「月下の棋士」に「将棋の渡辺くん」 棋士が関わっている将棋漫画たち
2017年6月3日 更新

「月下の棋士」に「将棋の渡辺くん」 棋士が関わっている将棋漫画たち

「月下の棋士」「ハチワンダイバー」「3月のライオン」。専門的な作品には専門家の助言が必要なのは将棋漫画においても同じこと。なかには将棋指しが原作、原案を担当している作品もある。将棋指しを描いた物語、将棋指しが描いた物語。そこに差はあるのだろうか。

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 月刊アフタヌーンに2004年から掲載されていた将棋漫画。制服を着ているかわいらしい女の子が表紙だったので部活かなにかでがんばる漫画かなと思っていたのだが、
しおんの王 4

しおんの王 4

 濃い人も出てくる。そもそもアフタヌーンなのだからポップな日常学園モノであるはずがないか。
 作画は安藤慈朗。イラストレーターとしての活動が多かったようで絵の1枚1枚に劇画に近い印象を受けるが、わりあいシャープな絵柄はさっぱりとした中年や青年、少女たちを描くことに向いているような気がする。その割に濃いコマもあって、特にベテラン棋士にして鬼と呼ばれた棋士・神園修九段は文字通り鬼気迫るものがあった。
 「しおんの王」は漫画と監修、という形式ではなく《原作原案と作画》という表記をされている。原作担当はかとりまさる。基本的には林葉直子と表現したほうが通りが良いだろう。

 林葉直子作品は今で言うライトノベル的なものなのだが、
とんでもポリスシリーズ

とんでもポリスシリーズ

ウワキなあいつを指名手配―とんでもポリス3
キスだけじゃイヤシリーズ

キスだけじゃイヤシリーズ

キスだけじゃイヤ (上)
 少女漫画に近い表紙である。というかこれらの表紙を描いていたのは少女漫画家が大半だったらしく、少女漫画の読み手を少女小説に、少女小説の読み手を少女漫画にという一種のメディアミックスが展開されていたようである。
 これは林葉直子がどうこういうというよりかは刊行していた講談社X文庫、講談社X文庫ティーンズハート、講談社X文庫ホワイトハートといったレーベルのコンセプトにあわせたものだろう。時代の影響もあったはずで「とんでもポリス」は1988年、「キスだけじゃイヤ」は1991年から始まっている。

 余談だが同じホワイトハートレーベルでも小野不由美の十二国記シリーズは一般向け文庫で再刊行されている。
 しかしこれは異例と言って良いだろう。そもそもホワイトハートから出た最初の作品が1991年、一般文庫で再刊されたのが2000年であり大きなタイムラグが存在している。
月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

 「しおんの王」には将棋監修がついていない。かとりまさるが林葉直子であることを知っていれば当然なのだが私が最初に「しおんの王」を読んだ時は一切わからなかったし、また気にもならなかった。だが作品の内容としてはかなり将棋に迫っている部分があり、棋士の考え方や勝負に関するエピソード、台詞などが効果的に設置されている。

 林葉直子は女流棋士。師匠は米長永世棋聖なので先崎学九段の同門である。先崎九段は1970年生まれ、林葉直子は1968年生まれなのでほぼ同世代だが、少年少女の2歳違いは大きい。先崎と林葉はよく喧嘩をし、先崎のほうが泣かされていたらしい。
 林葉は最初奨励会に属していたが、棋士にはならず女流棋士になった。プロ入りしたのが1980年。1982年には早速タイトル《女流王将》を獲得した。14歳である。そのままなんと10連覇してしまった。
 当時は1969年生まれの中井広恵、清水市代とともに三人娘や女流三強と呼ばれていたが94年不意に失踪。1995年、女流五段で連盟を退会した。女流五段であった。

 「しおんの王」は本筋のストーリーがサスペンスであり、こちらには賛否両論あるが、個人的にはやはりキャラクターの設定と背景、演出、絵のレベルそして将棋の取り上げ方が優れているということで一押ししておきたい。2007年にアニメ化されているのだが、その出来も良かったように感じる。

女流と言えば

 2000年に中学生棋士として登場し、20歳からタイトル戦で奪取と防衛を続けている渡辺竜王。夫人は伊奈めぐみさんという人で、彼女は元女流育成会の会員だった。
 独特の視点と語り口をもつブログが以前から人気だったが、ついに連載が始まったのが2013年のこと。掲載誌は別冊少年マガジン。タイトルは「将棋の渡辺くん」。
将棋の渡辺くん

将棋の渡辺くん

 原作や作画がおらず彼女ひとりでつくっているというのがポイントである。そのうち漫画家棋士という人物も登場するのかもしれない。
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