【お伽話を語ろう】わがまま(?)姫の戦国ラブファンタジー
2020年3月20日 更新

【お伽話を語ろう】わがまま(?)姫の戦国ラブファンタジー

時は戦国、物語の主人公は大国安住の一人娘と小国加賀城主。世間知らずで呑気な千沙姫と若くして国を背負う強くて優しい一清のラブロマンス。柳原望先生の『一清&千沙姫シリーズ』の魅力をたっぷりご紹介します。

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お伽話を語ろうとは?

『LaLa』(白泉社)にて1993年9月号に掲載され、1994年9月号から1996年9月号まで連載された『一清&千沙姫シリーズ』の最初の作品です。
単行本(白泉社)は全8巻で『お伽話を語ろう』からはじまり『お伽話がきこえる』で完結します。
文庫本(白泉社文庫)は全4巻です。

一清&千沙姫シリーズとは?

柳原望先生といえば「高杉さん家のおべんとう」や「かりん歩」など現代を舞台にした作品を思い浮かべる方も多いと思います。
初期からのファンは、『柳原望先生=着物+お姫様』と思うはずです!
それくらい初期の作品には着物、とくに戦国時代を舞台にした作品が多く、洋服を着た作品は逆に新鮮でした。

その中でも人気が高く、柳原先生の代表作とされているのが『一清&千沙姫シリーズ』です。

時代物といっても、国や登場人物は全て架空のものです。
ただ実際の戦国時代の特徴や時代背景をしっかりおさえた作品であり、残酷なシーンもあります。
お話は日常場面ではのんびりしていて主人公の千沙姫はとにかく可愛く、一清は頭はいいけど乙女心が分からずで微笑ましい場面が多いのが特徴です。
終盤に向かうにつれ、緊迫した場面、難しい選択を迫られる場面が多くなり、シリアスなシーンも増えてきます。
そんな中でも千沙姫のわがままやお呑気は健在で、読者を含め周りが振り回されていくのです。

物語は安住の千沙姫が加賀の一清へ嫁ぐところからはじまります。
千沙姫と一清は親同士が決めた許嫁。
物心つく以前から「一清さまの嫁になるのだよ」と言われて育ちました。
千沙姫は一清に何度も手紙を書きますが、その返事はいつも一行の素っ気ないもの。
まだ見ぬ旦那さまに期待半分不安半分。

いよいよ婚礼となり加賀に到着した千沙姫ですが、一清は急な戦で留守でした。
加賀の使用人たちのよそよそしい態度、なかなか会えない一清。
「きらわれてる!」と嘆く姫でしたが、引越しの荷物も運びこまれ「実家に帰る」とは言い出せない雰囲気。
一清が千沙姫のために用意した部屋は、以前は一清が使っていたもので、屋敷で一番日あたりが良い場所でした。
出陣前に急いで部屋を移動したため、一清の部屋は物が散乱していましたが、部屋の奥に大事そうに置かれた箱があるのに気がつきます。
箱に入っていたのは千沙姫が一清に送った手紙と、一清が書いた返事の下書きでした。
書いてはバツをつけて不採用、けっきょく最後の一行だけ採用という手紙の返事。
千沙姫は「もっとよく見てみよう、瞳を大きく開いて」と思うのでした。

使用人たちの態度がよそよそしかったのは、以前安住の使者がきた時「言葉が変だ」と笑ったからでした。
「千沙は言葉てのは通じればよいと思うの」
「だからちっとも変じゃないわ」
千沙姫の人柄がよくわかる台詞です。

加賀軍が有利で勝利は目前ですが、敵の援軍が姫のいる屋敷へ向かっていることを一清は知りません。
ついに屋敷近くまで敵の援軍が。
西に向かい安住の援軍と合流するよう言われて屋敷を出ますが、千沙姫はある決断をします。
「もう会えないかもしれない」
一清のいる東へ。
途中廃寺で休憩する千沙姫と侍女。
侍女が外に出ると逃げてきた敵軍に見つかり、加賀軍に追いつかれて行き場を失った敵大将が廃寺に火を放ちます。

一清は敵大将を仕留め、まだ廃寺の中にいる千沙姫の救出に向かいます。
居眠りからさめると周りは火の海。
混乱する千沙姫ですが、一清があらわれると抱きつき。
「死ぬのが火の中でよかった」
「こんなに明るいから一清さまの顔がはっきり見える」
世間知らずの姫ですが、こういう潔さは戦国ならではなのでしょう。

もちろんこの後二人は無事に脱出できます。
最後に手を取り合って『お伽話を語ろう』はこれで終わり。
読み切りでしたが、1年後に『一清&千沙姫シリーズ』として連載がはじまります。

心に残る名言もたくさんあります。
本当に大切なものが何なのか、気づかせてくれる作品だと思います。

優しいだけじゃない時代。
優しい人にはつらい時代。

誰かを犠牲にしなければ守れないものがある、そんな時代。

『わがまま姫の反乱』では、一清は加賀の重大な秘密を守るために、地脈師の少女を殺すことを決断します。

「どおしてそんなに心を曲げなくちゃいけないの?」
少女を犠牲にするという決断をした一清とそれを受け入れる村人への怒り。
最初はきれいごとだと思われた姫の言葉です。

同情した千沙姫が少女を連れて逃走。
これによって加賀が安住を裏切ったと思われても仕方がない状況になってしまいます。
しかし一清の心配とは裏腹に、加賀の国民からも安住からも「姫のわがまま」の一言で片づけられてしまう。

少女を生かす突破口を開いたのは千沙姫だったのです。

「わがままに 我がままに 生きること」
自分の気持ちに正直に生きる千沙姫に対する一清の言葉です。

主な登場人物

千沙姫(ちさひめ)

大国安住のお姫様で一人娘。
人を疑うことを知ず純粋で呑気な性格。
思ったらすぐに行動するためわがままと言われてることもある。
一清とは親同士が決めた結婚だったが、シリーズ通して夫婦仲は良好。
誰にでも壁を作らず、村人や使用人とも仲がよい。
父親譲りの頑固さで周りを巻き込んで騒動を起こすが、結果的に一清の助けとなることが多い。

加賀一清(かが いちきよ)

小国加賀の城主。
一清以外の家族が殺害され12歳で家督を継いだ。
剣技、戦略能力に卓越しており、愛読書は「兵法」で頭もきれる。
その反面、ぼんやりしていて鈍感、乙女心がわからない一面も。
国や民を従えるのではなく、守るべく友人と考えており、国民から慕われている。
口下手で愛情表現は多くないが千沙姫のことは大切に想っており、国と姫どちらを選ぶか迫られた時も、どちらも譲らなかった。

一姫(いちき)

一清と千沙姫の娘。
一清が名前をつけるが、一清と千沙姫からとったわけではなく、一番目の姫(一の姫)という意味らしい。
シリーズ後半の戦乱の中で生まれるが、その後無事に成長した姿も見られる。

かえこ

千沙姫の侍女で双子。
髪の毛を後ろ1本で束ねている。
主人である千沙姫にも意見や嫌味が言えるほど絆が深い。

きえこ

千沙姫の侍女で双子。
髪の毛を後ろ2本で束ねている。
のんびりした性格でお昼寝命。
かえこのフォロー役でもある。

ふえ

加賀の間者(スパイ)で美人で頭も良い。
一清の理解者で相談役でもある。
昔一清の兄の一和から求婚され本当は両想いであるにも関わらず、はぐらかしていた。
加賀一家殺害で一和亡き後も弟の一清を支えている。

大谷源十郎(おおや げんじゅうろう)

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