そもそも、冷静に考えてみよう。
題材は、1980年放送の合体スーパーロボットなのだ。
作品の理念やテーマがどれだけ高尚であれ、富野由悠季監督招聘前段階で、玩具メーカーのトミーと、日本サンライズと、メカデザインのサブマリンが用意しておいたのは「自衛隊の戦車とタンクローリーと幼稚園バスが、それぞれ敵が現れればSF戦闘メカに変形し、さらにその3機が合体してロボットになる」というデザインであったのだ。
しかし、エンドユーザー、それも玩具ではなくアニメ作品の方から入ってきたファンにとっては、アニメ画面のメカニックが全てであり、アニメ画面でのプロポーションやディテールが「正解」なのであったのだ、まだこの時代までは。
要するに、まず第一に重要なことを明言してしまえば。
アニメ作品『伝説巨神イデオン』作中で描かれていたソル・アンバー、ソル・バニア、ソル・コンバーという3種の車両メカからの、イデオ・デルタ、イデオ・ノバ、イデオ・バスタへという3種のSFメカへの変形、そしてそこからのイデオン合体状態への変形と、それらの合体したイデオンというファクターを、アニメのイメージやスタイルやディテールを損なうことなく、整合性を伴って成立させることは、三次元ではそもそも“不可能”なのだ。
むしろ、80年代初頭ガンプラブーム渦中にあったバンダイは、主に「その問題」にぶち当たったのは、1/100 ガンダムのコアブロックの腹部と、1/144 Gアーマーの各形態分離変形だけであり、前者はクローバーの合金玩具処理方法をそのままディテール面でブラッシュアップするだけでガンプラ第1号を乗り切り、後者はむしろ「Gブルのコアブロックパーツ」「Gスカイ時のコア・ファイターの尋常ではない大きさ」等、アニメ作品内の二次元の嘘を威風堂々と再現することで、アニメ合体ロボットのプラモ化に対する、一つの回答を提示してみせた(極論を言ってしまえば、Gスカイ時のコア・ファイターが仮に変形できたとしても、ガンダムの腹部や、Gブルのコクピットの大きさには収まらないことが明確である時点で、嘘を嘘として割り切っている作りなのである)。
この1/600 イデオンは、この連載で以前書いた記述に基づけば、1/420 アニメスケール イデオンに続いて「アオシマ版大型イデオンキットVer.2.0」と言い切って良いクオリティに仕上がっている。
これまでのイデプラには、殆どに封入されていた、クリアパーツもシールもデカールもない、完全塗装仕様のイデオンの1/600キット。
「テレビまんがに登場する、スーパーロボットの模型化」というコンセプトに当たっての、これまでに自社が築いてきた、玩具アレンジやスプリングミサイル発射ギミックや、その他オリジナル要素などの独自スタンスを全て捨て去り、とことんストイックに、しかも“完璧”を目指してこの商品は開発された。
無論、それらを駆使しての3機3種変形合体は、実際の商品仕様としては、差し替えや合体後の余剰パーツの山にはなるが、むしろ逆転の発想で、確かにこのキット完成品の変形・合体プロセスは、ありとあらゆる余剰パーツの山を築いたかもしれないが、この商品は1981年というタイミングと技術レベルで、イデオンの3機3種変形合体を、ほぼ完璧に再現した商品だったのである。
この英断と実行力は、同時期のバンダイのガンプラでも成すことは出来ず、後に追従した各社のリアルロボット路線のどの模型化でも、同等のギミックを仕込むことが出来なかった快挙であった。
考えてみよう。
イデオンの3機3種変形合体を1アイテムでこなすのであれば、トミーの奇跡合体以上、バンダイの超合金魂以下の枠内に収まる範囲でしか、物理的にパーツもディテールも構成できないはずだ。
しかし、この1/600 イデオンは、「イデオ・デルタ時の主翼のパーツが小さい」「イデオ・ノバ時のボディ後部が左右に開かない」「イデオ・バスタ時のメインコクピットのデザインやフロントウィンドゥの形状がアニメ設定と異なる」等々、確かに諸々のウィークポイントを抱えながらも「1981年」の「アオシマの技術と経験値」で、致命的な破綻を呼ぶことなく、3機3種変形合体を完遂している究極イデプラなのである。
