前田日明 (まえだ・あきら)
当初、標的としたヒクソン・グレイシーは、前田ではなくPRIDEでの高田延彦との再戦を選んだ。
ヒクソンと並行してカレリンと交渉していた前田陣営だが、オリンピック4連覇を狙うカレリンの周囲は参戦に否定的でこちらも難航した。
だが、最終的に交渉がまとまり遂に『霊長類最強の男』がプロのリングに上がることになった。
旧ソ連国家スポーツ省の事務次官をやっていたリングス・ロシアの代表ウラジミール・パコージンが「ソ連崩壊によってスポーツ振興が途絶え、喰えなくなっていた我が国の格闘家たちが、前田の尽力によって何十人も救われた。ロシアの英雄といわれているあなただ、そんな男のためにたった一試合やるくらい、いいじゃないか」と涙を流してカレリンに訴えて実現したと前田は語っている。
また一説には、ファイトマネーを五輪を目指す地元の少年レスラーたちに贈るためにカレリンは決断したとも言われているが、日本のマスコミにカレリンは「私に挑戦してきたのは彼が初めてでした。真剣だったから、受けました。」とだけ語っている。
カレリンとの引退試合は民放のニュース番組で特集されるほど、世間から注目された。
「ヒクソンなんて目じゃない。本当に強い男と対戦するのはこっち」と前田は発表時にコメント。
後に前田は、引退試合の相手にカレリンを選んだ理由について前田は「本当に強い人間っていうのは、こういうことだよっていうのを証明したかった」と語っている。
前田日明VSカレリン予告編
引退試合:1999年2月21日
前田日明 対 アレクサンドル・カレリン試合ルール
・ロープエスケープ=1ロストポイント
・ダウン=2ロストポイント
・ロストポイントが6つになった時点でTKO負け
・2ラウンド終了時ポイント差で勝敗を決定
・グラウンドによる打撃は禁止
打撃や関節技が許されるこのルールは、アマレスの選手であるカレリンに対して、前田日明に有利なルールだと言われていた。
【動画】リングス 前田日明引退試合 The Final@横浜アリーナ
カレリンの入場曲はオジー・オズボーンの「Perry Mason」。
後に前田自身が「ベストのタイミングだった」と語ったタックルも、まったく通じず、そのままがぶって前田の体(身長191cm、体重117kg)を子供のように振り回した。
1Rの中盤になんとか脚関節を取った前田だが、カレリンはあっさりとロープエスケープで難を逃れる。
これで先制のポイントは奪ったものの、前田の攻勢はこのときだけだった。
以後はずっとカレリンの独り舞台で、前田をもてあそぶかのようにマットの上に転がすと、こらえる間も与えずにカレリンズ・リフトで投げ飛ばす。
関節を極めるわけでもなく、ただヒジをつかんで仰向けの顔面に押しつけると、前田は身じろぎもできず、レフェリーから何度もギブアップをうながされた。
結果、袈裟固めで2度のエスケープを奪われた前田の判定負けで試合は終わった。
前田日明を軽々と持ち上げるカレリン
前田日明が語るアレクサンドル・カレリン
「バチーンッと俺がベストなタイミングでタックルで倒しに行って『もらった!』と思ったんだけど、カレリンはビクともしない。」
「タックルした瞬間、『ダンプカーと衝突したんじゃないか」と思ったぐらいの衝撃だったよ。アンドレ(アンドレ・ザ・ジャイアント 身長223cm、体重236kg)でもタックルで倒せたんだけどな」
「実際試合をして、クラッチがメチャクチャ強い。アバラの骨が折れるんじゃないかと思った。」
「えっ、こんなクラッチあるの?と思った」
「競走馬に触ったことがあるんですけど、同じ感じの筋肉」
「筋肉のつき方が軽量級の選手と同じなんですよ。ああいう体は持って生まれたものじゃないと、いくら鍛えてもそうならないでしょうね」
となどと述べ、筋肉の質の素晴らしさと体の強さを語っている。
カレリンの敗北と引退
カレリンは世界選手権9連覇を成し遂げた後、ロシア下院選に出馬。
圧倒的な支持を集め、当選した。
しかし、下院議員になったことが仇となり、トレーニングの時間が激減し、33歳の肉体は筋肉が落ち体力も失ってしまっていた。
オリンピック4連覇を賭けた2000年のシドニーオリンピック予選リーグ初戦では「カレリンズ・リフト」はすべて空振りに終わり、試合中に喘ぐように肩で息をし、何度も苦しそうな表情を見せていた。
かろうじて決勝に進んだカレリンだったが既に疲労困憊で『霊長類最強の男』の面影は既に無かった。
カレリン唯一にして最後の敗北 シドニーオリンピック決勝
疲労の積み重なったカレリンは組み合いになったとき一瞬手を離してしまいその隙に1ポイントを与えてしまう。
ガードナーは徹底的に逃げに徹しこの1ポイントを守り抜きカレリンは逆転することができず敗北してしまう。
総合格闘技への転身が噂されたが、これも否定し『霊長類最強の男』は静かにマットを下りた。
その圧倒的な戦闘力で日本でも多くの影響を与えたカレリン
カレリンにあやかり「アレクサンダー」をリングネームにしたアレクサンダー大塚
アレクサンダーの名は、大塚が尊敬するアレクサンダー・カレリンに因む。
早くからプロレスと総合格闘技を股にかけて活躍。
PRIDE初参戦で 強豪マルコ・ファス を破り、一躍スターダムにその後も、ヘンゾ・グレイシーや ヴァンダレイ・シウバらと死闘を展開し、 桜庭和志と並んでプロレスラーの強さを世間に見せつけ た。
「霊長類最強の女」「女カレリン」などの異名を誇る吉田沙保里
吉田沙保里がカレリンが持っていた世界大会12連続連覇を超える13大会連覇を記録してからは「霊長類最強の女」「女カレリン」と呼ばれている。
カレリンは「彼女には素晴らしい技術とタックル、それに経験がある」と吉田を称賛している。
漫画『グラップラー刃牙』にも登場するカレリン
最大トーナメント編にて登場。ロシアのレスリング選手で600戦無敗、ただの一度もレスリングの練習をしたことがなく、持って生まれた資質だけで世界最強のレスリング選手として君臨する男。
ロシアという国家に絶対の忠誠を誓っており、自らその証明のために手錠をはめることを求めるほど。
たったひとりでロシアの永久凍土に2年でトラック2000台分のクレーターを掘るなど常軌を逸した逸話の数々が存在する