少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう
2018年1月12日 更新

少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう

「24年組」と言われる萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子など、それまでの少女マンガから一線を画した作風と表現力でムーブメントを起こしたマンガ家たちの軌跡を振り返ります。

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萩尾望都の『ポーの一族』『トーマの心臓』、竹宮惠子の『風と木の詩』の
「少年」というアイコンは
増山法恵のそもそもの嗜好との共感から生まれたものです。
親にピアニストになることを強要されていた彼女は、ウィーン少年合唱団や
稲垣足穂の『少年愛の美学』などの世界の、マンガでの表現を望んでいました。
『風と木の詩』とほぼ同時期に連載をしていた
早世する天才音楽家を描く『変奏曲』のシリーズの原案・原作は、増山法恵です。
変奏曲 vol.1

変奏曲 vol.1

クレジットに「原作:増山法恵」とあります
今では原作つきマンガは珍しくありませんが、
原作および原案、舞台装置やシチュエーションのプロデュースにまで関わることは
当時は非常に特殊な状況でした。
もともと作家志望の彼女には、実際に作品への具体的なアドバイスもしてもらっていて、とても頼りになっている。そういった物語の作り手としての才能を、竹宮惠子個人を大きく売り出していくために活用してくれていた。そしてそのことは、彼女の夢の実現にも直結していた。
via 『少年の名はジルベール』p202 竹宮惠子 小学館 2016.2
『風と木の詩』を世に出すために1位を取れる作品をどうするか悩む竹宮惠子に
「世の中にコビを売るのか」と怒りながらも
「貴種流離譚がいい」とアドバイスをしたり
ファンクラブやサイン会の設定・運営等の全面的なバックアップを行うなど
有能で有力なサポーターとして、そして友人として、増山法恵は存在しました。
「私が、生涯で全身の血が逆流するくらい嬉しかったのは一度だけ。竹宮惠子が小学館漫画賞を取ったとき」と言ってはばからなかった。
via 『少年の名はジルベール』p224 竹宮惠子 小学館 2016.2
少年の名はジルベール 2016/1/27 竹宮 惠子 ...

少年の名はジルベール 2016/1/27 竹宮 惠子 (著)

今回、竹宮惠子さんと増山法恵さんについて
この本からたくさんの情報をいただきました。
竹宮先生の苦労話もたくさん。
それにしても竹宮先生、文章も素晴らしいです。一つとして無駄な文がない。

反転する視点と驚きと祝福と 大島弓子

もともとは「悲劇担当」

大島弓子は1947(昭和22)年、栃木県生まれ。
1968年、「週刊マーガレット春休み増刊号」(集英社)にて『ポーラの涙』でデビュー。

比較的早い時期に執筆陣の仲間入りをしたものの
「ヒゲタン(悲劇担当)」という枠内に入れられ、作品内容を制限されてしまいます。
とはいえ普通の悲劇だけでは終わりません。
1970年の『誕生!』という作品では、女学生の妊娠をテーマにしていますが
目の前に展開するめまぐるしい(しかも昼メロ的理不尽な)状況に翻弄されながらも
登場人物たちが、心情に心情を重ねながら「誕生」に向けて動いていくさまに
その後の大島弓子の作風の片鱗を見ることができます。
『誕生!』 サンコミックス

『誕生!』 サンコミックス

「週刊マーガレット」52号  1971年8号

状況変化の理不尽さは「悲劇担当」ならではなのですが
たたみかけるような展開にひるまないテーマが、一本通っているように思います

繊細な線を保ちながらも

1972年より『少女コミック』に活動拠点を移した。1976年当時、その理由について「『少女コミック』はジャンルの規制をせず、自由な編集方針であったこと。また「用いてはならないことば」がなかったことを挙げ、その環境が今までとは異なるテーマと形式で描くことに自らを誘発した」と語った。
「少女コミック」に移ってからは
『ミモザ館でつかまえて』での、高校女教師と男子生徒の激しい気持ちのすれ違い
『ジョカへ・・・』での悲劇的な性転換
『ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ』(原作ドストエフスキー『罪と罰』)の
主人公のきつい心理描写など
どれも感情の振り幅が大きくなり、選ぶ題材や舞台装置がどんどんと変化していきます。
移籍後しばらくは、大島弓子の従来の繊細な線を保ちながらも
自由にジャンルを拡大できたのではないでしょうか。
『ジョカへ・・・』 1973年「別冊少女コミック」4・...

『ジョカへ・・・』 1973年「別冊少女コミック」4・7・9月号

大島弓子の線の描き方は独特です。
この細い描線から「少女マンガ」を起想する方もいると思います。
via 朝日ソノラマ 大島弓子選集第3巻『ジョカへ・・・』p131 1986年

日常のなかに、普段は見えていない「スキ」がある

「少女コミック」誌での掲載が安定してくると
感情の振り幅はそのままながら、舞台装置が少しずつ「日常」に近くなってきます。
大きな仕掛けはなくなり、
そのかわり、ごく普通の日常の中に「不用意さ」「気づかないスキ」が
ぽっかりと口を開けているのを見るような、ぎょっとする感覚が
登場人物たちの感情や行動を促すエネルギーになってきています。
描写が「日常」であるからこそ、際立って見えるのだと思います。
『さようなら女達』 「JOTOMO」9月号 1976年

『さようなら女達』 「JOTOMO」9月号 1976年

舞台は女子高。
マンガ家を目指し授業中も投稿作品制作に明け暮れる
まだネンネの主人公に対する
親友からのこの暴言(笑
via 小学館フラワーコミックス『さようなら女達』p41 1977年

大島弓子というとこれが物議をかもす『バナナブレッドのプディング』

大島弓子の作品について人に聞くと
『バナナブレッドのプディング』を挙げる方がけっこういます。

「大島弓子 バナナブレッドのプディング」でググると
いろいろな感想が出てくるんですよ。
いわく「男性にはわからない」「男性でこれが分かると言っているのがキモい」

まあどっちでもいいんですけど(笑
たしかなのは、この作品は
当の女性にここまで言わせるほどの、とてもとても微妙であやういところを突いた
マンガだと言うことです。
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