ソル・アンバーでの、手首に付く白い極小パーツが謎移動するのは、これは差し替え以外で再現することは物理的に不可能だし、主翼と垂直尾翼の大きさも、収納に拘った超合金魂版とも、差し替えに拘ったスーパーミニプラ版とも異なり、収納と差し替えを併用することで、ギリギリバランスとギミックの両立的満足感を与えてくれる。
その上で、ソル・アンバーからイデオ・デルタへ変形する際の一番のギミックポイントの「前腕ブロックの軸回転座標ずらし」も、後発アイテムが取り入れるよりいち早く、金属シャフトを使うことでスライドする方式を(既にこの設計思想は、「アオシマ版大型イデオンキットVer.1.0」であった1/420 イデオンで、試行されているが)完成させていた。
確かにBメカは2次元の嘘の塊で、ソル・バニア時もイデオ・ノバ時も、車体の前部が後部より低く設定されるので、底部をこすってしまう角度になってしまうが、それは後のバンダイ版の2種でも同じ結果を迎える。その上で、2種のフロント部分のルックス的差別化の差し替え(奇跡合体や超合金魂では伸び縮みするギミック)を、スーパーミニプラ版よりもむしろ差し替え形状を最小限に抑え、変形前後の共通性はアオシマ版の方が高められている。
イデオ・ノバ時の左右ボディ展開がないことは上でも書いた残念ポイントだが、むしろイデオ・ノバ時を真後ろから見た時には、まるっきり合体接続部分としてパーツが分割されている超合金魂版や、やはりCメカとのボールジョイント接続用の穴がぽっかり空いたスーパーミニプラ版と比較しても、一長一短で決して一方的にアオシマ版が劣っているとは言い切れない。
付属追加パーツにしても、グレンキャノンのディテールでは劣るが、アンテナの細かさやシャープさでは、PL法の縛りがなかったころのアオシマ版の方が、パーツに精密感がある。
ソル・コンバー状態での車輪の付き方は、歴代の合体変形イデオンアイテムの中でも、このアオシマ版がもっとも自然なシルエットでCメカサイドに収まっている。
タイヤパーツを外した後のカバーのフォローも忘れてない辺りや、スーパーミニプラ版ではスルーされてしまった「つま先のバーニアとシャッター」の付け替えも、アオシマ版ではとことん丁寧に行き届いている。
スーパーミニプラ版では「接続部分のポイントをずらす」ことで脚の長さを長短差し替えていたが、アオシマ版はテレビイメージの尊重から、スプリングを内蔵したストッパーを使うことで、実際にアニメどおりに腿が伸縮した。
イデオ・バスタのウィングや機首も、超合金魂のような変形への拘りを躊躇なく切り捨てて、差し替えパーツにしたあたりは英断で、だが実は、この主翼の色分けガイドラインとしてのディテールは、アオシマ版、スーパーミニプラ版ともにアニメ版とは異なっていて、完全変形を目指した超合金魂版はもっと異なっている。
機首も含めて、ここは36年の時を経て、アオシマ版とスーパーミニプラ版が引き分けとなる。
あおしまぽぷら 2020/10/7 11:29
初次見面。
惰性的日曜へぼモデラのあおしまです。
イデオン1/600プラモデルの評価記事、拝読しました。とてもアオシマ旧キット偏重主義の当方に刺さる内容だとの感想を持ちました。
当方、このキットが欲しい一人です。理由は、可能な限り本編の変形を再現したいのです。特にイデオ・ノバの武装格納とイデオ・バスタの機首変形を。
なかなか出来の良い良キットだと云うことは重々承知した上で記事を拝読させて戴きまして、その上で過去に本キットを改造されたB氏の作例も念頭に置きつつの感想が、前述の通りになります。貴方の様な方には、このキットと同様の構成であり乍、番組と同じく紆余曲折をへた後続作品のアオシマアニメスケールキット"魔境伝説アクロバンチ"に関しての御意見を、是非ともお伺い致したく存じます。