「天下とったる」横山やすし vs 「小さなことからコツコツと」西川きよし 怒るでしかし!!
2022年4月19日 更新

「天下とったる」横山やすし vs 「小さなことからコツコツと」西川きよし 怒るでしかし!!

1980年代に起こった漫才ブームの中で横山やすし・西川きよし、通称「やすきよ」は不動の王者だった 。実力派若手との共演、対決も多かったが「ライバルは?」と聞かれた横山やすしは「相方」と答えた。そして西川きよしは猛獣使いか調教師のごとき見事なムチさばきで荒ぶる相方と対峙した。

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こうして他の芸人は帰らされ、さんまだけが横山やすしの自宅へ。
「さんま君。
今からモーターボートのエンジン音聞かしたるさかい、よう聞いとけよ」
さんまはヘッドホンを手渡され、各メーカーのエンジン音を正確に聞き分けられるようになるまで、何度も何度も繰り返し聞かされた。
「ドヤッ、違いがわかってきたやろ。
モーターボートは奥が深いいんや。
また聞かせたるさかい、今日はもう帰れ。
ワシはもう寝る」
「やすし師匠、今日はいろいろありがとうございました」
「オッ、ほんだらな。
グッドラック!
はよ行け」
横山やすしの家を出たのは朝の6時。
衝撃と波乱に満ちたテレビデビュー日となった。
後日、さんまは
「飲みに連れていってもらったというより市中引き回しの刑に遭うた」
といって笑わせたが、160cm、42kgと華奢な横山やすしから圧倒的なオーラを感じていた。
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また明石家さんまの先輩、鶴瓶は、深夜番組の罰ゲームでやすしの家にイタズラ電話をかけさせられ
「明日の南海電車の始発の時間を教えてくれませんか?」
と聞き
「お前誰や!!
横山やすしと知っての狼藉か!」
と激怒され、すぐに電話を切った。
さんまの同期、オール巨人のモットーは、
「芸人は、清く正しく面白く」
だが、ある生放送番組で、やすしが海外で車を現地の邦人に費用を立て替えてもらって買って、まだ支払っていないという話をした。
それをみていたやすしはTV局に電話。
番組スタッフがスタジオにつなぐと
「コラッ巨人!。
俺、ちゃんと金払っとるんじゃい!コラッ!
みてもないのに偉そうに抜かしやがってアホんだら!カス!」
とまくしたてた。
「すみません」
番組では大先輩の顔を立て巨人だったが、後日、やすしに会ったとき
「師匠、ホンマは払ってはりませんやん。
今度あんなことあったら『メガネ外せ!』いいますからね」
とクギを刺した。
すると
「おらっ!巨人」
だったやすしが、以降、
「巨人君」
「巨人ちゃん」
と呼ぶようになった。
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1977年4月、横山やすし・西川きよしは、2度目の上方漫才大賞を受賞。
1979年10月、日曜日21時に放送されていた関西テレビ「花王名人劇場」内に「おかしなおかしな漫才同窓会」というコーナーができ、新旧の漫才師が競演。
すると13~16%という異例の高視聴率となった。
同年、横山やすし・西川きよしは上方お笑い大賞を受賞。
またやすしは10歳の息子、一八、妹の雅美を引き取り、2人目の嫁、啓子と3人で暮らし始めた。
やすしもボンボンだったが、啓子も実家が由緒ある神社で鉄工所も経営していたので、大卒の初任給が1万2千円だった時代に5万円のお小遣いをもらっていたお嬢さん。
ピーク時は
「30分の漫才で2人で1500万円」
というやすしは、なにかあれば数千万円をお金を使い、足りなくなると啓子の実家から千万円単位で借りた。
そんな年間、数億あった収入よりも多く使ってしまうドンブリ勘定夫婦だったが、一八は、夜中、家に着くとカギを持っているのに
「啓子っ!啓子っ!」
と大声で叫んで嫁を起して玄関を開けて出迎えさせる父親を目撃した。
