80年代の日本アート・シアター・ギルドの作品紹介
2023年9月15日 更新

80年代の日本アート・シアター・ギルドの作品紹介

ATGこと日本アート・シアター・ギルド。映画好きにはこたえられない優れた作品を配給し続けたことで知られています。今回は若手の映画監督を積極的に起用した80年代の代表作を紹介します。

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ATG

日本アート・シアター・ギルド。略してATGは、1961年から1980年代にかけて活動した日本の映画会社です。大ヒット作も生み出しましたが、全体的にはアート志向というか、マニアックなというか、独特な雰囲気を持った作品で知られています。

ATGの第1期(1961 - 1967年)は主に外国映画の配給を行い、第2期(1967 - 1979年)では低予算ながらも映画製作に移行します。そして第3期(1979 - 1992年)になると若手監督を積極的に採用した作品を世に送り出しました。

今回は第3期、80年代の代表的なATG作品を紹介します。

ヒポクラテスたち

一般に1979年からがATGの第3期とされているようですね。
1979年に制作されたのは、小笠原裕監督の「青春 PART II 」、新藤兼人監督の「絞殺」、クロード・ガニオン監督の「Keiko」、神代辰巳監督の「赫い髪の女」。そして東陽一監督の「もう頬づえはつかない」です。計5本。
中でも総計50万部を売り上げるベストセラー小説を映画化した「もう頬づえはつかない」は大ヒットし、主演の桃井かおりは一躍人気女優となりました。

で、1980年。この年は橋浦方人監督「海潮音」、大森一樹監督「ヒポクラテスたち」、神代辰巳監督「ミスター・ミセス・ミス・ロンリー」に鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」の4作品を制作・配給しています。
やはり話題となったのは「ツィゴイネルワイゼン」でしょうね。第54回キネマ旬報ベストテン第1位、第4回日本アカデミー賞最優秀作品賞など多くの賞をかっさらいました。

が、今回お薦めするのは「ヒポクラテスたち」です!
ヒポクラテスたち

ヒポクラテスたち

監督:大森一樹
脚本:大森一樹
製作:佐々木史朗
出演者:古尾谷雅人、伊藤蘭、光田昌弘、狩場勉、柄本明、西塚肇、真喜志きさ子、内藤剛志、斎藤洋介、手塚治虫、原田芳雄、渡辺文雄
音楽:野秀一
撮影:堀田泰寛
製作会社:シネマハウト
配給:日本アート・シアター・ギルド
上映時間:126分
【introduction】
大学病院での臨床実験(ポリ・クリ)を通して医術を身につけていく医学生たちの青春群像ドラマ。 とある医大の卒業を控えた、学生寮に住む主人公・荻野愛作を中心に、彼と同級の医学生たちをヨコ糸、学生紛争の生き残り組もいる寮生たちをタテ糸にそれぞれからませながら、臨床実験での珍奇な失敗談などを自ら京都府立医大生だった大森監督自身の体験を基に、医者とは?医学とは?と自問し苦悩する若者たちを描く。 自らも医大生であった大森一樹監督が、医大の最終学年の1年間にスポットを当てて、モラトリアムに揺れる青春像をみずみずしく描いた青春グラフティの傑作。
第3期のATGが若手監督を多く起用したのは、実績のある監督は予算の関係から使えないという懐事情があったのではないかと推察されます。しかし、それが結果として多くの才能ある監督を掘り起こすことになったわけですから、日本映画界にとっては不幸中の幸いですね。

「ヒポクラテスたち」は、監督デビュー作「オレンジロード急行」で早々に注目されていた大森一樹を起用して見事に成功した作品となりました。
何といっても医大生たちの日常を描くというストーリーが斬新で、その医学生を演じる古尾谷雅人、伊藤蘭たちが新鮮でした。内藤剛志、斉藤洋介の映画デビュー作としても知られています。

ヒポクラテスたち 予告編

なんでこんなにリアルな医学生が描けたのかと言えば、脚本も担当した大森一樹監督は医学部卒業なんですよ。納得の出来栄えです!
それにしてもキャンディーズ時代から可愛かった伊藤蘭ではありますが、この作品でも輝いています。

