「ゲームボーイ版」テトリス発売の裏で起きていたライセンス問題。日本初のRPGザ・ブラックオニキス開発者が単身ソ連に乗り込み解決のきっかけを作った。
2018年6月14日 更新

「ゲームボーイ版」テトリス発売の裏で起きていたライセンス問題。日本初のRPGザ・ブラックオニキス開発者が単身ソ連に乗り込み解決のきっかけを作った。

1989年6月14日に任天堂から発売された「ゲームボーイ(GB)版テトリス」。書籍『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』(白揚社)には、日本初のRPGザ・ブラックオニキス開発者ヘンク・ロジャースが、ゲームボーイ版発売に尽力した様子がスリリングに描かれています。

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ヘンク・ロジャースがELORGを見つけ出し、ソ連の官僚たちとうまくやりあったおかげで、GB版テトリスのライセンス交渉が何とかスタートするわけですが、そもそも、なぜこんな野放図なライセンスの転売が行われていたのか。

そのときソ連と直接契約していたのはロバート・スタインだけ。詳細は本を読んでほしいのですが、ざっくり説明すると、非公式なライセンスの転売はこんなふうになっていました。スタインから英ミラーソフトと米スペクトラム・ホロバイトへライセンスが供与され、それぞれからPC版が発売。その後、ミラーソフトは日本市場のPC版をロジャースに、家庭用ゲーム機版とアーケード版をテンゲンに売却。さらにテンゲンも転売を続け、そのなかにはロジャースが獲得したファミコン版の権利もありました。

上の写真は、ロジャースの会社BPSが発売していたファミコン版テトリス。ELORGと交渉していたとき、すでに発売されていたこのカセットも、非公式なライセンス供与によるものだったのです。(写真右下にあるElectronorgtechnicaはELORGの正式名称)

そんなふうに、複数の国でさまざまなプラットフォームで展開されていたのに、スタインとソ連との間で結ばれた契約書に明確に記述されていたのはコンピューター版のテトリスについてだけ。この会談で、ロジャースはそのことに気づきます。『テトリス・エフェクト』には書かれていませんが、おそらくこのとき、ロジャースはソ連の官僚たちに何か入れ知恵をしたのではないでしょうか。

何しろ、資本主義の概念を一切理解しておらず、スタインら西側企業からひどい扱いを受けていたソ連の官僚たちが、後日面会したロバート・スタインに対し、契約書の文言を変更するように迫ったのです。それも、まるで手練れのネゴシエーターのように。その変更は時限爆弾として機能し、スタインやライセンスの転売を行なった英米企業の目論見をつぶし、世界規模で絡みもつれていたライセンスの網からテトリスを解き放つのです。

この「時限爆弾」は本書の肝なので、この記事では明かしません。ぜひ本を読んで確かめてみてください。

【『テトリス・エフェクト』はテトリスを救った男の物語】

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書籍『テトリス・エフェクト』は、1本のビデオゲームに魅了され人生まで変えられた男たちの群像劇を小説のような筆致でつづったノンフィクション。と同時に、テトリスをプレイしたときに起きる心理的な効果や、ゲーム性を数学的に分析するコラムなどもある、テトリス大全ともいえる本です。さらに当時のビデオゲームシーンの描写がすばらしく、80年代にタイムスリップしたような感覚が味わえるのも醍醐味の一つ。映画のようなストーリーを楽しむもよし、テトリスについての雑学を得るもよし、80年代のビデオゲーム黎明期の熱気に浸るもよし、いろんな読み方があり、たくさんの人が楽しめる本になっています。

ですが一番の売りは、ヘンク・ロジャースとアレクセイ・パジトノフの友情の物語として読めるところではないでしょうか。ロジャースはパジトノフのアパートを何度も訪れ、ゲームについて語り合います。家族ともつきあうようになり、任天堂の関係者以外で初めてゲームボーイで遊んだのは、パジトノフの子供たちとも言われているそうです。ソビエト連邦が解体した後、ロジャースはパジトノフのアメリカ移住を支援するほか、ELORGと結ばれていた搾取的な契約でも一肌脱ぎます。テトリスから一銭も利益を得られていなかったパジトノフがその後どうなったのかまで描かれ、さわやかな気持ちで本を閉じることができます。

ザ・ブラックオニキスで日本初のRPGという金字塔を打ち建てたヘンク・ロジャースは、テトリスとその作者をライセンスと契約の泥沼から救い出しました。そのおかげで、パジトノフが仕事の合間に趣味でつくったテトリスは、ゲームボーイという最強の相棒を得て世界中の人々を魅了しました。30年以上がたったいまもその伝説はとどまることを知らず、2018年6月7日に発表されたPS4(PS VR対応)『Tetris Effect(テトリスエフェクト)』(奇しくも本と同名)はその新たな1ページ。新しいテトリスが発表されるこの年に、テトリスが初めて世界を沸かせた、あの熱い時代の物語を読んでみるのもおつなものですよ。

白揚社へのリンクはコチラ

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