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1980年1月、「花王名人劇場」は、「激突!漫才新幹線」というコーナーで、横山やすし・西川やすし、星セント・ルイス、B&Bという関東と関西の人気漫才師を競演させ、18%超え。
4月、横山やすし・西川きよしは3度目の上方漫才大賞
「花王名人劇場」の成功をみて各局が新しいバラエティー番組を製作。
どのチャンネルを回しても漫才がみられるようになった。
同月、「THE MANZAI」が放送されると空前の漫才ブームが勃発した。
フジテレビの横澤彪プロデューサーと佐藤義和ディレクターらがつくる「THE MANZAI」は革新的だった。
放送は3ヵ月に1度。
毎回数組の漫才コンビが漫才を披露するというシンプルな内容ながら、フジテレビの第10スタジオに豪華でポップなセットを組んで、大学生を中心に客を入れ、古臭いイメージを一掃。
漫才の前には必ずショートPRムービー、そして登場時の出囃子はフランク・シナトラの「When You're Smiling(君が微笑めば)」。
横山やすし・きよし、中田カウス・ボタン、星セント・ルイス、ツービート、B&B、ザ・ぼんち、西川のりお・上方よしお、太平サブロー・シロー、オール阪神・巨人、島田紳助・松本竜介など出演順は抽選で決まり、楽屋には緊張感が漂い、舞台では真剣勝負が行われた。
「ライバルは?」
と聞かれた横山やすしは
「相方やね」
と答えた。
このとき横山やすしは36歳。
ビートたけしと西川きよしは34歳。
漫才ブームの後に「笑っていいとも!」でブレイクを果たすタモリは35歳だった。
1980年10月19日、啓子が「光」を出産。
やすしは一八を
「おう、長男」
雅美を
「長女」
光も
「長女」
と呼んだ。
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1980年12月11日、横山やすし・西川きよしは文化庁の芸術祭優勝賞を受賞。
名実、共に日本一に漫才師となった。
「ファンは今だけだけのファン。
俺にはファンは不安や」
西川きよしはそういいながら、子供からお年寄りまで愛されようと努力し続け、城のような家を建てた。
一方、
「信じられるのは己だけ」
というやすしの家は50坪。
摂津市一津屋、淀川の堤防沿いの建て売り住宅。
表札には大きく「木村」、そしてその左下に小さく「横山やすし」と書かれてあるが、ごくごく普通の簡素な住まいだった。
やすしは収入が増えても食べるものも着るものも変わらず、付き合う人間が名士になるなどの変化もしなかった。
この淀川から300mの家を選んだ理由はボート。
吉本に
「節税のために個人事務所を持った方がいいですよ」
といわれても
「節税は脱税」
といって聞かなかったやすしは、代わりに淀川にボートの練習場をつくった。
マリーナ、競艇用ボート、ターンマーク、計測用の時計を置き、そしてボートチームもつくって、メンテナンス、遠征などに数千万円を使った。
そして摂津から道頓堀の戎橋までボート通勤。
淀川を管轄する摂津市は見て見ぬふり。
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落語家の林家木久扇もやすしが気が合った1人だった。
番組でやすしと一緒になって電話番号を交換。
それから何日も経たないうちに、夜、電話がかかってきた。
「もしもし。
ワイや。
横山やすしや。
テレビの収録が終わったから、これから六本木に飲みに行くで。
出てこんかい」
「すいません。
明日も朝、早いので」
「なにいうとんのや。
芸人が夜遊ばんでどないするんや。
ええから来い」
それでも木久扇は丁重に断わり続け、やっと電話を切った。
「やれやれ」
しかし1時間後、家の前でタクシーが停まり、
「ここや、ここ」
という大きな声が聞こえたので居留守を決めた。
やすしは
「コラッ、おるんやろ。
出てこんかい」
と叫び、物干しざおで雨戸を叩き始めた。
「コラッ、顔みせんかい」
近所迷惑も考え木久扇が仕方なく窓から顔を出すと
「おるやないか、コラ!
