司「男の言葉なんか信用するな。いいかよく覚えとけ。男にとって行動は第二、言葉は第三の価値しかないんだよ」
薫「第一は何よ?」
司「そいつは自分で考えるんだな」
結城は謎めいた持論を薫に説くと、薫を抑えていた腕をあっさり解いた。
司「とにかく言葉にすがると傷付くだけだ。判ったか?」
朝練の高志が、鍵を開けて部室に入ってきた。
薫と結城に出迎えられて、高志は目を丸くした。
薫の言葉に高志はますます驚いた。ということは、薫と結城は2人で夜明かししたことになる。
誤解を解こうと薫は高志に説明した。
薫「何にもありませんでした。この人意外に意気地がないんです」
戸惑う高志を尻目に、結城はさっさと部室を出て行ってしまった。
誰が2人を閉じ込めたのか?
鍵を持っているのが馬術部員である以上、他に犯人はあり得ない。
芝園校長は「分かりました」と言って薫に退室を命じた。
誰かに部室に閉じ込められて、結城と2人で一晩過ごしたこと。インスタントコーヒーを5杯飲んで気を紛らせたこと。でも、それだけで何もなかったこと。
弁明が終ると、芝園校長は「分かりました」と言って薫に退室を命じた。
拍子抜けした薫は、芝園校長に尋ねた。「私の言ったこと、信用して下さるんですか?嘘付いてると思わないんですか?」
芝園校長は笑顔で答えた。「あなた、私が何年教師をやってると思うんですか。生徒が嘘を付いているかどうかは、目を見ればすぐに分かりますよ」
信じてくれたんだ。薫は嬉しかった。
生徒会長で馬術部主将の磯崎高志、不良グループのリーダー格である結城司、馬術部顧問教師の大下直樹らは薫に心ひかれていく。
磯崎高志と結城司が薫をめぐって対立を深める
司「結構な眺めだぜ。磯崎、お前ほざいたな。
生涯掛けて恵美子だけを、1人の女だけを愛し抜くってな。
それがどうだ?聞いて呆れるぜ」
高志は結城に弁解した「結城、薫さんが悪いんじゃない。
僕の方からしたことだ」
結城は、これ迄何度となく高志に絡んでいた。
高志が憎い訳ではなかったが、高志の父に姉を取られたのが許せなかった。
八当りと知りつつ、結城はついつい高志に因縁を付けてしまうのだった。
結城司「恵美子も好き、薫も好き。
お前、女ったらしの親父と何処がどう違うんだよ」
この一言にカチンと来た高志は、思わず結城を殴り飛ばしていた。
結城は捨て台詞を残して高志の元から立ち去った。
司「恵美子もお前らを見てたよ。泣いてたぜ」
いよいよ馬術大会の日が来たが・・・
主人の要求に答えようと、痛む脚を堪えて走り続けた。
そして、最後のバーを飛び越えたところで力尽きて地面に横倒しになってしまうのだった。
こうして、事態は最悪の結果に終った。
競技に失格しただけでなく、エレクトラには致命的な傷を負わせてしまった。
獣医師による診察の結果、エレクトラはもう手遅れだと診断がなされた。
馬がここまで脚を駄目にすると、もう生きていくことは出来ない。
いっそのこと楽にしてやった方が馬のためにもいい。
獣医師は、そう言ってエレクトラの薬殺を打診した。
高志が結城に半殺しにされたという噂はすぐに学校中に広まった。
「姉貴はやっとお前の親父と別れる気になったらしい。
とは言うものの、早い話が捨てられたんだ。
何だかんだと小難しい屁理屈を並べ立てていたが、
お前の親父が姉貴を弄んで捨てたことに変わりはねえ」
結城が毒突くと、高志は言い返した。
「それで俺にどうしろって言うんだ?
親父から慰謝料でも取って来いって言うのか?
自分だけが被害者だと思うな。
親父のせいで、母は完全にノイローゼになった。
お前の所だけじゃない。
俺の家だって地獄なんだよ!」
高志が立ち去ろうとすると、結城は呼び止めて続けた。