少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう
2018年1月12日 更新

少女マンガの概念を変えた「24年組」をあらためて振り返ってみよう

「24年組」と言われる萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子など、それまでの少女マンガから一線を画した作風と表現力でムーブメントを起こしたマンガ家たちの軌跡を振り返ります。

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大泉サロンの解散

竹宮惠子にとって、【大泉サロン】という場所は
萩尾望都との差をいやがおうにも見せつけられる
精神的に非常にきつい場所になってしまっていました。

ちょうど賃貸の更新時期にあたることもあり、
竹宮惠子は「一人暮らしをしたい」と言い出します。
それはすなわち、大泉サロンの解散を意味しました。
少女マンガ界の「トキワ荘」【大泉サロン】は、2年間で終了となりました。

『ファラオの墓』という踏み切り板

ちょうどそのころ、竹宮惠子の担当編集者が代わります。
それまで少年誌にいて、少女マンガのセオリーにはこだわりのない新担当は
「読者アンケートで1位を取ったら描きたいものを描かせる」と提案をしてきます。

すべては、ジルベールを描くために。
ジルベールの物語を世に出すために、
読者アンケートで1位を取れる作品を描こうと竹宮惠子は決心します。

では1位を取れる内容の作品とはどのようなものか?
ラブコメがまだ大きなシェアを持っている世界の中で
ラブコメを描きたくない竹宮惠子が見せられる世界とは何か?
増山法恵に相談してたどりついたものは「貴種流離譚」。
高貴な生まれの人間があるきっかけで流され
苦労しながらも周囲の人心を得ながら復活するドラマです。

こうして生まれた作品が『ファラオの墓』でした。
『ファラオの墓』第一巻

『ファラオの墓』第一巻

「週刊少女コミック」1974年9月~1976年3月
連載71回の大作です
『ファラオの墓』は、エジプトを舞台にした
それまでの少女マンガにはない、スケールの大きな世界を持っています。
ですが最初から完成された構造は持っていませんでした。

アンケートの結果があまりはかばかしくないことを受け
自分の作品に対するテコ入れを、途中から始めたのです。

どんな要素を入れれば読者は喜ぶか
どう登場人物を動かせば、リアルな心情や表現が生まれるか
そのための「脚本」が必要なのだと、竹宮惠子は気づきます。
ただ流されるように絵を話を描くのではなく
人心を掌握するに足る主人公の、説得力のある行動やエピソード
魅力的な悪役や脇役
政治的な背景や世界観
張り巡らせた伏線をカタルシスに導く筋道
これらを、少女マンガの読み手に、わかりやすく、かつ魅力的に読ませる力を
竹宮惠子は『ファラオの墓』を描くことで、獲得していきます。
マンガを描いていることに、心の底からじわじわと満足している自分がいて、これは作家としての大きな変化だった。作品を創る喜びとは、案外そういうものかもしれない。アンケートの順位は大事だが、まずは自分自身で物語をコントロールできる段階に来たことが嬉しかった。そう思えるようになったのもこの作品からだった。(略)
連載当初、作品と言うものは自分の言いたいことを主張する手段だと思っていたが、そのうちに、読者は作者の自己主張なんか押しつけられたくはないんだと気づけたのが大きかった。自分の周りでは実際には起きないようなことを疑似体験するうちに主人公に同調し、いつのまにか読者自身が新しい自分自身を発見している・・・そんな物語こそ、読者にとって価値がある。
via 『少年の名はジルベール』p213~215 竹宮惠子 小学館 2016.2
『ファラオの墓』は結局、読者アンケートの1位は取れなかったのですが
この作品を作り上げたことは、竹宮惠子の作家としての実力と信用の獲得につながりました。
そして『風と木の詩』の連載が決定します。

エポックメイキングとしての『風と木の詩』

今でこそBL(ボーイズラブ)が市民権を得た世界になっていますが
当時は少年同士の性愛(性愛ですよ!)は相当なタブーでした。
(「薔薇族」「さぶ」といった雑誌はありましたが、超マニアな世界でした)

「少女コミック」という少女マンガの一般誌で
これが発表された時の衝撃は忘れられません。
『風と木の詩』
「少女コミック」1976年2月~1984年6月

これはキスシーンですけど
連載のしょっぱなは
性交シーンですからね(^^;)
ただ、元祖BLとかいろいろ言われてはいますが
『風と木の詩』で描かれているのは「人が人を求めるということ」だと
わたしは思います。
少年同士の性愛はその手段にすぎません。
寺山修司は「これからのコミックは、風と木の詩以降という言い方で語られることとなるだろう」と語り[3]、河合隼雄は「少女の内界を見事に描いている」と評し[4]、上野千鶴子は「少年愛漫画の金字塔」とした[5]。
「少女マンガ」は少女を、少女の世界を描くもの
というワクを大きく突破し
少女が嗜好する耽美で濃密な世界を、ある意味冷徹な眼で描きながら
人間のドラマとして昇華したこの作品は
1977年1月~1980年5月「月刊マンガ少年」連載の『地球へ・・・』と合わせて
第25回(昭和54年度)小学館漫画賞少年少女部門を受賞しました。

大泉サロン 増山法恵という「美意識のパトロンヌ」

【大泉サロン】の成り立ちや、竹宮惠子の『風と木の詩』が世に出る背景には
「増山法恵」という人物が存在します。
この方はマンガ家を志望してはいましたが、マンガ家ではありません。
(萩尾望都や竹宮惠子の絵を見て断念したらしいです)
この人物を語らずして【大泉サロン】は語れません。
東京に生まれ育ち、プロのピアニストを目指していた増山は、幼いころからクラシック音楽、文学、映画、そして漫画にも親しんでおり、少女漫画・少女漫画家が低く扱われることを不満に思っていた[1]。増山は芸術として高いレベルの少女漫画を目指し、竹宮、萩尾にヘルマン・ヘッセの小説や映画、音楽など様々なものを紹介した[1]。
増山さんは旗を持って先頭に立つガイドのような存在だった。
via 『少年の名はジルベール』p62 竹宮惠子 小学館 2016.2
増山法恵は【大泉サロン】を「女性版トキワ荘」とするために
訪れてくる人間をセレクトしていました。
少女マンガに対する革新的な気概があるかどうか
そして何よりも、上手い絵を描くかどうか。
人選と話題の提供、少女マンガの地位向上へのあくなき追求
サロンのいわば「パトロンヌ」として、厳しい意見もたくさん出していたようです。
少女マンガの革命を成功させるため、
よい作品を作り、世間に認められるような立場に立って、要求を通していくためには
「作家であるあなたたちの質そのものが問われている」と。
【大泉サロン】は、少女マンガ界の梁山泊でもあったわけです。
目がぱっちりした女の子の主人公が窓を開ける。すると遠景でエッフェル塔が描いてある。主人公が「パリだわ・・・」とつぶやく、そんな甘いお菓子のような少女マンガは描くな、と彼女は言っていた。「まったく。パリってつぶやけばパリになるのって話だよ。そうじゃなくて、主人公が歩いてくる。そこは石畳の街、読者はその主人公の足元から感じられるしんしんとしたその寒ささえも味わう。それが伝わってくる!そういう本物の物語が読みたいんだよ」。
via 『少年の名はジルベール』p83 竹宮惠子 小学館 2016.2
今でこそ「当たり前じゃん」て思いますけど、当時は手厳しい批判だったでしょうね。
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