「ヒポクラテスたち」は、1980年度キネマ旬報ベストテン日本映画部門第3位、第2回横浜映画祭助演女優賞を獲得しました。

遠雷

「ヒポクラテスたち」「ツィゴイネルワイゼン」と2本のヒット作で80年代幸先の良いスタートを切った日本アート・シアター・ギルド。勢いそのままに1981年には6本の作品を送り出しています。しかもその6本がどれもこれも素晴らしいときています。

井筒和幸監督「ガキ帝国」、根岸吉太郎監督「遠雷」、大森一樹監督「風の歌を聴け」、岡本喜八監督「近頃なぜかチャールストン」、大林宣彦監督「転校生」、長崎俊一監督「九月の冗談クラブバンド」。映画好きにはどれもたまらない作品ですよね。

「転校生」はイイ。「風の歌を聴け」や「ガキ帝国」も素晴らしい。が、お薦めとなるのは「遠雷」です。
遠雷

遠雷

監督:根岸吉太郎
脚本:荒井晴彦
出演者:永島敏行、ジョニー大倉、石田えり、横山リエ、ケーシー高峰
音楽:井上尭之
撮影:安藤庄平
編集:鈴木晄
製作会社:にっかつ撮影所、ニュー・センチュリー・プロデューサーズ、ATG
配給:ATG
上映時間:135分
あらすじ
父も兄も家を出て母と祖母との3人で暮らす満夫は、日々の鬱憤をトマト栽培で紛らわしていた。ある日、彼に見合いの話が舞い込む。相手のあや子という女性と順調に交際を進めていたが突然、父親が帰ってくる。さらに追い打ちをかけるような事件が相次ぎ…。
この時点で、根岸吉太郎は日活ロマンポルノを7本監督していて、「遠雷」は一般映画の第1回監督作品で、通算で8作目となります。
こんなに素晴らしい監督を埋もれさせておくのは勿体ない!とばかりに制作された「遠雷」は、期待にたがわぬ名作となりました。

地上げが進む地方都市でトマト栽培を営む青年の物語です。地味。こう言われると、なんか地味。で、クライマックスは自宅で行われる結婚式です。確かに地味な物語だ。ですが、だからこその感動があるんですよ。
結婚式の最後に桜田淳子の「わたしの青い鳥」が歌われるのですが、このシーンで泣かない人っているんですかね?素晴らしい演出だと思います!最後の遠雷のシーンには強烈な余韻が残る。

(35)サントリー・オールド(永島敏行・横山リエ)

主演の永島敏行はモチロン素晴らしいですが、ジョニー大倉、石田えりといった他の出演者全員が素晴らしいです。熱演という言葉がぴったりの作品。まぁ、いい映画と言うのはそういったものなんでしょうけど、熱演あっての名作というものを実感します。

「遠雷」は、「第55回キネマ旬報賞」日本映画ベスト・テン第2位、読者選出日本映画第4位、主演男優賞:永島敏行。
「第24回ブルーリボン賞」監督賞:根岸吉太郎、主演男優賞:永島敏行、スタッフ賞:安藤庄平。
「第6回報知映画賞」作品賞、主演男優賞:永島敏行、新人賞:石田えり。
「第5回日本アカデミー賞」新人俳優賞:石田えり。
「第5回山路ふみ子映画賞」などを受賞しています。

家族ゲーム

映画をヒットさせるというのは大変なことのようです。良い作品だからといってヒットするとは限りませんからねぇ。難しいところです…

1981年に頑張り過ぎたのかATGは翌年、高橋伴明監督「TATTOO<刺青>あり」、中川信夫監督「怪異談 生きてゐる小平次」、浅井慎平監督「キッドナップ・ブルース」の3作品のみ。
しかも更に翌年の1983年は僅か1作品しか配給していません。

が、しかし、その1作品が大ヒットしたんですよ。森田芳光監督の「家族ゲーム」です。
家族ゲーム

家族ゲーム

監督:森田芳光
脚本:森田芳光
原作:本間洋平
製作:岡田裕、佐々木史朗
出演者:松田優作
撮影:前田米造
編集:川島章正
製作会社:にっかつ撮影所、NCP、ATG
配給:ATG
上映時間:106分
【story】
沼田家では次男・茂之の高校受験を控えてピリピリした毎日が続いていた。両親の計らいで、家庭教師がつくことになるが、やってきた吉本と名乗る男は三流大学に7年も在籍している男。との教育指導も一風変わっていたが、茂之の成績は徐々にアップして行く。そしてそれにつれて沼田家にもある変化が・・・。
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