貴公子ビヨン・ボルグ、悪童コナーズ全盛、テニスが世界中で流行していたときだ(たぶん)。ウディ・アレンはある意味、抜け目ないのだと思う。 
 で、そこで二人は出会うわけだが、基本的にはアニー・ホールがアルビー・シンガーを誘っている。というか、興味があったのだろう。積極的に自分の車に乗せ、恐ろしく下手な運転で自分の家の前に連れていき、部屋にどう? と可愛く誘う。その一連の、二人のやりとりは文句のつけようもなく楽しく、素敵なのだ。 
 
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黒のフェルト帽、黒のヴェスト、男物のシルクタイを合わせた白のオックスフォードシャツ、ウエストから広がっているカーキ色のバギーパンツ・・・映画の中で、「運転は世界一下手だけど服はいい」とアルビーに言われ、アニーは笑いながら「グラミー・ホールにもらったのよ」と言う。おばあちゃんにって・・・。いやいや、良い脚本です。
 しかし、アニー・ホールが「ワインでもどう?」と誘い、アルビー・シンガーの返した言葉がぶっ飛んでていい。セラピーの予定がどうのこうのと。アメリカは昔からセラピーに通うことがそれほど問題視されないとはいえ、15年も通ってたと聞かされながらも、アニー・ホールが「マジで?」と言いながら笑顔なのがいい。日本だったら、15年もセラピーに通ってる初対面の40歳の男を家に上げる女性はほぼいないだろう。

 そんなこんなで、部屋では二人の言葉は尽きない。アニー・ホールはとにかくテンションが高い。そして、アニー・ホールが棚からワインを取り出して、部屋から屋上のようなところに出る。ニューヨークの建物と花をバックにワインをつぐ。ああ、素敵だ。ニューヨークに憧れる人間にはよだれの出そうなシーンだ。
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気軽にこんな場所に出れるアパートメントに住んでみたいと思いませんかってんだ、ホントに。
 こんなふうに二人の出会いを書いてるけど、その前にいろいろな “くだり” がある。
 映画の待ち合わせでなんだかんだ、キッチンでロブスターをつかんでなんだかんだ、ベッドでなんだかんだ、まあ、とにかくいろいろある。いずれにしてもアニー・ホールは魅力的だ。
 そして、アルビー・シンガーはいろんな女とベッドを共にしてる。こんな男がモテるなんて世も末だと思うかもしれない。それでも、この映画は進行していくのだ。
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ロブスターをつかんでみせる・・・こんな様子を写真におさめるなんて実に “イマ” 的ではないだろうか。40年前の映画だというのに。これもまさに予見的だと言える!!
 この先、この物語をずっとこんなふうに語り続けたら、観る必要はなくなってしまうかもしれない。というか、なんとなく内容がわかってしまって興味をなくしてしまうかもしれない。だからというわけではないが、「その物語」についてはこのくらいにしておいた方がいいのかもしれない。
 「~かもしれない」なんて語尾を三回も重ねるとなんだかスゴくもったいぶってるような気になるけど、実際、そうなのだ。もったいぶっている。もったいぶりたくなる映画なのだ。
 だから、ここらへんで、もう「アニー・ホール」については、語らない方がいいかもしれない、と思う。

キャスト&スタッフ・・・

 この映画に関する限り、いやどんな映画でもそうだが、キャスト&スタッフのクレジットに関心がある人間がどれだけいるだろう。まあ、もちろん、将来、女優になりたいとか、監督になりたいとか、編集やりたいとか、美術やりたいとか、プロデューサーやりたいとか、ぼんやりでも明確にでも思ってる人は目を皿のようにしてエンドクレジットを見るかもしれない。でも、たいていは、映画館でエンドクレジットの最後まで残っているようなお客さんはそんなに多くないのだ。だから、ここで、スタッフ&クレジットを載せることが本当に必要かどうかを一瞬考えてしまうけど、この映画に関しては、そういうものにこだわるような人間が好む映画のような気がするので、載せておこうと思う、いちおう。
<キャスト>
アルビー・シンガー・・・ウディ・アレン
アニー・ホール・・・ダイアン・キートン
ロブ・・・トニー・ロバーツ
アリソン・ポーチニック・・・キャロル・ケイン
トニー・レイシー・・・ポール・サイモン
パム・・・シェリー・デュヴァル
ロビン・・・ジャネット・マーゴリン
ミセス・ホール・・・コリーン・デューハーストウディ・アレン
デュエイン・・・クリストファー・ウォーケン

<スタッフ>
監督 ウディ・アレン
脚本 ウディ・アレン/マーシャル・ブリックマン
製作 チャールズ・H・ジョフィ/ジャック・ローリンズ
製作総指揮 ロバート・グリーンハット
撮影 ゴードン・ウィリス
編集 ウェンディ・グリーン・ブリックモント/ラルフ・ローゼンブラム
 ちなみに、‟撮影” をやりたいという裏方志向の人なら、ゴードン・ウィルスの名前を発見して、観ておかなければいけないと自分に言い聞かせるだろう。『ゴッド・ファーザー』3部作すべての撮影を手掛け、世界に衝撃を与え、そして、ウディ・アレンとコンビを組み、何作も手掛けた、70年~80年代アメリカを代表する名キャメラマンなのだ。「ウディ・アレンの映画」というより、「ゴードン・ウィルスの撮影」ということで観る人がいたりする(と思う)。それって、うん、とてもロマンチックなことだと思う。世界が美しく見えないかい?

『ゴッドファーザー PART II』予告編。
ゴードン・ウィルスの描く陰影は、まさに『ゴッドファーザー』の世界そのものを表現する陰影だった。この独特の色彩感は映画を芸術の域にまで押し上げたのだといえよう。
ちなみに、ダイアン・キートンは『アニー・ホール』とは全く違う顔で、『ゴッドファーザー』シリーズに出演している。

ウディ・アレン作品の素晴らしさと多作さについて

 ウディ・アレンの作るものが素晴らしいということに僕は異存はない。何が素晴らしいかって、アイディアに満ち溢れていて、ロマンチックで、心に寄り添ってくる。とはいえ、ほとんど毎年映画を作っている究極の多作監督なので、すべて観ているわけでは、もちろんない。でも、たまたま観ているものがよかったのか、ウディ・アレンの作品を僕はいつも安心して楽しむことができる。時間が許されるなら、デビュー作からゆっくりと全部観たいとも思っている。
 それにしてもウディ・アレンの尽きないアイディアと創作意欲は本当にスゴいと思う。映画評論家の川本三郎氏は、「ウディ・アレンの美徳は、一見ダメ男のようでいながら実は誰よりも勤勉なことだろう」と言っている。もっともこれは映画製作だけでなく、小説を書き、クラリネットを吹き、恋をするという、喋るのと同じぐらいの落ち着きのなさでいろいろなことをこなしていくからだといってもいい。

『マンハッタン』(1977年)予告編

『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)予告編

『ローマでアモーレ』(2012年)予告編
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