白井義男 世界のチャンピオン
2016年11月25日 更新

白井義男 世界のチャンピオン

日本人初の世界チャンピオンになり、敗戦後、自信を失っていた日本人に勇気と歓喜を与えた。その白井義男が世界チャンピオンになった5月19日は「ボクシングの日」になっている。

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戦争が終わり
東北の秘密基地から上野駅にたどり着くと
東京は空襲で消えていた
荒川区三河島の家も影も形もなかった
「いずれ戦争が終わったら」
と大切に包んで保管しておいたボクシンググローブやシューズも灰になっていた
両親と家を失った浮浪少年が
食べ物をあさって闇市や駅の構内をさまよっていた
進駐軍のジープが来ると
彼らはワッと群がり一斉に手を差し出すと
その手にチョコやガムが手渡された
白井は戦争に負けるということがどういうことかわかったような気がした
終戦後、アメリカ軍の進駐すると共にボクシングは全国に広がった
戦争中は禁止されていた、
「ストレート(直打)」
「フック(鉤打)」
「ダウン(被倒)」
などの言葉も復活した

「俺にはボクシングがある」

白井義男の宝物、手製のリングシューズ

白井義男の宝物、手製のリングシューズ

白井は生きるためにさまざまな仕事をしながら
来るべき日のために
まずリングシューズを手づくりした
焼跡からテント生地と皮の切れ端を探し出し
足に合わせて型をとり
麻糸にロウを塗り
一目ずつ丁寧にしっかり縫っていった
両足で1週間かかった
いつ使えるか当てもなかったけれど
「俺にはボクシングがある」
という希望の光が胸に灯った
やがて再びボクシングの練習を開始した
屋根もない青空道場だった
戦争が終わり
死の恐怖とがんじがらめの束縛から解放された若者たちが集まり
将来のチャンピオンを夢みてトレーニングした
しかし
カムバック戦は
5R1分14秒でTKO負けした
その後も勝ったり負けたりを繰り返した
戦前の8戦8勝7KOの輝きは失われ
戦後は並みのボクサーになっていた

カーン博士

Alvin Rober Cahn

Alvin Rober Cahn

GHQ(進駐軍)の将校だったカーン博士(アルビン・ロバート・カーン)は
イリノイ大学で生物学と栄養学の教授をつとめ後
GHQの天然資源局で
日本人の食糧支援のために日本の周辺海域でとれる海洋生物の調査を行っていた
カーンの父:アルビン・ベンジャミンは
貧困の中から身を起こし
穀物の仲買業者として成功、株式、証券で財を成したという
カーンはその1人息子だった
カーン博士は
趣味の貝殻集めのため
築地の魚市場に通っているとき
木挽町にあった日拳ジムで練習していた白井を見つけた
カーン博士のもう1つの趣味がボクシングだった
自身はボクシング経験はなかった
大学でテニスのコーチをしていたとき
タイミングの重要性、コンディショニングなどを身につけ
やがてボクシングの研究にも没頭した
運動生理学の見地からボクサーの筋肉の動きに興味を持ち
熱烈なボクシングファンになった
「あのボーイは
なんというチャンピオンか?」
カーン博士は
練習している白井を指してトレーナーに聞いた
「チャンピオンじゃない
名もない選手だ」
聞かれた者は失笑した
白井は勝ったり負けたり、泣かず飛ばずのボクサーだったからだ
しかしカーン博士の目に白井はすばらしいボクサーにみえた
「シライをコーチしてもいいか?」
カーン博士がジムに聞くと
「白井さえよければ」
と答えた
ボロボロのコートを着たカーン博士を物好きなボクシングマニアだと思った
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白井は
半そでのカラーシャツと国防色の半ズボンでシャドーボクシングをしていた
「ハロー」
ふと顔を上げると
目の前に初めてみる初老の白人の顔があった
「キミはすばらしい素質を持っている
とくにキミのナチュラルタイミングのパンチはすばらしい
きっとキミを強くしてみせる
どうかね
キミのコーチになろう
2人で一緒にやらないか」
白井は驚いたが
考えてみると
ボクサーになって以来
技術面でキチンと体系的な指導を受けたことはない
すべて自分で編み出した攻撃と防御だった
「Yes」
白井義男、25歳
アルビン・ロバート・カーン、56歳だった

ステップ・バイ・ステップ

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翌日からカーン博士の指導が始まった
カーンはひたすら基礎練習を反復した
「オンガード」
といわれて構え
「左ストレート」
といわれればそれを打つ
そうしてそれだけを2時間続けた
「白井のヤツ、
変な外人の年寄りに捕まって
かわいそうに・・・」
仲間は同情した
しかし違った
同じストレートを打つのでも
漠然と打つのではなく
いかに破壊力を増し効果を高めるかに全神経を集中していく
カーンは基礎練習の中で
まずその思想を叩き込んだ
白井は
カーンの科学的な説得力と一途な情熱を兼ね備えた指導から
基本のワンパンチ、ワンステップの中に
実は底知れぬ奥深さがあることを理解した
またカーンは
「ステップ・バイ・ステップ
(焦らず慎重に1歩ずつ階段を上っていこう)」
「ローマは一日にならず」
といい
白井のはやる気を押さえ
コツコツと体を技術をつくることが
結局早く頂点に登りつめる近道だと教えた

打たせずに打つ

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「絶対に退いてはいけない
前に出て打って打って打ちまくれ!」
「肉を切らせて骨を断て!」
「防御は卑怯者のすること」
「玉砕戦法!」
当時は勇猛果敢なボクシングスタイルが好まれていた

ピストン堀口 リングの王者 拳聖 - YouTube

いろいろ繋いでみました。 映画主題歌 リングの王者 唄:ピストン堀口 1.高鳴るゴング 血は燃えて 男を賭けた ファイトこそ 行くは時代の 熱血児 目指す行手は 目指す行手は リングの王者 2.アッパーカットに スイングに マットを血塗る 熱と意気 無敵のパンチ 火を散らし 目指す行手は 目指す行手は リングの王...
その典型が拳聖といわれる「ピストン堀口」である
どれだけ打たても前進をやめず
最後は相手を強烈なパンチでリングに沈めた
「こちらが打つ
相手がかわして打ってくる
それをいかに避けるか
大切なのは攻撃と防御のコンビネーションだ」
というように
カーンのボクシングは『相手に打たせず自分が打つ』ものだった
ステップバック、ウィービングなど5種類の防御を1つ1つ納得するまでこなしていく
相手のパンチをサッとステップバックしてかわすという動きに
卑怯者にみられないか心配する白井にカーンは笑いながらいった
「ヨシオの身近に
戦争で攻めることだけ考えて
守りを考えなかったために惨敗した国があるだろう」

フォロースルー 突き抜くように打つ

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