下りてこいや!。
六本木に行くで」
と待たせていたタクシーで、そのまま六本木に連れていかれた。
店に入るとニコニコして飲んでいたのに突然
「コラッ、なんやお前」
「コラッ、貧乏人」
と隣りの客を蹴り始めたので
「すいません、すいません」
とひたすら謝った。
「ひどい目に遭わされ、お金まで払ってあげて、そういう状況も含めて面白かった
行動も発想も放つオーラも独特だった。
いつ何が起こるか、どこでどんな反応をするかわからない。
常識をまったく気にしない。
わざと型破りを演じていたわけでもなく自然体だったんです。
常に自分の気持ちに正直に行動して、人生を目いっぱい楽しんだんじゃないでしょうか」
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一八は小学校高学年の頃、やすしにクラブに連れていかれ、オレンジジュースを飲みながら父親がいい匂いがする女性とイチャつくのをみていた。
やがて眠くなりアクビをすると
「長男、ホテルに帰れ」
といわれタクシーでホテルへ帰って寝ていた。
深夜、目が覚めると背後でベッドがきしむ音と
「こ、どもに、聞こえる」
「大丈夫や」
という声が聞こえた。
起きていることがバレないようジッとし、押し殺すような女性の喘ぎ声を聞き続けた。
またやすしは1度、東京のホテルで愛人といるところを嫁、啓子に踏み込まれたことがあった。
娘の光を伴って現れた啓子は愛人とケンカを始め、やすしは
「光、危ないから隠れとこ。
後は2人で決めてくれ」
といって娘とバスルームへ逃げた。
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横山やすしの長男、一八と西川きよしの次男、弘志は、
「お前らが来たらみんなお年玉あげなあかんから禁止」
といわれていたが、
「どうなるんやろう}
と正月のなんば花月に潜入。
普通に公演を観に行ていたが、いろいろな人から声をかけられ、そして1人、86万円ずつもらった。
そして一八は預金口座をつくってもらい、弘志は全額没収された。
一八は中学校卒業後に芸能界入り。
所属は吉本興業で、TVドラマ「毎度おさわがせします」の主役に抜擢され、中山美穂と共演。
一躍、人気者となった。
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ボートにのめりこむやすしは、仕事に遅刻したり休んだりすることが増えた。
マネージャーが仕事をとってくると、基本的にやすしは2つ返事でOK。
一方、きよしは、ギャラは?、待遇は?、内容は?と細かく聞いた。
しかし1度約束すればきよしは必ず仕事場にやって来たが、やすしはボートのために現場に来ないということが普通にあった。
やすしが酒を飲んで現れたり 遅刻してくるときよしは怒り、ときには殴った。
「こわいやすし師匠が殴られているところを直視できなかった」
(島田紳助)
「一緒の出番のとき、やすし師匠がエラい遅れてきて、いつもキレイなオールバックが全部前になってて・・・
きよし師匠にワァーいわれて『キー坊、違うがな、違うがな』いうて」
(松本人志)
その怒りで若手を驚かせていた西川きよしだったが、実はさみしさを感じていた。
「どっちが大事いうたら漫才よりボートという時期が何年かあったんですよ。
堂々とそれをおっしゃるときに、僕はせやない、それは違ゃうでと思うんだけど、先輩がいうてるわけですしやすしさんがいうてるわけですから・・・
とやかくいえる筋合いのもんではないわけですよ」
やすしは、いつもギリギリに現場入りし、2日酔いで来ることも多かった。
結果、横山やすし・西川きよしは、舞台袖で簡単な打合をするだけでライトの下に駆け込んだ。
ハタ目には面白い漫才でも、西川きよしには
(遅れたで)
(間が違うで)
(ツッコミわいな)
と不満だらけ。
このような状態が続くうち、お互い、ピンの仕事が増え、漫才をする機会は減っていった。
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日本テレビ「久米宏のTVスクランブル」が開始。
毎週、日曜21時、旬の話題を取り上げスタジオのパーソナリティがコメントする生放送番組。
NHKの大河ドラマが裏という番組に久米の相手役として、久米自身の強い希望で横山やすしが起用された。
選挙特番中にくしゃみをして、スタジオの観客に
「鼻かみ(ティッシュペーパー)持ってないか」
と話しかけ、久米は
「生放送中なんだからティッシュペーパーなんか取りに行かないで!!
誰かティッシュあげて下さい!!」
と声を荒らげた。
ゲストの国会議員に対し
「あほんだら」
と放送禁止用語を含めて口撃。
批判を浴びると次の回は
「×」
を大きく書いたマスクをつけて出演し
「今日は黙秘権」
といったきり、発言拒否。
酒に酔った状態で出演したり、悪態をついたり、本番中に勝手にトイレにいったり、寝てしまったり、番組終了を待たずにスタジオからいなくなったりもした。
しかしやすしの毒舌と本音トークは大ウケ。
「本音のやすし」
とフューチャーされた。
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